朝、教室には朝のホームルームを待つ生徒達の喋り声。

 今日は恋とは関係ないグループの女の子達が先生の言った事について2、3人で集まって小声で噂している。

 廊下から恋がやって来て、ドアを開けて教室に入った。

 席に着くと鞄の中の物は机へ。鞄はロッカーへ。

 そこで、恋に気付いた理央が手をあげて、おはよう、と声をかけた。


「恋、昨日、夜何食べた?」

 
 恋の机の所まで来ながら、理央が聞いた。



「私は夜は唐揚げ食べたよ、南蛮漬けにして。甘酸っぱくておいしかった。好物なんだ。昨日は幸せだったな。」

「昨日の夜はハンバーグだったよ。」

「ハンバーグかあ。ハンバーグも良いよね。ソースたっぷり付けて食べて。」



 恋達が話していると、ロッカーから回って恋の席に宗介が歩いてきた。



「恋!」

「宗介。」

「食べ物の事ばっか話してないで、たまには何か考えろよ。少しは勉強でもして。」



 宗介はちょっとだけ首を傾げた。



「学校の勉強以外でも。自分のためになることあるだろ。自炊したり家のことしたり。自分磨きに何でも。」

「そんなの。」



 斜め前の席から恋の方を振り向いた美風が言った。



「お手伝いさんにやってもらって、新田さんは遊べばいいよ。わざわざ考えないで、気楽に構えてればいい。」

「樋山」

「上野はがめつい。新田さんと一緒に楽しい事を考えようとしたって、僕がいる限りそうはいかない。」



 理央が聞いた。


「楽しい事って、何か思いつく?」


 恋が言った。



「漫画とか音楽とか。」

「こう、明るくなれて面白い事が楽しいんじゃない?。楽しい事みんなで考えて、みんなで楽しもうよ。」

「あんまり突き詰めると分かんなくなる。考える事も一種の楽しみだけど。何をするのが良いのかな。」

「新田さん、僕と一緒にそういう活動しようよ。一緒に迂遠な事とか考えて楽しもうよ。精神的にさ。2人でやろ。」

「うざ。樋山、それは彼氏の権利。恋、お前の彼氏は誰?。樋山はひっこんでろよ。」

「迂遠な事って、恋愛で映えるよね。永遠とか、一瞬とか、掴めない物事とか。そう思わない?」

「確かに。」



 恋が頷くと、ふう、とため息をついた宗介が言った。


「恋、今考えないで、僕と2人でいる時に考えろよ。僕の家に帰ってから、2人きりで。」


 そうはさせじと美風が恋の机に体重を乗せた。 



「僕がいる時にしなよ、新田さん。そういう遊び恋愛であるんだ。ねえお願い。僕とやってよ。」

「迂遠な事は考えるとふわふわした気持ちになる。楽しい事っていうよりはロマンチックで不思議な感覚だけど。恋はいつも取り合いだよね。」



 理央が笑ったところでチャイムが鳴った。