「まったく、この書類、どこに仕舞ったのかしら...」
 
 生徒会室に響く美亜の嘆き声。



高校二年生の秋、文化祭の季節がすぐそこまで迫っているというのに、会長としての仕事は山積みだった。




黒髪ストレートが風になびく(ように見えたのは、ただ扇風機の風が強かったからだ)。





左目の下の涙ボクロは、普段ならチャームポイントになるのだが、今は書類を探す焦りからか、少しだけ不機嫌そうに見える。
 





 「美亜ちゃん、それは確か...昨日の『明里のカエル観察日記♡』の裏に挟んだはずだよ?」
 




 ふわふわとした雰囲気そのままに、書記の明里がおっとりとした声で告げる。




彼女のつけまつ毛が、片方だけ心なしか垂れている。





美亜は眉をひそめながらも、明里の言う通りに動いてみた。







すると、果然、昨日のカエル観察日記の裏から、件の書類が出てきた。






「...どうしてこんなところに挟んであったのよ。」





 
 「だって、カエルさんの絵、とっても可愛かったんだもん!」
 





 「カエルの絵と、生徒会会計の書類、関係ないでしょ!」





 
 美亜の鋭いツッコミに、明里は「えへへ...」と、どこか楽しそうに笑うばかり。






この天然ボケっぷりには、もう慣れるしかないと美亜は諦めかけていた。






そんな二人のやり取りを、窓際の席で鏡を覗き込みながら聞いていたのが、庶務係のナルシスト直人だ。





彼は自分のナルシストっぷりを遺憾なく発揮し、生徒会室の空気をさらにカオスにしていた。




 
 「ほう、美亜。君もそんなことで悩むのか。やはり、美しく悩む様も絵になるな。まるで、現代のヨハネス・フェルメールの絵画のようだ。

いや、それ以上か。私の隣にいる君は、まさに『真珠の耳飾りの少女』と『モナ・リザ』を足して二で割ったような、いや、私の美貌があればそれすら霞んでしまうな。

さて、この書類、私がお預かりしよう。

私という芸術家が、この書類の美しさを最大限に引き出してみせよう。」



 
 「なげーな。いや、なんであんたに預けなきゃいけないのよ!それに、フェルメールでもモナ・リザでもないし!」





 
 「えー?でも、直人くんの顔、とっても素敵だよ?カエルさんみたいで、つるつるしてる!!」






 
 「カエル...?明里、それは褒めてるのか?それとも俺もをディスってるのか?」