文化祭から数日。

あの日のドレスの記憶は、今も心の奥でふわりと温かく残っていた。

けれど、同時に「お姫様になれたのは一日だけ」という思いもあって、
私は普段どおりの地味な制服姿に戻っていた。


放課後、
図書室で借りた本を抱えて廊下を歩いていると、不意に肩に誰かの手が伸びてきた。

「おい、ちょっと待て」

振り向くと、背の高い男子が立っていた。
きりっとした目元に整った顔立ち、制服の着こなしもどこか洒落ていて、
ひと目で「イケメン」だとわかる。

けれど、その第一声は強引で、私は思わず一歩下がってしまった。

「な、なんですか?」

「お前、この間の文化祭で姫やってただろ?」

「……えっ!」

心臓が跳ね上がる。どうしてそれを――。

「やっぱりな。あの時見たときから気になってたんだ」

「き、気になって……?」

「そう。俺の目、節穴じゃないからな。
お前、普段は地味にしてるけど……
ドレス着てた時、まるで本物の姫だった」

ずいっと顔を近づけられ、慌てて下がる。

「ち、近いです!」

「ふん、照れてるのか? かわいいな」

「か、かわ……っ!? な、なに言ってるんですか!」

にやりと笑うその様子に、私は思わず「野獣みたい」と思った。

ぐいぐい距離を詰めてきて、こちらの反応なんてお構いなし――苦手だ、と思う。

けれど、それから何度も彼と顔を合わせることになった。