期末テストを数日後に控えたその日、理玖はいつも以上に熱心だった。教科書とノートを閉じ、シャープペンを置いた時には、二時間近くが経過していた。

「先生、ごめんね。いつもより遅くなっちゃった」
「大丈夫よ。気にしないで」

 筆記用具などを片づけ始めた私に、理玖が心配そうな声で訊ねる。

「この後、用事があったりしなかった?」
「いつもと同じく帰るだけよ。それよりも、今日はずいぶんと頑張ったわね」
「だって周りに証明しないといけないでしょ」
「証明って何を?」 

 理玖はにっと笑う。

「塾に行かなくても、先生が教えてくれているから大丈夫だってこと」
「そう思ってもらえて光栄だわ」

 苦笑する私に理玖はあははと笑い、両腕を上げてぐんと体を伸ばした。

「でも、さすがにちょっと疲れたかな」

 そこへ控えめなノックの音と理玖の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

「母さんだ。いつもより遅いから様子を見に来たんだな」
「私、すぐに帰るわね」

 カバンをつかんで私はそそくさと椅子から立ち上がろうとした。しかしそれを理玖が止める。

「そんなに急がなくても大丈夫だよ」

 彼は私に笑いかけ、ドアの所まで立って行く。
 開けたドアの向こうから、友恵の声が聞こえた。

「あぁ、理玖。今終わったの?」
「うん。たった今終わったとこ。教えてもらいたいことが色々あったから。気づいたら、だいぶ時間オーバーしちゃってた」
「そうだろうなとは思ったんだけどね。もう少しかかるのかしらと思って、一応ね、様子を見に来たのよ」

 二人の会話を背中で聞いていた私は、荷物を手にして理玖の傍まで行く。

「あの、遅くなって申し訳ありませんでした。すぐに帰りますので」

 頭を下げる私に、友恵はおっとりと微笑んだ。

「お疲れ様でした。理玖は先生の言うことをちゃんと聞いて、真面目に勉強しているかしら」