「がんばるか…」
何を頑張るのかわからないが、自分に活を入れて、澄羽とのLINEのトーク画面を開いた。
そっと指を伸ばして右上の電話マークを押し、音声電話をかける。
「もしもし」
2コールで電話に応答してくれた澄羽の声は少し硬かった。
「もしもし澄羽―?コンクールの写真、縄野さんと瀬川くんが協力してくれるってさ。」
「縄野さん?」
彼女の声に少し緊張が滲んでいる。
「F組の縄野柚音だよ。瀬川くんは澄羽の隣の席の男子。」
彼女の問いに返答したわたしは、ふと考えた。
縄野柚音は確か退部するって言ってたけど、結局どうするんだろう。
「なるほどね。ありがとー。」
結局、縄野柚音が吹奏楽部を退部するかも、ということは言い出せないまま話は終わってしまった。
その件で連鎖するようにわたしの頭に楽器の件が浮かんだ。
「あと、楽器も全部1個か2個か余ってるらしいから貸してもらえるよ。部室に固めておいとくってさ」
鍬田部長の言葉を思い出し、部室にいらない楽器を固めておいてもらえるということも伝えた。
「よかったぁ…風景画ぼっちツアー回避した…」
電話口から心底安堵したような澄羽の声が漏れる。
「美男美女に囲まれて澄羽は青春するんですかー。うらやましーよー、えーんえーん」
わたしはわざと泣きまねをして空気を和ませようとした。
「一応部活でーす。」
「瀬川くんにちゃんとアピりなよー?あんなイケメン逃したらもったいないよ」
思わず茶化すように言葉が流れた。
「だから部活ですって言ってるじゃんかー、遊びじゃないってば―」
「はいはーい。お風呂入んなきゃ。また明日」
澄羽に軽く返事を返し、わたしは電話を切った。
「言った方がよかったのかな…」
縄野柚音が吹奏楽部を退部するのかもしれないというのは、悪く言えば部外者である澄羽には関係のないことである。
でも、それを内緒にしているのもなんかよくない気がする。なぜよくないのかはわからないけど。
でも、本人が口止めしてほしいと言っているので、下手に言わない方がいいと思う。
考えれば考えるほどわからなくなったので、とりあえずお風呂に入ることにした。



