【柱】高校・入学初日・朝

【ト書き】
春の暖かな風が吹き抜ける校門前。満開の桜がひらひらと舞い、新入生たちは期待と緊張を胸に校門をくぐっていく。制服に袖を通したばかりの生徒たちが、友達と笑い合ったり、緊張した面持ちで周囲を見渡したりする中、桜木八重(さくらぎ・やえ)はため息をつきながら、少し浮き気味のリボンを整えた。

【八重】
「普通の高校生活が送りたいだけなのに…」

【ト書き】
呟いた声は、自分に言い聞かせるようだった。これまでずっと、同じ学校に通ってきた幼馴染、白波椿(しらなみ・つばき)。彼の存在は、良くも悪くも八重の生活に大きな影響を与えてきた。幼馴染というだけで何度噂され、からかわれたことか。

その張本人である椿は、相変わらずのマイペースぶりで、制服のネクタイを緩く締めながら、涼しげな顔で八重の隣を歩いていた。

【モブ生徒A】
「ねえ、見て! あの人、超イケメンじゃない!? 先輩?」

【モブ生徒B】
「違うよ! 白波椿…! 中学のときからめちゃくちゃモテてたんだって!」

【ト書き】
あっという間に、彼の周囲に人が集まり始める。ため息混じりにその様子を眺める八重の耳に、ひそひそと交わされる女子たちの会話が届く。

【モブ生徒C】
「でも、幼馴染いるらしいよ? ずっと一緒の子がいるんだって。」

【モブ生徒D】
「え、それって…」

【ト書き】
瞬間、八重の背筋に寒気が走る。

「まさか…またあれが始まるの?」

予感がした。しかも悪い方の。それを確かめる間もなく、椿が当然のように八重の手を取る。

【椿】
「おい、行くぞ。」

【八重】
「ちょっ、何で手を引くの!? 目立ちたくないって言ってるのに!」

【ト書き】
驚いて抵抗しようとするが、椿はしっかりと握ったまま、まるで逃がさないとでも言うように強引に歩き出す。その動作一つとっても、彼の普段の「王子キャラ」とは全く違う。

【椿】
「仕方ないだろ。俺が幼馴染ルートしか選ばないって、もう宣言しちまったんだから。」

【八重】
「……は?」

【ト書き】
衝撃的な言葉が、八重の頭を撃ち抜いた。

——何それ、どういうこと!?

状況が飲み込めないまま、椿に引かれて教室の扉を開けると、すでに多くの生徒が席についていた。賑やかだった教室の空気が、一瞬にして凍りつく。そして、次の瞬間には囁きが飛び交い始めた。

【モブ生徒E】
「あの二人…まさか、公式カップル!?」

【モブ生徒F】
「やっぱり幼馴染ルート確定か…!」

【ト書き】
ざわめきが広がり、八重の心臓が嫌な予感と共に早鐘を打つ。何だこれ? 何でそんな話になってるの!?

【八重】
「いやいやいや、待って!? 何その決定事項!?」

【ト書き】
しかし、その混乱をよそに、椿は余裕の笑みを浮かべながら、一言。

【椿】
「僕は、幼馴染しか興味ないからね。」

【ト書き】
その瞬間、教室が一気にどよめいた。視線が八重に集まり、女子たちの間からは羨望と嫉妬の入り混じった溜息が漏れる。八重は頭を抱え、これからの高校生活がとんでもないことになるのを確信した。

【柱】高校・教室・朝のHR前

【ト書き】
騒然とする教室の中央で、桜木八重(さくらぎ・やえ)は肩を落とし、深いため息をついていた。周囲の視線は依然として彼女に向けられ、まるで物語のヒロインとして祭り上げられたような状況に、心の中で絶叫する。

【八重】
「いやいやいや、何なのこれ!? 公式カップルって何!? 私、そんなの認めてません!」

【ト書き】
しかし、クラスメイトたちはまるで聞いていないかのように、楽しげに噂話を続けていた。

【モブ生徒A】
「やっぱり幼馴染ルートって強いよね~。初日で確定するとは思わなかった!」

【モブ生徒B】
「ほら、椿くんが『幼馴染しか興味ない』って宣言しちゃったし。これ、もう揺るぎないでしょ?」

【八重】
「いや、揺るぐから! というか、最初からそんなルートなんてないから!」

【ト書き】
必死に否定する八重だったが、その声は教室のざわめきにかき消される。対照的に、白波椿(しらなみ・つばき)は悠然と席につき、頬杖をつきながら八重を見ていた。

【椿】
「そんなに大騒ぎしなくても、俺とお前が一緒にいるのは自然なことだろ?」

【八重】
「その“自然なこと”のせいで、私の平凡な高校生活が崩壊しそうなんだけど!!」

【ト書き】
そのとき、カツン、と硬質な音が響く。八重が顔を上げると、教室の後方から一人の少女がゆっくりと歩いてきていた。

【ト書き】
美しく整った黒髪を持つ少女、二階堂瑠奈(にかいどう・るな)。透き通るような白い肌に、落ち着いた雰囲気を漂わせる彼女は、周囲のクラスメイトたちがざわつくほどの存在感を放っていた。

【モブ生徒C】
「瑠奈ちゃんって、去年のミス中学の…」

【モブ生徒D】
「まさか、椿くん狙い?」

【ト書き】
瑠奈はゆっくりと椿の前に立ち、余裕のある笑みを浮かべながら、ふわりと視線を八重へと向けた。

【瑠奈】
「面白いわね。幼馴染ルートが確定しているなんて。」

【八重】
「えっ?」

【瑠奈】
「でも、それが確定ルートだとは限らないわよね?」

【ト書き】
教室が静まり返る。まるで、舞台の幕が上がる瞬間のような緊張感が走る。瑠奈は椿に優雅な微笑を向けながら、一歩近づいた。

【瑠奈】
「白波くん。あなたが幼馴染しか興味がないなら、私はこのゲームに参加するわ。」

【ト書き】
静かに放たれた一言が、教室全体を揺るがせる。椿は面倒そうに視線を上げるが、瑠奈の視線を受け止めると、ふっと小さく笑った。

【椿】
「僕に挑戦するつもり?」

【瑠奈】
「ええ、もちろん。」

【ト書き】
その瞬間、八重は嫌な予感を覚えた。まるで、全く別の戦いが幕を開けたような感覚。それは、彼女が望んでいた平凡な高校生活とは真逆のものだった。

【八重】
「ちょっと待って、勝手にゲームを始めないで!!」

【ト書き】
しかし、すでにクラスメイトたちは新たな展開に興奮し始め、八重の叫びはまたしても掻き消されたのだった。