「行っちゃった……」

 ため息がこぼれる。どっと疲れた気分で肩を揺らす。その時感じた肩の重みで、そこにはまだ理玖の手があったことを思い出した。

「理玖君、離して」
「ごめん」

 理玖は気まずそうに謝り、そそくさと手を離した。その表情もその声も私が知る柔らかさだ。りらを前にしていた先程とは別人のようだ。

「ねぇ、理玖君って、女の子に対していつもあんな感じなの?前に、それっぽい話を聞いたような気もするけど。えぇと、なんだったかな。自分は愛想がないから女子は近づいてこない、だったかしら」
「うん、まぁ、そうだね」

 理玖は鼻の頭を指先でかく仕草をした。
 私は首を傾げた。

「実は女の子が苦手なの?それであんなに冷淡な態度を?でも、私には全然普通よね。……もしかして美和の友達だから、気を使ってくれてる、とか?」

 理玖は焦った顔で首を横に振る。

「違うよ。もしそうなら、一緒に遊びに行こうなんてこと、言ったりしないって」
「それもそうか……」

 私はさらに首を捻る。

「苦手じゃないなら……。女子と距離を置くために、とか?わざと冷たい態度を取って、相手に諦めてもらうように仕向けてたり、とか?」
「まぁ、そんなとこかな」
「え、本当に?でも、どうして?」

 驚いて目を見開く私に、理玖は曖昧に笑ってみせる。瞳を揺らしているのは、その理由を話そうかどうしようか、迷っているからだろうか。言おうと決めたのか、おもむろに口を開く。

「あのね……」

 しかしそれを遮って携帯の通知音が聞こえた。彼のスマホからだ。
 彼は顔をしかめてカーゴパンツのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出した。画面を見て苦笑する。

「母さんだ。砂糖も買ってこいだって」

 言ってから理玖はスマホの時計を私に見せる。