柱:学校・放課後・廊下
ト書き
遥は、透の背中を見つめながら、
ぎゅっと拳を握る。

亮太「遥ちゃん。」

ト書き
亮太は少しだけ身を屈め、遥の目を覗き込むようにして言った。

遥「どうしたの?」

亮太「透くんが本当に嫉妬してるかどうか、試してみない?」

遥「……え?」

ト書き
遥が驚いていると、
亮太は いたずらっぽく微笑んだ。

亮太「やっぱり、マジで俺とデートしよ?」

遥「——!?」

遥(モノローグ)
「ちょ、ちょっと待って……!!」

遥「何言ってるの!?」

ト書き
遥が慌てて否定すると、
亮太は軽く肩をすくめる。

亮太「透くんが本当に“幼なじみ”としてしか見てないなら、気にしないでしょ?」

遥「……っ!!」

遥(モノローグ)
「それって……」
「もし透が動揺したら、“そういう気持ち”があるってこと……?」

ト書き
亮太は、
遥の表情の変化を見て満足げに笑った。

亮太「じゃあ、決まりね。」

ト書き
遥は、
自分の鼓動が早くなっていることに気づく。

これは、
透の本音を知るチャンスなのか?
それとも——

遥は深く息を吸い込んで、頷いた。

遥(モノローグ)
「……もし、少しでも透が動揺したら——」

ト書き
その考えが、
遥の胸を静かに高鳴らせた。

柱:ショッピングモール・館内・昼過ぎ
ト書き
ショッピングモールの館内は、
日曜日の賑わいで活気に満ちていた。
家族連れやカップル、友達同士で訪れる若者たちが行き交い、
あちこちから楽しげな声が聞こえる。

そんな中、相川遥 は 佐伯亮太 と並んで歩いていた。
大型ディスプレイに映る最新映画の予告を横目で見ながら、
ふと、遥は今の自分の状況を意識する。

遥(モノローグ)
「……これ、完全にデートっぽいんだけど……」
「いや、でも本当のデートじゃないし……」

ト書き
自分の目的はあくまで、
透の気持ちを確かめるための 「試し」 だったはずだ。

だけど、
ここに来るまでのやりとりも、
店内を歩いている間も、
亮太が当たり前のように隣にいることに、
なんだか不思議な気持ちになっていた。

亮太「おっ、あの服、遥ちゃんに似合いそうじゃない?」
ト書き
亮太が、ショーウィンドウの向こうに飾られたワンピースを指差す。
白地に小さな花柄が散りばめられた、
シンプルだけど可愛らしいデザイン。

遥は思わず足を止める。

遥(モノローグ)
「こういうの、私が着るイメージあるんだ……?」

遥「え、これ? ちょっと可愛すぎない?」

ト書き
言いながらも、
確かに自分が着たらどうなるんだろう、と思う。

亮太「え、絶対似合うでしょ。」

ト書き
亮太はさらっとした口調で言い、
ニヤリと笑う。

亮太「透くんも、こういうの着てたらドキッとするんじゃない?」

遥「……っ!」

遥(モノローグ)
「な、なんでここで透の名前が出るの!?」

ト書き
不意に名前を出され、
遥の頭に透の顔がよぎる。

いつも無表情な幼なじみが、
自分のこういう姿を見たら、
果たしてどんな反応をするんだろう。

想像した瞬間、
なぜか胸の奥がくすぐったくなった。

遥「……そんなわけないし!」

ト書き
強く否定しながらも、
遥は無意識にスカートの裾を引っ張る。

亮太はその仕草を見逃さず、クスッと笑った。

柱:ショッピングモール・フードコート
ト書き
一通りモール内を歩き回ったあと、
二人はフードコートで食事をすることにした。

遥はハンバーガーを注文し、
ジュースのストローを口に咥えながら、
ふと亮太を見た。

遥「亮太くんって、こういうのよく来るの?」

ト書き
亮太はポテトを一本つまみながら軽く肩をすくめた。

亮太「んー、まぁ、普通にね。」

ト書き
適当に答えるその顔は、
どこか探るような雰囲気を持っていた。

遥が違和感を覚えたその時——

女子の声「……あれ? 遥?」

ト書き
突然、近くの席から聞き覚えのある声 がした。

遥が振り向くと、
そこにはクラスメイトの女子二人が立っていた。

女子A「やっぱり! え、何してるの?」

女子B「え、てか、佐伯くんと……デート?」

ト書き
その言葉に、
遥の心臓が跳ねる。

遥(モノローグ)
「え、ちょっと待って、違うって!」

遥「え、えっと、これは……!」

ト書き
遥が必死に説明しようとするより早く、
亮太が自然な笑顔で口を開いた。

亮太「あ、バレちゃった?」

遥「……は!?!?」

遥(モノローグ)
「ちょっ、何言ってるの亮太くん!?」

ト書き
遥が目を見開いて固まる。
その間にも、
クラスメイト二人は驚いたように顔を見合わせた。

女子A「え、ほんとに?」

女子B「やば、遥、いつの間に……!」

ト書き
遥は慌てて手を振る。

遥「ち、違うってば!!」

ト書き
しかし、
その必死な様子が逆に怪しく映ったらしい。

クラスメイトたちは 含み笑いを浮かべながら、
「とりあえずまた話聞かせてね!」 と言って去っていった。

遥はテーブルに突っ伏す。

遥(モノローグ)
「……終わった……」

ト書き
そんな遥の隣で、
亮太は満足げな顔をしていた。

亮太「いや〜、いい感じに広まるんじゃない?」

遥「よくないから!!!」

ト書き
遥はガバッと顔を上げ、
亮太をジト目で睨む。

遥「なんであんなこと言うの!?」

亮太「いや、面白そうだったし?」

ト書き
遥は 頭を抱えた。

明日から、
間違いなく 「遥と亮太が付き合っている」 という噂が流れる。

そして、
それを聞いた透がどう思うのか——。

遥は、胸の奥にある 小さな期待と不安を感じながら、ジュースのストローを無理やり吸った。