はぁ、とため息をつく。

ため息…今日何回目かな…。

今日は、日曜日。

昨日色々あったから疲れたし、肩が重い…。

今日は、なんにも予定ないし家でゆっくり過ごそうかな…と思ったその時。

自分のスマホが振動した。

見ると、そこには『森七菜りこ』の文字が。

えぇっ…森七菜さん…!?

まさか森七菜さんから電話がかかってくるとは思わなくて、あわててとる。


「は、はい…っもしもし?」

『もしもーし、桃葉さん?急でごめんなんだけど、午後桃葉さんの家で遊べるかな?』


え、えぇぇ…っ?

本当に急だな…っ。

でも、家には誰もいないし…遊びに誘ってくれるのは、とっても嬉しい。


「うんっ。大丈夫だよ。」

『ほんと!?よかった〜。じゃあ、午後の三時ぐらいに、三人で遊びにいくね〜っ。じゃ、またね!』


そう言って、電話は切れてしまった。

あれれ…なんか、すごい勢いだったな…。

しかも…三人って、誰?

それに、私、森七菜さんに電話番号教えたっけ…?

不思議に思ったけど、まぁいっか。と思った。

午後になったら、きっと分かることだよねっ…。


午後の二時五十分。

私の家のインターホンが鳴った。


「は、はい…っ」


ガチャッとドアを開けると、そこには森七菜さんと…原田さんの姿が。

三人の中の一人って、原田さんだったんだ…!

でも、あともう一人は…?


「…ゆあ。」


…!

この声…!

森七菜さんと原田さんの後ろを見ると、やっぱり未菜ちゃんの姿が!

わぁっ、もう一人は、未菜ちゃんだったんだ!

でも…


「…なんで…?」


実は夕くんとウソの交際を宣言してから、未菜ちゃんと一言も喋っていない。

嫌われちゃったかな…って落ち込んでたんだけど…。

嫌われちゃったなら、なんで未菜ちゃんが私の家に来てくれるの…?

未菜ちゃんは戸惑っている私を見ると、にこっと笑った。


「わぁ、懐かしいね、ゆあの家。相変わらず綺麗だぁ〜」


あまりにも可愛い言葉に拍子抜けして、私はポカンと口を開ける。

一回だけ、未菜ちゃんと私の家で遊んだことがあったっけ…。


「あのね、未菜ちゃんには、本当のこと話しちゃったんだけど…勝手にごめんね。話しても大丈夫だったかな?」

「実は、桃葉さんの電話番号や、家を教えてくれたのは、未菜ちゃんなんだ。」


森七菜さんや、原田さんが言った言葉に、「そうなんだ…」としか返せない。

本当のことって、私と夕くんの関係のこと、だよね?

私の家にきてくれるってことは、未菜ちゃんに、嫌われてなかったってこと?

それとも、絶交を言いに来たとか…?

でも、未菜ちゃんはそんなことしないよね…。

嫌われてないかもという希望が見えてきて、自然とほおが緩む。


「…どうぞ、ゆっくりしていってください…!」

「「「おじゃましま〜す」」」


声をそろえて言う三人に、もっと笑顔がこぼれた。


「わっ、すご〜、整理整頓されてる…!」

「洗面所ってあるかな?手洗いたくて…」

「洗面所は、こっちです…!」

「ゆあ、荷物どこに置けばいい?」

「えっと、私の部屋で遊びますか?なら、私の部屋に置いてほしいです…」

「桃葉さんがいいなら桃葉さんの部屋、見てみたーい!」

「了解です!案内します…!」


みんなの質問に答えていると、原田さんに「なんで敬語なの?」と笑われてしまった。

そ、そっか…。なら、タメ口でもいいのかな…?


「あと、名前で呼んでいいよ。ゆあちゃん。」

「えっ?うん…!さなちゃん。」

「桃葉さん、私も!りこって呼んで!」

「いいの…?ありがとう、さなちゃん、りこちゃん。」


おずおずと言うと、二人はにっと笑った。

名前呼び…なんだか、くすぐったい気持ちだな…。


「ゆあ〜早く遊ぼうよっ」


私も二人に笑い返していると、未菜ちゃんにそう言われた。


「うん!」


階段をのぼって、私の部屋にみんなを案内する。

部屋を見せるのはちょっと恥ずかしいな…。


「どうぞ…」


そろそろと、部屋のドアを開ける。


「わーっ!可愛いお部屋だねっ」

「あ、ありがとう…!」

「ねね、ゆあちゃんの部屋では飲食とか、平気?」


飲食か…。

いつもはダメなんだけど、掃除機とかあとでかければ大丈夫かな…。


「うん…!大丈夫だと思う。」

「了解〜。ありがと!」


りこちゃんはそう言うと、リュックから色々取り出した。

それは、さまざまな種類のお菓子。

わっ…やけにリュックが大きいと思ってたら、こんなに入ってたんだ…!


「そういえば、何するの?」


遊びと言っても、何をするんだろう…。考えてなかった…。

三人は目を合わせると、いたずらっ子ぽく微笑んだ。


「そりゃあ、恋バナでしょ〜?」

「こ、恋バナ…っ」


昨日、やったばっかりだ…。

結局、冬雪くんのしか聞けなかったけど…。

昨日のことを思い出して、ズキリと心が痛む。

い、今は昨日のことは、忘れよう…っ。


「あ、お菓子食べるなら、私テーブル持ってくるねっ」

「「「ありがと〜。」」」


自分の部屋を出て、隣の部屋に行く。

隣の部屋は今は誰も使ってなくて、物置きみたいな状態だ。

ほんとは、お母さんが使ってたんだけど…。

そこまで考えて、また心が痛む。

うぅ、今日はマイナス思考になってばかりだっ。

ポジティブにいかないとねっ。

えっと…、テーブル…あ、あった!

脚が折りたためる、便利なやつ。

私はそれを持ち上げる。

う…結構重い…。

そろそろと進みながら、自分の部屋に戻る。


「あ、ゆあちゃん、おかえり〜」

「た、ただいま…?」


ただいまってなんか変な気がするけど…まぁいっか。

脚を組み立ててから、部屋の真ん中に置く。


「なんか飲み物も持ってくる…?」

「いや、大丈夫!水筒持ってきてるから。」

「未菜も持ってきたよ〜」

「私も!」

「そっか…」


でも、私だけお菓子をご馳走になるのは申し訳ない気がする…。

そんな私の気持ちを読み取ったのか、未菜ちゃんはこっちを見て笑った。


「ゆあは何も出さなくていいよ。家におじゃまさせてもらってるんだし。」

「あ、ありがとう…。」


そういうものなのかな…?

不思議に思っていると、みんなはお菓子をテーブルに並べ終わってた。


「じゃあ…恋バナを始めまーす!」

「「いぇーい!」」


咳払いをして大きな声で言った未菜ちゃんに、りこちゃんとさなちゃんが声をあげる。

私もパチパチと拍手した。

席順は、私の隣に未菜ちゃん、前にりこちゃん、その隣にさなちゃんが座った。


「では…みなさん、恋について…聞きたいことはありますか?」


聞きたいこと…か。

あんまりないかな…あ、でも未菜ちゃんとか好きな人、いるのかな?

そういう話はあんまりしてこなかったから、未菜ちゃんの恋愛事情はあまり知らない。


「はいはーい!ゆあちゃんに聞きたいことがありまーす!」

「わ、私に…?」


りこちゃんがピンッと手を挙げる。

なんだろう…?


「ぶっちゃけ、夕くんのことどう思っているのっ?」


………え?

りこちゃんの言葉に、一瞬思考が停止した。

斜め前から、さなちゃんの咳き込む音が聞こえる。

ど、


「ど、どどどうって、?」


か、噛みまくってしまった…。


「…本気、なんですか?」


りこちゃんからじっと見つめられて、私は視線を泳がせた。

みんなからの視線が集まって、パニックになる。

というか、夕くんはさなちゃんの好きな人なのに…っ、答えづらいよ…。


「ちょっとぉ、ゆあが困ってるでしょ。ゆあがあんなチャラそうなやつを好きになるわけないじゃん。」


未菜ちゃんが、助け舟を出してくれる。

ほっとしたけど、でも…夕くんのことを『チャラそうなやつ』にされてるのに、少しカチンときてしまう。


「ゆ、夕くんは優しい人だよ…っ」


そう言って、未菜ちゃんを見ると、未菜ちゃんはびっくりしたような表情を見せたあと、ぷくっとほおを膨らませてしまった。


「…じゃあ、本気なんだ?」

「そ、それは違うのっ。夕くんは、友情の好きっていうか…」

「ふぅん」


未菜ちゃんはそう言って、そっぽを向いてしまう。

ふぅんって言ってるけど、信じてくれてない気がするっ。

ほ、本当に違うのに…!


「じゃあ、さなは?さなは、夕くんとゆあの交際がウソだって知ったとき、その言葉がウソだって思わなかったの?」

「え、えぇっ、私?」


未菜ちゃんに急に話題をふられたさなちゃんは、驚いてるようすだった。

確かに、それは気になるかも…。


「えっと、最初に聞いた時はウソだって思ったよ。でも…」


さなちゃんは私をじっと見た。


「あの時のゆあちゃんの瞳は、ウソをついてるように思えなかったから。」


…!

私は息を呑む。


「それにね、私の予想なんだけど、本当に夕くんはゆあちゃんのこと…」


そこまで言ったあと、さなちゃんは口を閉じた。


「…ごめん。なんでもないや。」


…?

どうしたんだろう…?

不思議に思ってみていると、さなちゃんはふぅっと息をついたあと、未菜ちゃんを見た。


「って、未菜ちゃん、私の失恋を蒸し返してこないでくれる〜?まだ傷つくんですけど。」

「ごめんごめん」


二人が、笑い合う。

私も、ふふっと笑った。

なんか…楽しいな。


「じゃあ、りこちゃんは?好きな人いるの?」

「ふふふ、私はね…!」


ここからりこちゃんの夏波くんはどれだけ素敵なのかの話が始まり、みんなの推しの話になり…話題は恋バナからどんどん離れていった。

いっぱい笑って、いっぱい話をして。

気づけば、時間は過ぎていった。


「あ…私、そろそろ帰んなきゃ」


りこちゃんの言葉がきっかけになり、片付けを始めることになった。


「えっと…テーブルは私が後でやっとくから、お菓子のゴミとかを一階に持っていくのを手伝ってくれないかな?」

「「「了解〜!」」」


片付けも色々な話で盛り上がって、楽しく早く終わらせられた。

家の外に出ると、空は雲でおおわれていた。


「送っていこうか?」

「ううん、大丈夫〜」

「まだあんまり暗い時間帯じゃないし。」

「気持ちだけでじゅうぶんだよ〜。ありがとね、ゆあちゃん」


今は、五時ぐらい。

だからまだぎりぎり危ない時間帯じゃないけど…心配だな…。


「三人とも、気をつけてね」


私がそう言うと、三人は微笑んだ。


「「「おじゃましました。」」」

「はいっ、また来てください。」

「絶対来る〜!」

「約束ね!」


りこちゃんとさなちゃんがそう言ってから、歩道に出て、歩いて帰って行っちゃった。

ふふっ…楽しかったな。


「ゆあ。…また明日。」


未菜ちゃんに手を振られて、私は口を開いた。


「あのっ…未菜ちゃん。」

「?」


ぎゅっと手を握りしめる。

そして、私は頭を下げた。


「…いままで、本当にありがとう」

「…っ!」


表情は見えないけれど、息を呑む音が聞こえた。


「それって…」


未菜ちゃんの悲しそうな声が聞こえる。

違うよ、未菜ちゃん。私が本当に言いたいことは、ここからだよ。

私は頭を上げて、未菜ちゃんをじっと見た。


「それと…これからも、よろしくね。」


にっと、未菜ちゃんに微笑む。

未菜ちゃんは目を見開いて…笑った。


「…うん!よろしくね!」


「じゃあ…またね」と言って、歩き出した未菜ちゃん。

遠ざかっていく背中に、私は手を振った。

ちゃんと…伝わったかな。

未菜ちゃんは、私にとってたった一人の、大切な親友だ。

だからずっと…仲良くしてほしい。

手をおろすと、顔に冷たいものがあたった。

これ…雪?

空を見上げると、本当に雪が降っていた。

こんな時期に…雪?

ここらへんの地域は、冬でも降らないぐらいなのに。

変だなと思いながら、私は急いで家の中に戻った。