月曜日の昼休み。 久しぶりに唯と二人きりでご飯を食べることになった。
「星奈に話があるから」って、唯がみんなをやんわり追い出してくれて、 空き教室にふたり。
静かで、ちょっと懐かしい感じ。
中学の頃、よくこうして話してたなって思い出す。
唯が、少し声を落として言った。
「そういえば噂なんだけど、九堂くんって片親なんだよね? 通知表渡しとか、いつもお父さんなんだって。聞いてみてよ」
私は箸を持ったまま、手を止めた。
「…さすがに聞けないよ~!」
唯は「まあ、そうだよね」と言って、すぐに話題を変えてくれた。
でも、わたしの胸の奥には、少しだけ重たい気持ちが残った。
九堂くんのこと、もっと知りたい。 でも、家庭のことは、九堂くんが話してくれるまで待ちたい。
それが、私達の距離感。 彼にとって、心地いい場所でいたいから。
九堂くんのこと、まだ知らないことが多い。
大きなお家に住んでること。 弟がいること。 家政婦さんがいること。
それくらいしか、私は知らない。
―― 連絡先も知らない。
話すようになって、距離は少しずつ近づいてる気がするけど、本当の九堂くんのことは、まだ遠い。

