柱:学校・昼休み・教室

ト書き:
昼休みのチャイムが鳴ると、教室の中が一気に活気づく。
弁当箱のふたを開ける音、購買のパンの袋を破る音、あちこちで交わされる雑談と笑い声が混ざり合う。
窓際の席に座る結城夏帆(ゆうき かほ)は、いつも通り購買で買った焼きそばパンを手にし、隣の如月蒼真(きさらぎ そうま)をちらりと見た。

しかし、今日の蒼真の様子はどこか違う。
彼はなぜかそわそわと落ち着きなく、時折、チラチラと夏帆の方を見ている。

夏帆「……何?」

ト書き:
不審そうに睨むと、蒼真はにやりと笑い、カバンの中から小さな包みを取り出した。
白と青のチェック柄の布に包まれたそれは、明らかに弁当だった。

蒼真「じゃーん! 今日は俺の手作り弁当だ。」

夏帆「……え?」

ト書き:
目を丸くして弁当を見つめる夏帆。
彼女の知る限り、蒼真はこれまで一度も弁当を持ってきたことがない。
基本的に学食か購買頼りで、家で料理をするようなタイプでもなかったはずだ。

夏帆「いやいや、冗談でしょ? まさかお母さんが作ったとか?」

蒼真「違う違う。これ、俺が作ったんだって。」

ト書き:
蒼真は得意げに包みを広げ、中身を披露する。
そこには、色とりどりのおかずが詰められた美しい弁当が入っていた。
卵焼き、唐揚げ、ウインナー、ほうれん草のおひたし、ミニトマト——
見た目が整っていて、どれもお店で売られていてもおかしくないほどの完成度だった。

夏帆「……え、めっちゃちゃんとしてるじゃん。」

ト書き:
意外すぎる展開に、夏帆は思わず弁当に目を奪われる。

蒼真「ふふん、これも夏帆攻略のための第一歩さ。」

夏帆「攻略……って、マジでやるつもりなの?」

ト書き:
半ば呆れたように言う夏帆だったが、目の前に差し出された弁当の魅力には逆らえなかった。
購買のパンをかじるより、こっちを食べたほうが絶対に美味しいに決まっている。

夏帆「……じゃあ、一口だけ。」

ト書き:
そう言いながら、蒼真の弁当から卵焼きをひとつ摘み、口に運ぶ。
ふわっとした甘みが広がり、ほどよい塩気が後を引く。

夏帆「……ん? うまっ。」

ト書き:
思わず声を漏らす夏帆。
正直、蒼真の作るものにそこまで期待していなかったが、これは普通に美味しい。

夏帆「ちょっと待って、ヘタレのくせに意外と料理上手じゃん?」

ト書き:
信じられないものを見るような表情をする夏帆に、蒼真は得意げに微笑む。

蒼真「いやー、こう見えて俺、料理好きなんだよね。」

夏帆「いや、そんな話聞いたことないけど?」

ト書き:
戸惑う夏帆に対し、蒼真はさらりと言ってのける。

蒼真「まぁ、普段はやらないだけで、必要になればできるってこと。」

ト書き:
その言葉が、なぜか夏帆の心の中に引っかかった。

——必要になればできる。
つまり、今回の弁当作りは、明確な目的があってのこと。

夏帆「……もしかして、これもループを終わらせるための作戦の一環?」

蒼真「もちろん!」

ト書き:
即答する蒼真。
彼は箸を持ちながら、どこか楽しそうに弁当をつつく。

夏帆「……なんか、すっごい楽しそうなんだけど。」

蒼真「そりゃあね。好きな子に手料理食べてもらえるって、最高じゃん。」

ト書き:
さらっと言う蒼真。

夏帆は、スプーンを持つ手を一瞬止めた。
何気ない一言だったのに、胸の奥がかすかにざわつく。

夏帆「……な、なんかもう、そういうの慣れてきたわ。」

蒼真「でしょ? だから、この調子でどんどんアピールしていくから!」

夏帆「やめろやめろ!」

ト書き:
夏帆が焦ったように言うが、蒼真は余裕の笑みを浮かべている。
この調子でどんな手を使ってくるつもりなのか——。

こうして、蒼真の“夏帆攻略作戦”は、確実に進行し始めていた。

だが、夏帆自身、心の奥で芽生え始めた“何か”にまだ気づいていなかった——。