デイジーは失恋した。どうしてハルオ君の気持ちが変わってしまったのか、彼女には皆目見当がつかなかった。あんなに楽しかったのに。デイジーは3日3晩泣いてばかりいた。

よく失恋は麻疹のようなもので、時間が経てば癒えるというが、純粋なデイジーの深く傷ついた心はなかなか回復しなかった。身の回りにある多くのもの、例えば教科書やノートなどがハルオ君との思い出に結びついていて、勉強する度に彼のことを思い出してしまい、忘れることができないのだ。

そして考えに考えたあげく、回復するにはどこか遠くに行ってしまうしかないという結論に達した。デイジーはアルテミス星にいる限り、彼のことを忘れることは不可能だと思った。

そこでどこか遠くの惑星へ行くことに決め、メインコンピュータに個人用ロケットを発射準備するように命じた。研究者の爺がデイジーに秘密のパスワードを教えてあったのだ。ロケットに乗り込むとデイジーは涙を流しながら
「さよなら、アルテミス星よ。」と言って目の前にある電子制御板のスイッチを押した。

ロケットは滑らかに飛び立った。ロケットには十日分の食料と燃料しかなかったので、それまでに何とか住む場所と食べ物を見つけなければならなかった。何も考えずにとにかく悲しみから逃れたいという一心で宇宙空間に飛び出してきてしまった自分は、随分無謀なことをしてしまったと思ったが、もう遅い。

デイジーはコンピュータに指令を出した。
「私が住んでいたアルテミス星と似た環境の惑星を探してちょうだい。」
「わかりました。」
三日ほど経った頃、コンピュータがある惑星から送られてきた映像をキャッチしたと連絡してきた。

「どうして急に映像が私なんかに送られてきたのか謎だけど、一応見てみたいわ。モニターに映してちょうだい。」
モニターにはフクロウの顔をした一人の男が映った。

「マドモアゼル、お久しぶりです。今回はどういうわけかは存じませぬが随分大胆なことをされましたな。いや、無理に訳を聞いたり問いただすようなことは致しません。

実は私はこの数年にわたって地球という、太陽系にある美しい惑星に住み込んで、ここにある無数の植物の研究をしてきました。この惑星の植物はアルテミス星の植物に負けないくらい魅力的なものがたくさんあり、私にとってはパラダイスです。

その研究をしているうちに、マドモアゼルがお若いうちにそう、留学のような感じでこの惑星で一定の期間を過ごすことがあなたの将来のためになるのではないかと思うようになり、研究の傍らデイジーお嬢さまが快適に暮らせる施設を建造し、そろそろお呼びしようかと考えていたところであり、その意味で私にとってはちょうどいい機会だと思うのでございます。

マドモアゼル、いかがです?地球にいらっしゃいませんか?自然が破壊されていて、惑星規模での温暖化が進みつつあるとはいえ、まだまだ素晴らしい自然が残っております。可愛い小鳥たちや美しい花々は必ずやマドモアゼルの心を癒してくれるものと思いますが。」

「恥ずかしいことだけど、先のことなど何も考えずにアルテミス星から飛び出してきてしまったわ。爺の好意に甘える形になってしまうけど、どうかよろしく頼むよ。」

「ではあなたの宇宙船に電波を送り、地球に誘導いたします。7時間ほどで着くと思いますので、どうぞ穏やかなお気持ちでお待ちください。」
「爺、心から感謝するよ。」
「マドモアゼルのお役に立てて光栄でございます。」