東京の華やかな一角にあるキャンパスが今年も薄紅色に包まれた。
春の太陽の温もりとにおいに気もそぞろになる4月。私は無事、大学3年生になった。
まだ高校生・未成年者の雰囲気をまとう新入生たちをまぶしい思いで横目で見ながら大教室を目指す。陽が重厚な石造り校舎の壁をだいだい色に染めあげる。教室に忘れものをしてしまった。
妙に浮かれる季節だな。春って。階段を上るパンプスのかかとの音をちょっとだけリズミカルに刻んでみる。ひるがえる黒いワンピースのすそ。切り返しがふわっと広がって浮くのが好き。同時に跳ねるゆるいウェーブのかかった背中までの黒髪。
(あ、良かった!! あった!!)
大教室の一番後ろの席にぽつんと置いてある薄い本。だいぶ年季が入って表紙やページが色褪せている。たくさんの学生や先生方の手を経て、今、私の手にあるのだろう大学図書館の本。フランス語の小説。
「ん? 付せん?」
はさんだ覚えのない小さな付せんが貼ってある。真ん中のページに。薄いピンクの短いもの。細い黒のペンで下向きの矢印が書いてある。
私はそのページを開いてみた。
- 犯人こいつね。
春の太陽の温もりとにおいに気もそぞろになる4月。私は無事、大学3年生になった。
まだ高校生・未成年者の雰囲気をまとう新入生たちをまぶしい思いで横目で見ながら大教室を目指す。陽が重厚な石造り校舎の壁をだいだい色に染めあげる。教室に忘れものをしてしまった。
妙に浮かれる季節だな。春って。階段を上るパンプスのかかとの音をちょっとだけリズミカルに刻んでみる。ひるがえる黒いワンピースのすそ。切り返しがふわっと広がって浮くのが好き。同時に跳ねるゆるいウェーブのかかった背中までの黒髪。
(あ、良かった!! あった!!)
大教室の一番後ろの席にぽつんと置いてある薄い本。だいぶ年季が入って表紙やページが色褪せている。たくさんの学生や先生方の手を経て、今、私の手にあるのだろう大学図書館の本。フランス語の小説。
「ん? 付せん?」
はさんだ覚えのない小さな付せんが貼ってある。真ん中のページに。薄いピンクの短いもの。細い黒のペンで下向きの矢印が書いてある。
私はそのページを開いてみた。
- 犯人こいつね。



