次の日。
枕元でぶるっと震えるスマホの感覚で目を覚ました。
寝ぼけ眼でスマホを手に取り、ホーム画面にポップアップした通知を何も考えずにタップする。
【今日9時から予定入っちゃったから、10時半からでいい?】
私、遥樹くん、柚音の3人のグループLINEで発言したのは柚音だった。
私は別に何時でもよかったので、【私はいいよ~。プール掃除を条件に開けてもらうから、着替えの体操服があった方がいいかも】と吹き出しを投下した。
パジャマの胸ポケットにスマホを押し込んで、私は階段を駆け下りた。
人気のないリビングが私を迎える。お母さんはすでに会社に行ってしまったのだろう。
すでにエアコンがかかっていたリビングの床に素足で触れると、ひんやりして心地いい。
ガラスのローテーブルに置かれたテレビのリモコンを操作してYouTubeを立ち上げる。
【朝に聞きたい音楽】と検索し、1番上にでてきた洋楽のプレイリストを適当にタップして決定ボタンを押した。
その洋楽をBGMにして、私はキッチンの冷蔵庫を開けてキャベツとビアソーセージが入ったプラスチックの器を取り出した。
器をキッチンの調理台に置いて再び冷蔵庫を開け、ラテベースと牛乳を取り出す。
ステンレスのタンブラーにラテベースと牛乳を注いでカフェラテを作って、器の隣に置く。
冷蔵庫からパンを取り出してトースターに入れて、焼いている間にふと時計を見る。
「8時半⁉寝すぎた…」
柚音が約束を変更してくれていなかったら、2人に約束を取り付けた張本人が遅刻という失態を犯していたところだろう。
トースターが焼けたか確認しようとトースターの扉を開けると、ちょうどそこで焼きあがったのだろう、ちーんという音が鳴った。
薄い焼け目が付いていただけだったので、私はトースターを閉じてダイヤルを調節し、また焼けるのを待つ。
洋楽のリズムに合わせて体を揺らしながら部屋をぐるぐる歩き回ると、パンが焼けたことを知らせる音が鳴った。
意気揚々とトースターを開けると、濃いきつね色に焼きあがった食パンが顔をのぞかせた。
「焼きすぎた…」
私は肩を落としながら皿にトーストをのせて調理台の上に置く。
いつも通りの朝ごはんに手を合わせて小声で「いただきます」と言ってから、そのまま調理台の前に立って食べる。
洋楽プレイリストと立ち食いという非日常に浸りながら食べる朝ご飯はいつもよりも少しおいしく感じた。



