雨は、まだ静かに降り続いていた。
カフェの窓を流れる水滴。
店内に流れるジャズ。
あたたかいカフェラテの香り。
さっきより少しだけ静かになった心を、
ゆっくり、ふわっと包んでくれる空気。
舞花と悠人は、隣同士の席にいた。
向かい合うほどの距離じゃない。
でも、斜めに見える横顔が、少しだけ近い。
──このまま、言わなければ、
なにも変わらない。
そう思いながらも、
怖くて、言葉を探せなくて。
でも。
(もう、逃げないって決めたんだ)
胸の奥で、きゅっと拳を握るような気持ちで──
舞花は、声を出した。
「椎名さん」
「……はい」
「この前のこと、ちゃんと伝えたくて……
桐原さんの話、勝手に聞かせちゃって、ごめんなさい」
「……いえ。俺のほうこそ……勝手に、距離を取ってしまいました」
「ううん。気づいてた。
でも……わたしも、気づいてたのに、言えなかったから」
カップをテーブルに置いて、
舞花は、まっすぐに悠人を見た。
その瞳の奥にある、自分への気持ちを信じて。
「言わなきゃ、って思った。
わたし──“条件のいい人と付き合えばいい”って、ずっと思われてきたけど」
「……でも、違うの」
「あなたのことが、好きです」
悠人の目が、ほんのすこし見開かれた。
それでも何も言わないから、
舞花は少しだけ笑って言った。
「伝えたかっただけです。返事とか……いまじゃなくていいから」
「……それ、ずるいですね」
悠人が、ぽつりとつぶやいた。
「“いまじゃなくていい”って言ったら、
俺がどれだけ考える人間か、わかってて言ってますよね」
「……あ、たしかに」
「答え、出すまで時間かかりますよ?」
「……え、やっぱり待たされるんだ?」
「でも、待たせたままにはしません」
そう言って、悠人がようやく、
ほんの少し、笑った気がした。
舞花の胸が、音を立てて跳ねる。
(あ……やばい、これ、たぶん今のが一番……好き)
好き、って言っただけなのに。
たった一言なのに。
この空気が、すべてを変えた気がした。
──でも、まだ終わらない。
この告白が、ふたりの関係を変える“始まり”になるなんて。
きっとふたりは、まだ気づいていなかった。
カフェの窓を流れる水滴。
店内に流れるジャズ。
あたたかいカフェラテの香り。
さっきより少しだけ静かになった心を、
ゆっくり、ふわっと包んでくれる空気。
舞花と悠人は、隣同士の席にいた。
向かい合うほどの距離じゃない。
でも、斜めに見える横顔が、少しだけ近い。
──このまま、言わなければ、
なにも変わらない。
そう思いながらも、
怖くて、言葉を探せなくて。
でも。
(もう、逃げないって決めたんだ)
胸の奥で、きゅっと拳を握るような気持ちで──
舞花は、声を出した。
「椎名さん」
「……はい」
「この前のこと、ちゃんと伝えたくて……
桐原さんの話、勝手に聞かせちゃって、ごめんなさい」
「……いえ。俺のほうこそ……勝手に、距離を取ってしまいました」
「ううん。気づいてた。
でも……わたしも、気づいてたのに、言えなかったから」
カップをテーブルに置いて、
舞花は、まっすぐに悠人を見た。
その瞳の奥にある、自分への気持ちを信じて。
「言わなきゃ、って思った。
わたし──“条件のいい人と付き合えばいい”って、ずっと思われてきたけど」
「……でも、違うの」
「あなたのことが、好きです」
悠人の目が、ほんのすこし見開かれた。
それでも何も言わないから、
舞花は少しだけ笑って言った。
「伝えたかっただけです。返事とか……いまじゃなくていいから」
「……それ、ずるいですね」
悠人が、ぽつりとつぶやいた。
「“いまじゃなくていい”って言ったら、
俺がどれだけ考える人間か、わかってて言ってますよね」
「……あ、たしかに」
「答え、出すまで時間かかりますよ?」
「……え、やっぱり待たされるんだ?」
「でも、待たせたままにはしません」
そう言って、悠人がようやく、
ほんの少し、笑った気がした。
舞花の胸が、音を立てて跳ねる。
(あ……やばい、これ、たぶん今のが一番……好き)
好き、って言っただけなのに。
たった一言なのに。
この空気が、すべてを変えた気がした。
──でも、まだ終わらない。
この告白が、ふたりの関係を変える“始まり”になるなんて。
きっとふたりは、まだ気づいていなかった。

