デイジーは控えめな性格だが、自分でも不思議なくらいハルオ君に対しては積極的な行動を取ることができたのだ。ある時デイジーは廊下でハルオ君に近づき、
「ねえ、ハルオ君って英語が抜群にできるけど、数学はちょっと苦手みたいね。こういうのはどう?私が数学を教えてあげるからハルオ君は私に英語を教えてくれちゃうっていうのは?面白いでしょ?」

「えっ?どうして僕が?教え合うなら女の子同士でやればいいでしょ。」
普通ならここで引いてしまうところだろうが、デイジーは諦めなかった。
「私、どうしてもハルオ君に教えて欲しいのよ。お願い!」

 それ以来一日おきに放課後教室で二人っきりで勉強するようになった。机は横に並べていてお互いにわからないところや自信ない箇所を質問し、教え合った。

ハルオは本当は乗り気ではなかったのだが、始めてみると思ったよりはるかに楽しく、盛り上がった。このやり方だと苦手な科目も楽しく勉強できるので、学力アップが期待できるので、二人とも積極的に教え合うようになっていった。

一日おきとはいえ、しょっちゅう二人で教室で話しているので、さっそく二人はつきあってるなどと噂が立ち始め、この意外な組み合わせに生徒たちは驚くとともに、やっかみや妬みの声が聞こえ始めた。

二人ともそうした声は気にしないようにしていたが、ハルオにはある悩みが生じていた。それはデイジーはとても魅力的な女の子だということだ。並んで座っていると、話す時はお互いの顔を見合わせて話すが、彼女が教科書やノートを見ている時にそっと気づかれないようにそちらを向くと、彼女の胸の丸いふくらみや、スカートからのぞいているきれいな二本の足に悩まされるようになってきたのだ。

そんな時ハルオは自分たち二人がまだ性に目覚めていない幼い子供だったらどんなに気楽でいいだろうな、などと思った。中学3年生ともなると体が大人に近づいているのでそんな悩みに苦しめられるのだ。

 更にハルオにとって苦しいのは、両親の古い考え方だ。二人とも二兎を追う者は一兎をも得ず、つまり受験と恋愛は両立しないと普段から豪語しているのだ。もちろん両方ともうまくいったら最高だ。

お互いに教え合って楽しく勉強し、しかも成績が伸び悩んだりしている時にはお互いに励まし合って共に困難を乗り越え、合格して通う高校が別々だったとしても連絡を取り合い、時々デートしたり、それぞれの学校の文化祭の時には一緒にいろいろな展示などを見てまわり、アイスやたい焼きとか模擬店で美味しく楽しく食べる、そんなことができたら最高だ。

だが今のままではきっと恋愛にどっぷり浸かってしまうような気がするのだ。受験と恋愛のうちどちらかを取るとしたら、自分は男だから100%受験だ。受験に失敗することは絶対できない。

このまま恋愛にのめり込みながら受験して失敗したら絶対後悔することになる。悩んだあげく、デイジーとはお別れするしか方法はないという結論に達した。

デイジーはとっても可愛いし性格もいい。とっても惜しい。けれども今の自分は受験に100%集中しなければならないのだ。とっても辛いけど彼女を冷たく突き放すことにしたのだ。

 今日はまたいつものように放課後教室で二人っきりで勉強会をすることになっていた。ハルオは教室にやや早めに来て本を読んでいた。そこにデイジーがルンルン気分でやってきて笑顔で話しかけてきたがハルオはそれを無視した。

デイジーはハルオ君が本に夢中になってて聞こえなかったのだと思ってもう一度話しかけたが、ハルオ君はまた無視した。デイジーは3度、4度と話しかけたがハルオ君は応えなかった。ハルオ君の気持ちに気づいたデイジーは泣きながら教室から出ていった。