柱:学校・夕方・教室
ト書き
放課後の教室には、数人の生徒が残っていた。
友達と話しながら帰る準備をする者、
机に突っ伏して居眠りをしている者——
しかし、ほとんどの席は空になっていた。

窓の外を見ると、
夕日が少しずつ沈み始め、
校舎の影が長く伸びている。

相川遥は、机に肘をつきながら、
開いたままの手帳のページを見つめていた。

遥(モノローグ)
「……ない、か。」

ト書き
幼なじみルートは、絶対にない。
そうはっきりと告げられた。

遥は、ゆっくりと手帳のページをめくる。

書き込まれた予定の中には、
「透と一緒に試験勉強」
「透と映画!」
「透と海に行く?」
そんな、ずっと昔からの記録が並んでいた。

遥は、指でその文字をなぞる。

遥(モノローグ)
「ずっと一緒だったのに。」
「こんなにたくさんの思い出があるのに……」

ト書き
遥はそっと目を閉じ、息を吐く。

遥(モノローグ)
「……でも、もう違う。」
「透は、私をそういう目で見ない。」

ト書き
何度も期待して、
そのたびに否定されて、
結局、答えは変わらない。

遥は手帳を閉じ、鞄にしまった。
そして、
机の上に残ったメモをぎゅっと握りしめる。

遥(モノローグ)
「……もう決めなきゃ。」

ト書き
遥はゆっくりと立ち上がり、教室を出た。

柱:学校・昇降口・夕方
ト書き
靴を履き替えながら、遥は透のことを考えていた。

昼休みに話した時のこと。
透の静かすぎる表情。

そして、
「幼なじみルートはない」と言われた時の、
冷たい現実。

遥は靴のかかとを直しながら、
小さく息をついた。

遥(モノローグ)
「これでいいんだよね。」

ト書き
その時——

亮太「遥ちゃん。」

ト書き
背後から名前を呼ばれた。

振り向くと、
そこには佐伯亮太が立っていた。

彼はポケットに手を突っ込みながら、
いつものような余裕のある笑みを浮かべている。

遥「亮太くん?」

ト書き
亮太は、まるで遥の考えを見透かしているかのような目で、軽く顎を上げる。

亮太「何か、決めた?」

ト書き
遥は、一瞬言葉に詰まる。

だけど、
彼のその問いは、
まるで遥の決断を後押しするかのようだった。

遥は小さく頷く。

遥「……うん。」

ト書き
その答えに、
亮太は満足そうに微笑む。

亮太「そっか。」

ト書き
遥はカバンのストラップをぎゅっと握る。

透のことを考えながら、
ずっと答えを探していた。

だけど、
透が振り向かないのなら、
待っていても仕方がない。

遥(モノローグ)
「もう、終わりにしなきゃ。」

ト書き
そんな遥の様子を見て、
亮太が少しだけ顔を覗き込むように言う。

亮太「じゃあ、もう幼なじみに未練なし?」

ト書き
遥は、一瞬躊躇った。

だけど——

遥「……うん、もういいかな。」

ト書き
その言葉を口にした瞬間、遥の胸の奥がすっと軽くなった気がした。

亮太は小さく頷く。

亮太「よし、それなら——」

ト書き
亮太が何かを言いかけた時——

遥のスマホが震えた。

画面を見ると、そこには 「透」 の名前が表示されていた。

遥の心臓が跳ねる。

遥(モノローグ)
「……透?」

ト書き
迷いながらも、
遥はゆっくりと通話ボタンを押す。

遥「……もしもし?」

ト書き
通話の向こうから、
透の低く、いつもより少し硬い声が聞こえた。

透「今、どこ?」

ト書き
たった一言。

遥は、一瞬答えに詰まった。

まるで、
何かを確かめるような透の声。

遥の胸の奥が再びざわつく。

遥(モノローグ)
「何、それ……どういう意味?」

ト書き
しかし、
遥はもう決めたんだ。

彼を待つのはやめる。
この関係に、期待するのは終わりにする。

遥はゆっくりと深呼吸し、透に向かって静かに言った。

遥「……今から、亮太くんとご飯行くよ。」

ト書き
沈黙。

透の返事がない。
遥は、胸の奥で何かを期待してしまいそうになる。

でも、それを振り払うように、スマホを耳から離し、通話を切った。

遥(モノローグ)
「これでいい。」
「私は、前に進むんだ。」

ト書き
亮太が静かに遥を見つめる。

亮太「……それでいいの?」

ト書き
遥は、
亮太の言葉にふっと笑った。

遥「もう、決めたから。」

ト書き
亮太は軽く肩をすくめる。

亮太「そっか。じゃあ行こっか。」

ト書き
遥は、透のことを振り切るように、ゆっくりと亮太の隣を歩き出した。

しかし——
昇降口の少し先。
学校の門の影に、透が立っていることには気づかなかった。

透は、
スマホを手に持ったまま、
遥の背中をじっと見つめていた。