すぅっと息をすって、教室の扉の取っ手に手をかける。
俺はあまり緊張する性格ではないと思うが…やっぱり初日は緊張する。
もう一回息をすい、教室の扉を開けた。
教室は、朝早いがもうザワザワとしていた。
入ったはいいものの、誰も俺に気づかない。…いや、気づいてるけど話しかけてこない。
あぁ…めんどくさい。
話しかけたいとか、友達になりたいとか、恋人になりたいとか。
どうでもいいと、俺は思う。
誰が誰とどういう関係をきずいたって、自分が誰かとさまざまな関係をきずいたって。
そんなの…これからの人生、必要ないと思った。
別に…人間が嫌いって訳じゃないけど。
だけど…少し、苦手だ。
「風矢くん!」
そんなことを考えていると、知らない女が声をかけてきた。
声は完全に震えているながらも、無理に甘ったるい声を作ろうとしてる。
「お、おはよぉっ」
…俺、こういう女が一番苦手だ。
わざわざ俺の肩を触ろうとしてきたので、俺はわざとらしくよけた。
嫌がられてるのを感じたのか、女は青ざめながら去っていく。
それを横目に見送りながら、さくらに教えてもらった席を探す。
窓側、一番後ろの席……あそこか。
見つけたはいいが、そこへの最短ルートは女子たちによってふさがれている。
違うルートで行けばいいけど、めんどくさい。
俺はそこの女子たちの方へ歩き…声をかけた。
だけど、その声は教室のさまざまな話し声によって消されてしまった。
ダルい…と、心の中で舌打ちする。
「ちょっと、邪魔なんだけど?」
少しいらだったような声をこめたからか、女子たちは今度は俺のことに気づいた。
慌てたように違う場所へ行く女子たち。
「…え」
その中で一人、驚いたような声をあげた女がいた。
女子たちの中で一番大人しそうで、茶色の髪をストレートにおろしている。
その女はなんでもありません。と言うように、すぐさま口を閉じた。
なんだ…?
少し気になったけど、その女はもう何も喋んなかったので、気にしないことにした。
やっと自分の席につけて、ふぅっと一息つく。
「風矢くんって、かっこいいよね…」
自分の名前が聞こえてきて、そっちの方へ目を向ける。
「だよね〜。あっでも私はさくらくん推し!」
「えっそうなの?私は風矢くん推し! と言うか、この中学すごくない?イケメンが四人もいるんだもん。」
「それな〜」
そんな会話が聞こえてきて、少し複雑な気持ちになる。
本人に聞こえてるなんて、あの女たちは思ってないんだろうけど…俺、耳がいいから聞こえてしまうんだよな…。
「あの…」
申し訳ないと思っていると、さっきの茶色の髪の女が女たちに声をかけていた。
女たちはそいつのことを知らなかったのか、少し戸惑っている。
「も、桃葉ゆあです・・・!」
…桃葉ゆあ、か…。
「それで、どうしたの?」
「あ、あの、風矢くんのことを教えて欲しくて。いい、ですか?」
「風矢くんのこと、!?」
…俺のこと、?
それは、どういうことだ…?
思わず、聞き耳を立てる。だって…俺の何を知りたいのか、そしてあの女たちは俺をどう見てるのか。
少し…いや、結構気になる。
すると、次に聞こえたのは俺のファン…らしい女の声だった。
「夏波風矢くんはね、! 成績優秀、文武両道の天才! それにもかかわらず、顔もいいなんてほんっっっっと最強だよね! 桃葉さんもそう思わない!?」
思った以上に俺のことを語れる女は、すごい熱量で桃葉に話をふっていて、桃葉もそれには驚いたようだった。
でも…正確に言うと、あの女は俺のことを全然語れていない。
あの女が言っているのは、全部デマ。多分正しい情報なんだけど…それは、俺ではないから。
もう聞き耳立てなくていいか。と、俺ははぁっとまた一息つく。
「…! で、でも。それだけ、風矢くんのことが好きなんですよね、? すごく、素敵だと思います。」
茶髪の女が少し大きい声で言った言葉が聞こえてしまって、一回そらした興味を、またもとに戻された。
前の会話は気を抜いていたからわからないが、その言葉が、俺の心にしみていった。
素敵…?人を、俺を、好きになることが…?
たったそれだけの言葉なのに、なぜかすごく衝撃をうけたような気持ちになって。
ドクン、と心臓が音をたてる。
心臓のあたりを手で触りながら、桃葉を見る。
にこにこと笑っていて、ひだまりのような笑顔だった。
変な、やつ…。
それからしばらく、俺は桃葉から目を離せなかった。
二限目の少し前。
「……」
俺は少し、困っていた。
クラスのやつたちはどんどん教室を出ていくが…その理由を、俺は知らなかったからだ。
それは初日だから仕方ないかもしれない。俺にとってはそう片づけられる。
でも…クラスのやつらにとっては、俺が知ってるのは当然に思えてしまうことだったら?
できれば…初日に疑われるのはさけたい。
人に声かければいいか?
声かけられる人…と考えて、桃葉のことが思い浮かんだ。
桃葉は、俺の前の席なんだよな。声かけやすいし…喋ってみたい。
って、何考えてんだ俺…。
「ゆあ! ぼーっとしてどうしたの? 次移動教室だよ。行こ!」
自分の考えに違和感を感じていると、桃葉はもう声をかけられてしまった。
移動教室…?
何だそれ。
…まずい、桃葉が行ってしまうとどこへ行くのか分からないままになってしまう。
あせっていると、桃葉と目があった。
びくっと桃葉が反応したのを見て、俺のことが怖いのか。と不安になる。
怖いなら、話しかけないほうがいいよな…。
少し胸の奥が痛くなる。
「ゆあ?」
固まってしまった桃葉を見て、桃葉の友達らしい女が声をかける。
桃葉は迷っているように俺のことを見てから、視線をそらす。
「…ごめん、先行っててくれないかな?」
聞こえた言葉は、俺にとって予想外の言葉だった。
なんで、断ったんだ…?
教室を出ていく女を見送ったあと、おそるおそるというように俺ともう一回目を合わせた桃葉。
「あ、あのっ」
桃葉から自分で話しかけてくれたのを少し喜びながら、「何?」と聞き返す。
驚いたように俺を見る桃葉を見て、居心地が悪くなった。
「…だから、何?」
睨んだと思われてしまったのか、桃葉は後ろに後ずさる。
しまった。…声、低すぎたか?これが地声なんだけど…。
「えっとね。」と、桃葉は声を出した。
「次、移動教室…だよ?」
「いどうきょうしつ?」
だから、移動教室って何だよ。
でも、ここで聞いたら怪しまれるか?
「違う教室で授業するってことだよ。だから、もう行かないと。」
何も言わなくても笑顔で教えてくれる桃葉を見て、心の中を読まれたみたいだった。
時計を見る仕草をして…桃葉は目を見開いた。
「じゃ、じゃあ私、もう行くからっ。夏波くんも、早く行った方がいいよっ?」
教室の扉へ向かおうとする桃葉を見て、俺はあわてて桃葉のそでをつかんだ。
驚いたように振り返った桃葉。
勢いで掴んでしまったけれど…桃葉はなんて思うだろうか。
それが少し、怖い…。
「…ついていっても、いいか?」
用件だけ伝えて、視線をそらす。
断られたら、どうしよう…。
桃葉は、また俺の不安な気持ちをよんだように、俺を安心させるような笑みをうかべた。
「もちろんっ!」
そっと、差し出された手。
「一緒に、行こっ?」
…!
にこっと笑った桃葉は、天使みたいで。
俺は、一瞬で心を奪われてしまった。
ドキドキと、心臓がなる。
「ありがと。…ゆあ。」
とりあえずお礼を言わなきゃな。と思うと、口が勝手に開き、桃葉のことを名前呼びにしてた。
桃葉は恥ずかしかったのか、少し顔が赤くなっていた。
その反応に、また心臓がドキドキとなりだす。
こんなの、初めてだ。
俺は今、出会うことのないものに会ってしまったような、そんな気持ちになっている。
この感情に名前があるのかは分からないが…今、いや…もしかしたら、俺が桃葉に興味を持ったときから…?
分からないが、ただ…
ゆあのことを…俺が、少し『特別』と感じている。…それだけは、断言できた。
俺はあまり緊張する性格ではないと思うが…やっぱり初日は緊張する。
もう一回息をすい、教室の扉を開けた。
教室は、朝早いがもうザワザワとしていた。
入ったはいいものの、誰も俺に気づかない。…いや、気づいてるけど話しかけてこない。
あぁ…めんどくさい。
話しかけたいとか、友達になりたいとか、恋人になりたいとか。
どうでもいいと、俺は思う。
誰が誰とどういう関係をきずいたって、自分が誰かとさまざまな関係をきずいたって。
そんなの…これからの人生、必要ないと思った。
別に…人間が嫌いって訳じゃないけど。
だけど…少し、苦手だ。
「風矢くん!」
そんなことを考えていると、知らない女が声をかけてきた。
声は完全に震えているながらも、無理に甘ったるい声を作ろうとしてる。
「お、おはよぉっ」
…俺、こういう女が一番苦手だ。
わざわざ俺の肩を触ろうとしてきたので、俺はわざとらしくよけた。
嫌がられてるのを感じたのか、女は青ざめながら去っていく。
それを横目に見送りながら、さくらに教えてもらった席を探す。
窓側、一番後ろの席……あそこか。
見つけたはいいが、そこへの最短ルートは女子たちによってふさがれている。
違うルートで行けばいいけど、めんどくさい。
俺はそこの女子たちの方へ歩き…声をかけた。
だけど、その声は教室のさまざまな話し声によって消されてしまった。
ダルい…と、心の中で舌打ちする。
「ちょっと、邪魔なんだけど?」
少しいらだったような声をこめたからか、女子たちは今度は俺のことに気づいた。
慌てたように違う場所へ行く女子たち。
「…え」
その中で一人、驚いたような声をあげた女がいた。
女子たちの中で一番大人しそうで、茶色の髪をストレートにおろしている。
その女はなんでもありません。と言うように、すぐさま口を閉じた。
なんだ…?
少し気になったけど、その女はもう何も喋んなかったので、気にしないことにした。
やっと自分の席につけて、ふぅっと一息つく。
「風矢くんって、かっこいいよね…」
自分の名前が聞こえてきて、そっちの方へ目を向ける。
「だよね〜。あっでも私はさくらくん推し!」
「えっそうなの?私は風矢くん推し! と言うか、この中学すごくない?イケメンが四人もいるんだもん。」
「それな〜」
そんな会話が聞こえてきて、少し複雑な気持ちになる。
本人に聞こえてるなんて、あの女たちは思ってないんだろうけど…俺、耳がいいから聞こえてしまうんだよな…。
「あの…」
申し訳ないと思っていると、さっきの茶色の髪の女が女たちに声をかけていた。
女たちはそいつのことを知らなかったのか、少し戸惑っている。
「も、桃葉ゆあです・・・!」
…桃葉ゆあ、か…。
「それで、どうしたの?」
「あ、あの、風矢くんのことを教えて欲しくて。いい、ですか?」
「風矢くんのこと、!?」
…俺のこと、?
それは、どういうことだ…?
思わず、聞き耳を立てる。だって…俺の何を知りたいのか、そしてあの女たちは俺をどう見てるのか。
少し…いや、結構気になる。
すると、次に聞こえたのは俺のファン…らしい女の声だった。
「夏波風矢くんはね、! 成績優秀、文武両道の天才! それにもかかわらず、顔もいいなんてほんっっっっと最強だよね! 桃葉さんもそう思わない!?」
思った以上に俺のことを語れる女は、すごい熱量で桃葉に話をふっていて、桃葉もそれには驚いたようだった。
でも…正確に言うと、あの女は俺のことを全然語れていない。
あの女が言っているのは、全部デマ。多分正しい情報なんだけど…それは、俺ではないから。
もう聞き耳立てなくていいか。と、俺ははぁっとまた一息つく。
「…! で、でも。それだけ、風矢くんのことが好きなんですよね、? すごく、素敵だと思います。」
茶髪の女が少し大きい声で言った言葉が聞こえてしまって、一回そらした興味を、またもとに戻された。
前の会話は気を抜いていたからわからないが、その言葉が、俺の心にしみていった。
素敵…?人を、俺を、好きになることが…?
たったそれだけの言葉なのに、なぜかすごく衝撃をうけたような気持ちになって。
ドクン、と心臓が音をたてる。
心臓のあたりを手で触りながら、桃葉を見る。
にこにこと笑っていて、ひだまりのような笑顔だった。
変な、やつ…。
それからしばらく、俺は桃葉から目を離せなかった。
二限目の少し前。
「……」
俺は少し、困っていた。
クラスのやつたちはどんどん教室を出ていくが…その理由を、俺は知らなかったからだ。
それは初日だから仕方ないかもしれない。俺にとってはそう片づけられる。
でも…クラスのやつらにとっては、俺が知ってるのは当然に思えてしまうことだったら?
できれば…初日に疑われるのはさけたい。
人に声かければいいか?
声かけられる人…と考えて、桃葉のことが思い浮かんだ。
桃葉は、俺の前の席なんだよな。声かけやすいし…喋ってみたい。
って、何考えてんだ俺…。
「ゆあ! ぼーっとしてどうしたの? 次移動教室だよ。行こ!」
自分の考えに違和感を感じていると、桃葉はもう声をかけられてしまった。
移動教室…?
何だそれ。
…まずい、桃葉が行ってしまうとどこへ行くのか分からないままになってしまう。
あせっていると、桃葉と目があった。
びくっと桃葉が反応したのを見て、俺のことが怖いのか。と不安になる。
怖いなら、話しかけないほうがいいよな…。
少し胸の奥が痛くなる。
「ゆあ?」
固まってしまった桃葉を見て、桃葉の友達らしい女が声をかける。
桃葉は迷っているように俺のことを見てから、視線をそらす。
「…ごめん、先行っててくれないかな?」
聞こえた言葉は、俺にとって予想外の言葉だった。
なんで、断ったんだ…?
教室を出ていく女を見送ったあと、おそるおそるというように俺ともう一回目を合わせた桃葉。
「あ、あのっ」
桃葉から自分で話しかけてくれたのを少し喜びながら、「何?」と聞き返す。
驚いたように俺を見る桃葉を見て、居心地が悪くなった。
「…だから、何?」
睨んだと思われてしまったのか、桃葉は後ろに後ずさる。
しまった。…声、低すぎたか?これが地声なんだけど…。
「えっとね。」と、桃葉は声を出した。
「次、移動教室…だよ?」
「いどうきょうしつ?」
だから、移動教室って何だよ。
でも、ここで聞いたら怪しまれるか?
「違う教室で授業するってことだよ。だから、もう行かないと。」
何も言わなくても笑顔で教えてくれる桃葉を見て、心の中を読まれたみたいだった。
時計を見る仕草をして…桃葉は目を見開いた。
「じゃ、じゃあ私、もう行くからっ。夏波くんも、早く行った方がいいよっ?」
教室の扉へ向かおうとする桃葉を見て、俺はあわてて桃葉のそでをつかんだ。
驚いたように振り返った桃葉。
勢いで掴んでしまったけれど…桃葉はなんて思うだろうか。
それが少し、怖い…。
「…ついていっても、いいか?」
用件だけ伝えて、視線をそらす。
断られたら、どうしよう…。
桃葉は、また俺の不安な気持ちをよんだように、俺を安心させるような笑みをうかべた。
「もちろんっ!」
そっと、差し出された手。
「一緒に、行こっ?」
…!
にこっと笑った桃葉は、天使みたいで。
俺は、一瞬で心を奪われてしまった。
ドキドキと、心臓がなる。
「ありがと。…ゆあ。」
とりあえずお礼を言わなきゃな。と思うと、口が勝手に開き、桃葉のことを名前呼びにしてた。
桃葉は恥ずかしかったのか、少し顔が赤くなっていた。
その反応に、また心臓がドキドキとなりだす。
こんなの、初めてだ。
俺は今、出会うことのないものに会ってしまったような、そんな気持ちになっている。
この感情に名前があるのかは分からないが…今、いや…もしかしたら、俺が桃葉に興味を持ったときから…?
分からないが、ただ…
ゆあのことを…俺が、少し『特別』と感じている。…それだけは、断言できた。