「恋」


 恋の家の黒い門扉の前で、余所行きを着た宗介が恋を呼んだ。

 恋は薄いグレーのかちっとしたワンピースを着て、丁度ドアから出てくるところだった。



「今日は駅向こうの料亭で食事会。家族同士で大事な話があるから、お前もちゃんとしなよ。」

「分かってる」

「僕は今日が来るのが待ち遠しかった。恋との結婚が一応形として見えるから。良かった、今日が来て。晴れててさ。」



 そう言ってから、宗介は空を見上げた。


「幼なじみって特別じゃない?」


 宗介が聞いた。


「家族同士で出かけられるし。生まれた時から一緒に居るし。一緒に成長して、一緒に大きくなる。別離なんてありえない。きっと、僕たちは一生離れない運命なんだ。死んでもこの関係は続くよ。僕は永遠にお前の彼氏の幼なじみだ。お前の事だけ昔から一途に思ってる。僕は自分の運命に感謝してる。こんなに綺麗に晴れて、空も僕らを祝福してる。」


 それから恋に言った。


「お前が大切。言葉じゃ言い表せない。悩みがあったら解決してやる。壁があったら壊してやる。もし傷を負ったら癒やしてやるって約束する。心に誓って、これからずっと守っていくって約束するよ。言っとくけど、」


 宗介は言葉を切った。



「大事にしてやる分、裏切ったら許さない。樋山とか向井とか、そういう奴らと連絡を取らないこと。本当は喋られるのだって悔しいんだ。お前はいまいち曖昧だし。まったくあいつらは余計でしかない。恋の事を考えるのは僕だけで良いのに。お前は僕以外見ない、これからそうできるよな?」

「……」

「今日は結納の話。どう切り出そうかな。僕が全部言うから、お前はおとなしくしてればいいの。父さんも母さんも僕が今日言おうとしてるの知ってるし。こっちは全部了承済み。親戚連中も僕が結婚前提の恋人が居るの知ってるし。ああ、楽しみ。やっとこうなった。」

「結納してからは断れないんでしょ?」



 恋が言うと宗介は首を傾げてニコっと笑った。
 これは宗介が機嫌を悪くしたサインだ。

 
「なんで断るの?」


 恋は小さくため息をついて、余所行きを着てドアから出てきた母親について車に乗った。
 すぐ後ろを宗介の家の大きな車が付いてくる。