【柱】高校・夜・校長室

【ト書き】
学校の灯りが徐々に消えていく時間。生徒たちは帰宅し、静寂に包まれた校舎の中で、ただ一つの部屋だけが明るく灯っていた。

【ト書き】
校長室。その奥の机の前には、数人のスーツ姿の男女が並び、中央のスクリーンには最新の「リアル恋愛ゲーム」のデータが表示されている。

【???】
「現在、幼馴染ルートの支持率は依然として圧倒的。しかし、特別選定枠の導入によって、新たなルートが形成されつつあります。」

【校長】
「ふむ……神崎玲司を投入したことで、バランスの調整は可能になったか?」

【???】
「まだ不明です。ただし、桜木八重の動き次第では、従来のシステムが機能しなくなる可能性があります。」

【ト書き】
スクリーンには八重の名前が強調され、そこには「異常値検出」の赤い文字が点滅していた。

【校長】
「……やはり、彼女は通常のプレイヤーとは違うか。」

【???】
「はい。通常、生徒たちは“ゲーム”を受け入れ、ルールの中で楽しむものですが、彼女だけはそれを拒絶しようとしています。」

【ト書き】
一同が沈黙する中、校長が静かに息を吐いた。

【校長】
「そろそろ話すべきか……この学園の本当の目的を。」

【柱】高校・昼休み・屋上

【ト書き】
翌日。八重は理央を引っ張るようにして屋上へと連れ出した。風が吹き抜ける中、彼女は息を切らしながら叫ぶ。

【八重】
「もう我慢できない!! 私は普通の高校生活が送りたいの!!!」

【理央】
「いやいや、それができない学校なのは最初から——」

【八重】
「知らなかったんだってば!!」

【ト書き】
八重は頭を抱えながら、大きく息を吐く。

【八重】
「なんでみんな、こんなゲームに乗っかってるの!? なんで恋愛にポイントとかつくの!? しかも、運営がペア決めるとか、もう意味わかんないんだけど!!」

【理央】
「まあ、そういう学校だから……。」

【八重】
「そんな理由で納得できるわけないでしょ!!」

【ト書き】
八重は屋上のフェンスに手をつきながら、ふと遠くの校舎を見つめた。そこにある大きな時計台——それは、この学園が創立以来ずっと変わらずに存在し続けている象徴だった。

【八重】
「……ねえ、理央。本当のところ、この学校の目的って何なの?」

【ト書き】
理央は一瞬言葉に詰まったが、やがて真剣な顔で答えた。

【理央】
「……この学校はね、社会に出たときに“最適な恋愛”ができるように、生徒たちに経験を積ませるための場所なんだって。」

【八重】
「……は?」

【理央】
「リアル恋愛ゲームって、ただのエンタメじゃなくて、本当に社会的な“恋愛教育プログラム”なのよ。この学校の卒業生たちは、高確率で理想の結婚をするって統計が出てるらしいよ。」

【八重】
「いやいや、そんなの聞いてない!!!」

【ト書き】
八重の叫びが屋上に響く。確かに、入学前に説明会の資料は渡されたが、そんなことは一言も書いていなかった——はずだ。

【八重】
「……そんなの、誰が決めたの!?」

【理央】
「学園の創設者……らしいけど、詳しいことは知らない。でも、運営はそれを守り続けてる。私たちはそのシステムの中で恋愛してるってこと。」

【ト書き】
八重は口を開けたまま固まる。まるで異世界の話を聞かされているような気分だった。

【八重】
「……もう無理。こんなのおかしい!!」

【ト書き】
その瞬間、八重の目に決意が宿る。

【八重】
「よし……私がこのゲームをぶっ壊す!!」

【理央】
「は!? 何言ってんの!??」

【八重】
「こんなのおかしいもん! 恋愛って、運営に決められるものじゃないでしょ!? 自分で選んで、自分で考えて、好きになるものじゃないの!?」

【ト書き】
理央は絶句した。しかし、八重の言葉に、どこか納得する自分がいることに気づく。

【理央】
「……本気?」

【八重】
「本気。本気で、このゲームをめちゃくちゃにする!」

【ト書き】
その言葉が屋上に響くと、ちょうどタイミングよく屋上のドアが開いた。

【神崎】
「面白い発言だね、桜木八重さん。」

【ト書き】
神崎玲司がゆっくりと歩み寄り、薄く微笑む。

【神崎】
「君がこのゲームを壊すっていうなら……僕も、協力しようか?」

【八重】
「……え?」

【ト書き】
神崎の言葉の意味を理解する前に、八重の中に新たな決意が生まれていた。

【ト書き】
——リアル恋愛ゲーム、前代未聞の崩壊が始まる。

【柱】高校・昼休み・屋上

【ト書き】
強い風が吹き抜ける屋上。八重は神崎玲司と向かい合い、彼の言葉の意味を噛み締めていた。

【八重】
「……協力? 神崎くんが、私の味方をするってこと?」

【神崎】
「正確には、僕もこのゲームのルールには従いたくないってことだね。」

【ト書き】
神崎は手すりにもたれかかりながら、遠くの校舎を見つめる。その横顔には、どこか余裕のある笑みが浮かんでいた。

【神崎】
「僕が特別枠で投入された理由、君はもう分かってるだろ?」

【八重】
「……運営が私を別のルートに進ませるためでしょ?」

【神崎】
「その通り。だけど、僕にそんなつもりはない。むしろ、僕はこのゲームの仕組みそのものに反抗するためにここに来たんだ。」

【ト書き】
神崎の瞳が鋭くなる。その言葉に、八重は思わず息を呑んだ。

【八重】
「……なんで?」

【神崎】
「この学校が目指す“最適な恋愛”っていうやつ、それが本当に正しいのか疑問に思っているからさ。」

【ト書き】
八重は眉をひそめた。まさに今、彼女自身が突きつけられている問題と同じだった。

【八重】
「……だったら、話は早いね。私は“普通の高校生活”がしたいだけなのに、運営はそれを許してくれない。だから、私はこのゲームをぶっ壊す!」

【神崎】
「その意気込みはいいね。でも、どうやって?」

【ト書き】
神崎が興味深そうに八重を見つめる。

【八重】
「えっ、それは……。」

【ト書き】
考えてみれば、運営は強大だ。生徒たちはすでにゲームの仕組みを受け入れていて、違和感を持つ者は少ない。そんな中で、どうやってこの“リアル恋愛ゲーム”を崩壊させるのか。

【八重】
「とりあえず、最初の一歩として……」

【柱】高校・放課後・校門前

【ト書き】
放課後。校門の前に立つ八重は、周囲を見渡しながら大きく息を吸い込んだ。

【八重】
「——よし!」

【ト書き】
彼女が突然、校門の前で両手を広げ、大声で叫び出した。

【八重】
「みんなー!! 恋愛ゲームなんてやめようよー!!!」

【ト書き】
通りがかった生徒たちが、一斉に足を止める。

【モブ生徒A】
「……えっ?」

【モブ生徒B】
「桜木さん、いきなり何言ってんの!?」

【ト書き】
ざわめく校門前。八重は構わず続けた。

【八重】
「なんでみんな、運営に恋愛を決められなきゃいけないの!? 好きな人がいるなら、自分で決めたくないの!? ポイントとか、ランキングとか、そんなの関係ないじゃん!!」

【モブ生徒C】
「いや、でも……それがこの学校のルールだし……。」

【モブ生徒D】
「そもそも、楽しいからやってるんだけど……?」

【ト書き】
思ったよりも、生徒たちは冷静だった。むしろ、八重の行動を不思議そうに見つめている。

【神崎】
「……まあ、こうなるよね。」

【ト書き】
校門の近くで様子を見ていた神崎が、軽く肩をすくめた。

【神崎】
「みんな、すでにこのゲームに適応してる。運営の狙い通りにね。」

【八重】
「そんなの……!!」

【ト書き】
悔しそうに唇を噛む八重。その時——。

【椿】
「でも、悪くないアイデアだと思うよ。」

【ト書き】
ふいに響いたのは、椿の声だった。彼は人混みを抜けて八重の前に立つ。

【椿】
「“普通の高校生活”を取り戻したいんだろ? だったら、もっと面白いことしようぜ。」

【ト書き】
椿の瞳が悪戯っぽく光る。その意味を考える間もなく、彼は続けた。

【椿】
「この学校の“リアル恋愛ゲーム”って、結局はみんながゲームとして楽しんでるから成立してる。つまり……。」

【神崎】
「……生徒たちが『もう飽きた』って思えば、システムは崩壊する。」

【八重】
「……!!」

【ト書き】
そう、運営がどれだけ仕組みを作ろうとも、最終的に動かしているのは生徒たちの意思。ならば、ゲームを崩壊させる方法は一つ——。

【八重】
「よし……“つまらないゲーム”にしちゃえばいいんだ!」

【ト書き】
八重の目が輝く。彼女の脳内には、すでにいくつもの“破壊計画”が浮かび始めていた。

【ト書き】
——こうして、リアル恋愛ゲームを終わらせるための、史上最大の“作戦”が始動した。