朝。
花壇のある学校の前庭には、旅行用の大型バスが入ってきて停まっていた。
並んだ生徒達に代わって先生が荷物をバスの中へ運び込んでいる。
恋が旅行用のボストンバックを渡すと、先生は名前を確認してから他の生徒の荷物と一緒にトランクにバックを入れた。
恋はわくわくしながら階段を上ってバスに乗り込んだ。
クラス全員がバスに乗車した後、先生が点呼を取って、車は出発した。
しばらくして。
恋の隣の席に座ってしおりを見ながら、理央が口を開いた。
「何時頃に着くと思う?恋。」
「10時って書いてなかったっけ。」
「予定通り着くと思う?。このバス乗り心地良いけど、大きいからか遅い気がするんだよね。中カーテン付いてて綺麗だけど。」
窓の外の横断歩道が赤信号になった。
理央はそう言うが、恋はそんな事はないような気がした。
「着くまで何する?。しりとりはつまんないし。」
黙っていた恋にふいに理央が閃いたように言った。
「そうだ、恋、告白ゲームしようよ。」
「告白って?」
「秘密の話して、盛り上がろうよ。恋、なんか言って。誰にも言わないから。秘密、あるでしょ。」
「え、あるけど……」
「教えて教えて。ねえ、良いでしょう?。」
恋はシートから振り返って、後ろの席の宗介が多紀と話をしているのをそっと確認した。
宗介はペットボトルのお茶を飲みながら歓談していて、自分達を見ている恋の様子には気付いていない様だった。
「何なに?。絶対誰にも言わないって約束する。」
きらきらした目の理央に恋は声を潜めた。
「私、狐のあやかしなんだ」
「はい?」
「あやかしの末裔で」
「どういう事?」
目をパチクリさせた理央に恋は辛抱強く説明した。
曰く、自分はあやかし狐の末裔であると。
いつでも変身できるが、宗介に怒られるため普段それはどうしてもできないと。
「理央、狐、嫌い?」
「いや、ごめん、ちょっと、意味が分かんないんだけど。」
恋が俯いていると理央は吹き出した。小声で言う。
「わかんないけどいいや。狐なんだね!」
「理央、もし友達が狐だったら嫌?」
「ぜーんぜん。むしろ嬉しい!。狐って可愛いよね。」
にっこり笑った理央に恋は自然に笑顔になる。
車は快速でキャンプ場へと向かった。

