柱:学校の屋上・夕暮れ

ト書き:
空は茜色から深い藍色へと変わり始め、夕陽が校舎の窓に反射して輝いていた。
雲がゆっくりと流れ、風がフェンスを軋ませる。
遠くから、部活動の掛け声が微かに響いていた。

——でも、この屋上だけは静かだった。

風の音だけが、二人の間を通り抜ける。

ト書き:
夏帆は、胸に手を当てた。

心臓が、
まだ速く打ち続けている。

自分が口にした言葉の意味が、
頭の中で何度も繰り返される。

「私は蒼真が好き。」

——本当に?

——これは、ループを終わらせるための言葉じゃなくて?

——それとも。

ト書き:
いや、違う。

今さら、そんなことを考える必要はなかった。

心臓の高鳴りが、
彼を見つめるこの目が、
何よりも“答え”を知っている。

もう、誤魔化せない。

だから——。

ト書き:
夏帆は、ゆっくりと顔を上げた。

蒼真は、じっとこちらを見つめていた。

いつものように照れ隠しの冗談を言うこともなく、
軽く笑って流すこともなく、

ただ、静かに、
真剣な眼差しで、
夏帆を見つめていた。

蒼真「……もう一回、言って。」

ト書き:
彼の声が、かすかに震えているのが分かった。

夏帆「え?」

蒼真「もう一回、言ってほしい。」

ト書き:
夏帆の喉が詰まる。
心臓の鼓動が、さらに速くなる。

これは、もうループを終わらせるための言葉じゃない。

ただ、ただ、
この人に伝えたいと思ったから——。

夏帆「……私は。」

ト書き:
胸が苦しくなる。

けれど、それは苦しさじゃなくて、
何かを手放す前の、
大事な決意のようだった。

夏帆「私は、蒼真が好き。」

ト書き:
言葉が、
夜の静けさに溶けていく。

その瞬間——。

ト書き:
世界が、震えた。

空が、揺れた。

ト書き:
まるで時間そのものが、
その言葉を待っていたかのように。

風が強く吹き抜ける。
フェンスが軋み、
夏帆の髪がふわりと舞い上がる。

地面が微かに震え、
足元から波紋のように広がっていく感覚。

ト書き:
蒼真が、目を見開いた。

蒼真「……世界が……」

ト書き:
目の前の景色が、かすかに歪む。

まるで、映像が乱れるかのように、
世界が揺らいでいる。

夏帆は、思わず目を閉じた。

——何かが、変わる。

——何かが、終わる。

でも、それは怖いことじゃなかった。

これは、
長かったループの終焉であり、

新しい時間の始まりだから。

ト書き:
風が止む。

静寂が訪れる。

そして——。

ト書き:
時間が、動き始めた。