夕暮れでも薄暗い路地の奥。


 壁にもたれて煙草を弄ぶ長身の少年がいた。

制服の着崩し方も、鋭い目つきも、
近寄りがたい雰囲気も
――間違いない。神谷凛斗。

 彼は目だけを動かし、こちらを射抜くように見た。
狼のような眼差しで。

「……何しに来た」

 低くかすれた声に、喉が詰まる。

 凛斗は鼻で笑った。

「まさか婚約のあいさつか? 逃げた方がいいぞ。
お前みたいな“地味子”が俺のそばにいたら、
一晩で喰い殺される」

 ひどい言葉なのに、胸の奥が熱くなる。
その声の奥に、かすかな迷いと優しさを聞き取ってしまったから。

「……でも、子どもの頃、約束したよね。
大きくなったら、わたしを守るって」

 凛斗の瞳が、一瞬だけ揺れた。
 そして次の瞬間、顔をそむけて吐き捨てる。

「……あれはもう終わった話だ」