【柱】高校・放課後・校庭

【ト書き】
リアル恋愛ゲームの終焉から数日が経った。学園はすっかり落ち着きを取り戻し、生徒たちは自由に恋愛を楽しんだり、ゲームのない日常に戻ったりしていた。

【ト書き】
桜木八重は、ようやく“普通の高校生活”を満喫できることに安堵していた。放課後、いつものように校門へ向かおうとしたその時、白波椿が静かに彼女の前に立ちはだかった。

【八重】
「ねえ椿……なんでそんな顔してるの?」

【ト書き】
放課後の校庭。椿は、八重の前に立ちながら、いつものように余裕の笑みを浮かべていた。しかし、その目には確固たる意志が宿っていた。

【椿】
「八重、ゲームは終わった。でも……俺はお前を諦めないよ。」

【八重】
「……え?」

【ト書き】
椿はポケットに手を突っ込みながら、ゆっくりと続ける。

【椿】
「ゲームがどうとか、運営がどうとか、そんなことは関係ない。これはもう“ルート”とかじゃなくて、俺の気持ちの問題だからさ。」

【ト書き】
八重の心臓が跳ねる。リアル恋愛ゲームの中で、椿はいつも“幼馴染ルート”のキャラクターとして振る舞っていた。でも今の彼の言葉は、そういう枠組みを超えた“本音”だった。

【八重】
「……え、えっと……でも、もうゲームは終わったし……。」

【椿】
「そう。だからこそ、今からが本当の勝負だろ?」

【ト書き】
椿は歩み寄ると、八重の髪をくしゃっと撫でた。

【椿】
「俺は“幼馴染ルート”だから八重を好きになったわけじゃない。昔からずっと、お前が好きだから。」

【八重】
「……!!」

【ト書き】
八重は思わず顔を赤らめる。今まで、ゲームの中で言われた甘い言葉もたくさんあった。それでも——これは違う。椿の声には迷いがなく、ただ真っ直ぐに八重を見つめるその目に、思わず視線を逸らしたくなる。

【八重】
「……そんなの……ずるい……。」

【椿】
「ずるいのはお互い様だろ? お前、俺のこと全然意識してなかったの?」

【八重】
「そ、それは……!!」

【ト書き】
八重は答えられなかった。ゲームが終わっても、椿の存在が特別なのは変わらない。だけど、今までの関係とこれからの関係は——違う。

【ト書き】
ふと、校庭の隅を見ると、神崎と理央が静かにこちらを見ていた。理央は腕を組みながら、少しだけ口元を緩める。

【理央】
「……やっぱり、幼馴染ルートは強敵だね。」

【神崎】
「さて、これからが本当の勝負だね。」

【八重】
「ちょ、なんの話してるの!??」

【ト書き】
八重は焦りながら二人の方を見たが、椿がふっと笑う。

【椿】
「焦らなくていいよ。でも、覚悟しといて。」

【八重】
「な、なにを?」

【椿】
「俺はこれから、お前を本気で好きにさせるから。」

【ト書き】
椿は最後に微笑み、軽く八重の額を指で弾いた。

【八重】
「——っ!?」

【ト書き】
夕陽が二人を照らし、風が静かに吹き抜ける。

【八重】
「な、なに勝手に決めてるの!? そんなの、私は——」

【???】
「待ちなさい、白波椿!」

【ト書き】
八重の言葉を遮ったのは、鋭く響く女性の声だった。

【ト書き】
振り向くと、そこには風になびく長い黒髪。二階堂瑠奈が堂々とした足取りでこちらに向かってきていた。その表情は、いつもの余裕ではなく、真剣なものだった。

【瑠奈】
「私も納得してないわ。ゲームは終わった。でも、それで私の気持ちまで終わるわけじゃない。」

【八重】
「二階堂さん……?」

【椿】
「へぇ……。」

【ト書き】
椿は面白そうに瑠奈を見つめながら、腕を組んだ。

【瑠奈】
「私はずっとあなたを見てきたのよ、椿。あなたがどれだけ魅力的で、どれだけ多くの人を惹きつける存在か——私は誰よりも理解しているつもりよ。」

【ト書き】
瑠奈は一歩、椿に近づく。その眼差しには迷いはなかった。

【瑠奈】
「私は、まだあなたを諦めない。ゲームのルールなんて関係ない。これは私自身の選択よ。」

【ト書き】
その場の空気が静まる。
戸惑う八重、そして興味深そうに事の成り行きを見守る神崎と理央。

【椿】
「……悪いな、瑠奈。」

【ト書き】
椿の声は、驚くほどに優しく、しかしはっきりとした拒絶を含んでいた。

【椿】
「俺は、お前のことをすごく尊敬してる。瑠奈は賢くて、気高くて、努力家で……すごく魅力的な人だ。でも——俺の気持ちは変わらない。」

【瑠奈】
「……!」

【椿】
「俺が好きなのは、八重だ。」

【ト書き】
その瞬間、瑠奈の顔が一瞬だけ揺らぐ。しかし、彼女はすぐに微笑みを取り戻した。

【瑠奈】
「……そっか。」

【ト書き】
瑠奈はすっと背筋を伸ばし、そしてふっと軽く笑った。

【瑠奈】
「負けたわね、私。」

【ト書き】
そう言いながら、瑠奈は八重をまっすぐに見つめた。その目には、悔しさよりもどこかすっきりとしたものがあった。

【瑠奈】
「桜木さん、あなたには感謝してるわ。あなたがいたから、私は本気でぶつかることができた。でも、あなたが相手なら——私は素直に負けを認める。」

【八重】
「……二階堂さん……。」

【ト書き】
八重は思わず言葉を失う。瑠奈は勝ち負けを決めるために戦っていたのではなく、ただ自分の気持ちに正直でいるためにここにいたのだ。

【瑠奈】
「でも、一つだけ言っておくわ。」

【八重】
「えっ?」

【ト書き】
瑠奈は微笑みながら、八重の肩にそっと手を置いた。

【瑠奈】
「白波椿ほどの男を落としたのよ? それ相応の覚悟、持っておきなさいね。」

【ト書き】
そう言って、瑠奈はくるりと踵を返した。背筋を伸ばし、誇り高く、まるで勝者のような姿だった。

【ト書き】
八重は呆然としながらも、その背中を見送った。

【椿】
「……瑠奈らしいな。」

【ト書き】
椿は小さく笑い、八重の方を向く。

【椿】
「さ、これで俺の邪魔をするやつはいなくなったな。」

【八重】
「ちょ、ちょっと待って!? だからって、勝手に話を進めないで!!」

【ト書き】
八重の叫びが、夕暮れの校庭に響く。

【ト書き】
——リアル恋愛ゲームは終わった。しかし、新たな恋の幕が、今まさに上がろうとしていた。