「第二次世界大戦に敗戦した日本は、GHQの支配下に置かれ…」
社会の教科担任である太いフレームのメガネをかけた若い男性教師が黒板にチョークを走らせて、へたくそな絵を描く。
「誰かに協力してもらわないとダメなんだよなあ…」
男性教師のへたくそな絵をノートに書き写しながら、ため息と独り言がこぼれる。
私が撮りたいと思っている写真を撮ってコンクールに出すには、2人に協力してもらわないといけない。
しかしコミュ障陰キャの私にそんなネットワークはない。唯一の友達である碧依は部活が忙しそうなので彼女には頼めない。
うーん、と机の上で思い切り体を伸ばすと、教科書に手が当たって床に落ちてしまった。
「ん」
かすかな声が聞こえた。気のせいかと思って気付かぬふりをしていたら、コツコツと机をたたかれる。
右に向くと、隣の席に座っている不愛想なイケメン(これも碧依の受け売り)クラスメイト 瀬川遥樹が私の教科書を差し出していた。
「え、あ、ありがとうございます」
差し出された教科書を受け取ると、彼はむすっとした無表情で前に向き直った。
「はぁー…」
人とのコミュニケーションが苦手な私にとって、よく知らないクラスメイトと関わるのは苦痛だ。
触らぬ神に祟りなしで、関わらない方がいい人ならなおさら。
寿命が縮んだような気持ちになりながら私はもう一度教科書を開きなおした。



