眠い……
僕はスイの水槽の前に置かれた長テーブルの前のパイプ椅子に座り、腕を組んでこっくり、こっくり舟を漕いでいた。
衰弱しているスイを24時間監視するため、僕達は交代でスイの側にいることになったのだけれど -
（おかしい）
今日夜勤だから昼間は寝ていたのに、なぜ、今もこんなに眠いのだ。疲れが溜まっているのかな。
街の中にあるアパートの部屋にはもう半月くらい帰っていない。
この施設の中には、食堂もあるし、売店も、仮眠室も幾つもあるし、ATMもあるし、TVやインターネットもある。
僕だけじゃなく、殆どの研究員がここにほぼ住んでいる状態だった。
アパートに帰らなくても家賃は振り込みだし。
それに、アパートに帰っても誰もいない。
あるのは、隣人たちが立てるちょっとした騒音と。
山の中の田舎町らしく、空気の良い中にちょっとした排気ガスの香りが混じる、それだけ。
それから、
たくさんの星。

東京生まれ、東京育ちの僕が、初めてここに来た時、丁度、夜だった。
高速バスを駅のターミナルで降り、小さな駅前の店がもう閉まりつつあるのに絶望しながら見上げたのは、
星。

人間は寂しいと、空を見上げてしまうのだろうか。
空を見上げても心の奥底にある寂しさは消えないのに。
（メダカ、ウグイ、ギンブナ……カマツカ、モツゴ、ヨシノボリ……）
僕は、眠気防止のために湖の魚の名前を羅列する。
昔、湖の水が酸性だった頃、いっぱいいて。
今、中性になって失われつつある魚の名前を。
（メダカ、ウグイ、ギンブナ……）
僕は、
いつの間にか夢の中に落ちて行った -