第二章:ひきこもり聖女、お城に連行されて大パニック!

「…………これ、夢だよね?」
目の前には、壮麗な黄金の馬車。
その周囲を囲むのは、キラキラ鎧の近衛騎士団。
さらに空からは、光の翼を持った天馬騎士団が優雅に舞っている。

そんなファンタジー全開な光景の中、
ルクシアはパジャマ姿で、固まっていた。

「なにこれ……なにこの異世界転生モブじゃない感じ……?」
彼女はモブどころか、世界最強の元・聖女。
なのに、本人のメンタルはただの一般ひきこもり。

一方、彼女を拉致しようと……じゃなかった、
「丁重にご案内」しようとする女騎士・ユリィは、なぜかキラキラ笑顔。

「ようこそ、ルクシア様! アルデシア王国が世界の命運をかけて、お迎えに参りましたぁ!」
「いや勝手に迎えに来るな!ってか私、下着姿だよ!? パジャマだよ!? ベッドから半歩も出てないよ!?」
「ご安心ください。わたくし、バスタオルも持参しておりますので!」
「バスタオルで世界救わせようとしてんの!? 頭おかしいの!?」
馬車内――
「ルクシア様ぁ……まさか本当に、ご同行いただけるとは……感無量ですぅ……」
馬車の中で、ユリィはキラキラしながら膝を抱えている。

ルクシアは隣で丸くなっていた。
座席の上にプリン座布団(※非常食)を敷き、モフたんを膝に乗せ、完全に防御態勢。

「私がOKしたの、そっちが“無理やり”私の風呂と冷蔵庫を消滅させたからだからね。物理的に追い出されたからだからね?」
「必要な犠牲でした……!聖女様が世界を救うためには!!」
「ていうかパジャマのまま馬車に詰め込むの、割と犯罪スレスレだよ!?」
「でも聖女様だから無罪です!」
「その理論でいくと私、世界征服できちゃうよ?」
「ぜひご検討を!!」
「やかましいわ!!」
城に到着――
「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!! 聖女様が! 本物の聖女様がいらっしゃったぞぉぉぉ!!」
城の門が開くと、
そこには王様をはじめ、大臣、騎士団、民衆に至るまで、総勢五千人が跪いていた。

「うわあぁぁぁああ!? なにこの視線!? え、なに!? これ、引きこもりには一番キツいやつぅぅぅぅう!!」
「聖女様!! この国に光を!!」
「聖女様! お嫁に来てください!」
「マジ神ィィィィィィィ!!」
「ちょっと落ち着いて!! こちとら3日風呂入ってないんだから!!」

王様「問題ない! 聖女様の香りは神聖である!!」

ルクシア「嗅ぐな変態王!!」

玉座の間――
ルクシア、ついに王の間へ。
だが――

「聖女ルクシアよ。願わくば、アルデシア王国の姫と結婚してくれないか」
「え、は?」
あまりに直球な提案に、ルクシアは鼻から紅茶を吹き出した。

「いやいやいやいや!? どこどう解釈したらそうなるの!?」
王「姫はあなたに心酔しておる。そなたさえ良ければ――」

「断固拒否です!! ていうか私女だよ!?姫も女だよ!? 世界観バグってない!?」
「尊いからOKです」
ルクシア「うるせぇ百合厨は黙れ!!」

だが、そのとき――

ズズズ……ズゴゴゴゴゴ……
突如、地響きとともに空が暗転。
空間が歪み、巨大な“何か”が迫ってくる――

「げっ……魔王軍、もう来た!?」
ユリィ「早いです!予想より三日はや――」

「おい、そこのパジャマ聖女ァ!!」
空に浮かぶ巨大な魔導モニターに、筋肉モリモリの魔王が映る。

魔王「てめぇがまた転生してるって聞いてよぉ……こっちは前回、一週間トイレに行けなかったんだぞ!?腹壊して一ヶ月寝込んだんだぞォ!?」

ルクシア「知らんがな!!それ私のせい!?ていうか前回の戦い方どんなだったの私!?」

魔王「おまえ、パンチ一発で俺の城吹き飛ばしたんだぞ!?」

ルクシア「なんでそれで再戦する気になったの!?学習して!?」