恋と宗介が下に降りていくと、恋の母親がダイニングで雑誌をぱらぱらと見ながら恋を待っていた。
「あら宗介くんも一緒だったの。いらっしゃい。」
「お邪魔してます」
「さっき宗介くんのママから連絡があったわよ。」
恋の母親は雑誌を置いて言った。
「今度一緒に食事でもどうって。なにか話があるみたいだったわよ。」
「ああ、それ」
宗介が言った。
「多分結納の話ですね。」
「結納?」
「結婚。もう決めたから。親に頼んでるとこなんです。おばさんも考えてください、僕たちの結婚。僕たちの将来に関わる、まじめな大事な話なんです。」
宗介が笑顔で言うと、恋の母親は笑いながら、
「ちょーっと、気が早いわねえ」
と言った。
「結納って何?」
恋がきょとんとした顔で聞いた。
「知らないの?。結婚する前に、約束を確認し合って、お金と贈り物を贈って、両方の家の絆を深めることを結納っていうんだ。将来の予定、恋分かってるだろうね?」
「ええっと……」
「僕の予定はもう決まってる。大学を卒業したらすぐ、恋と結婚する。ハネムーンに行って、この近くに新居を構えて、将来的には、子供は1人。子供が生まれるまでは2人でゆったり暮らすこと。」
「うーん……まだ先な気が……」
「先の事考えるのって楽しくない?。僕はお前の花嫁姿ばっかり考えてるよ。挙式は沢山人を呼んで盛大にやろうね。ドレスはシンプルで上品なのが良い。ちゃんと白いヴェールもつけてよね。」
宗介が機嫌良く言ったが、恋は美風の事を思い出していた。
美風も丁度宗介と同じ様に、恋の花嫁姿を想像してその事を話していたのだ。
「ドレスはプリンセスタイプが良いって、樋山くんが」
申し訳なさそうに恋が言うと、宗介は眉を釣り上げた。
「樋山あ?。お前、樋山とウェディングドレスの話なんかしたの?。違反。それは僕との約束の。どういう考えなのか1回説明して貰おうか。」
「私誰とも結婚しない……」
「嘘ばっか。じゃあ僕と付き合ってるのは何なんだよ?。僕は断然結婚前提だからな。親にも親戚にもそう言ってある。絶対にうちに嫁いで貰うよ。樋山なんかに遠慮なんてしてなくて良い。あいつは部外者。関係ない。これは僕たちだけの問題。僕の家とお前の家とのね。」
宗介はそう言って恋を睨んでから、今度は笑顔を作ると、恋の母親の方に向いた。
「今度の食事会、絶対来てください。大事な話があるんで。その結納についての話なんですよ。」
「宗介くんは、本当にしっかり者ねえ……」
恋の母親は、笑いながら、雑誌を棚に置いた。

