柱:学校・昼休み・教室
ト書き
昼休みの教室は賑やかで、
お弁当を広げる生徒や、友達とふざけ合う声が飛び交っていた。

そんな中、夏目透はひとり、静かに窓際の席に座り、
スマホを眺めていた。
いつものように、特に誰と話すわけでもなく、
誰かを気にかけるわけでもなく——

しかし、今日は少し違った。

ト書き
透の目が、ある一点をとらえている。

教室の中央、遥の周りには数人のクラスメイトがいた。
その中でも、一際目立つ存在——佐伯亮太。

彼は、遥と親しげに話しながら、
時折軽く肩を叩いたり、
小さな冗談を言って 遥を笑わせていた。

それを、
透は無意識のうちに見ていた。

透(モノローグ)
「……なんだよ、あれ。」

ト書き
亮太が、
当たり前のように遥の近くにいるのが気に入らない。

透自身、その理由が分からなかった。

ただ、気に食わない。

柱:教室・遥たちの会話
ト書き
遥は、亮太と話しながら楽しげに笑っていた。

遥「だからね、それで先生にバレちゃって……!」

亮太「マジで?そりゃ遥ちゃん、やらかしたね。」

ト書き
亮太は 軽く笑いながら、
遥の頭をポンポンと軽く叩く。

その動作に、
周囲の女子たちは軽くざわついた。

女子生徒A「ねえねえ、あれって……?」

女子生徒B「亮太くんって、結構誰とでも仲良くするタイプだよね。」

女子生徒C「でも、なんか遥ちゃんといい感じじゃない?」

透(モノローグ)
「……は?」

ト書き
透の指が、
無意識に スマホを強く握る。

“遥ちゃんといい感じ”

その言葉がやけに引っかかった。

なんだそれ。
遥は、自分の幼なじみだ。
ずっと一緒にいて、
ずっと当たり前に隣にいた存在。

そこに 他の男が入ってくるなんて——
今まで考えたことすらなかった。

でも、今——その考えが頭から離れない。

柱:学校・廊下・昼休み後
ト書き
昼休みが終わるチャイムが鳴り、
生徒たちが教室へ戻る時間。

透は廊下を歩きながら、ふと立ち止まる。

透(モノローグ)
「……俺、何考えてんだ。」

ト書き
遥と亮太のことを考えて、
昼休みの間、ずっとモヤモヤしていた。

遥が誰と仲良くしようが、
自分には関係ないはずなのに。

でも、
さっきの亮太の手が遥の頭に触れた瞬間。
遥が笑っていたあの瞬間。

なぜか胸の奥が妙にざわついた。

柱:学校・階段・下りる途中
ト書き
透は 考えを振り払うようにため息をつく。

そこへ、
後ろから軽い足音が聞こえた。

亮太「お、透くんじゃん。」

ト書き
透が振り向くと、
そこには 佐伯亮太がいた。

彼は どこか楽しげに、
しかし 鋭く観察するような目 で透を見つめていた。

透「……なんだよ。」

亮太「いやー、ちょっと気になったからさ。」

透「何が。」

ト書き
亮太は、ふっと微笑む。

亮太「遥ちゃんのこと。」

透(モノローグ)
「……っ!!」

ト書き
透の 心臓が一瞬跳ねる。

それは 驚きの反応 ではなく——
妙な不快感。

それを 見透かしたように、
亮太は さらに言葉を重ねる。

亮太「透くん、遥ちゃんのことどう思ってんの?」

透(モノローグ)
「……何だこいつ。」

透「……幼なじみだけど?」

亮太「そっかそっか。」

ト書き
亮太は意味深な笑みを浮かべながら、
ポケットに手を突っ込み、ゆっくりと階段を下りていく。

だが、
その 去り際に囁かれた言葉 が、
透の心に引っかかった。

亮太「幼なじみって、他の男に取られると案外焦るもんだよね?」

透(モノローグ)
「……。」

ト書き
亮太の言葉が、
透の脳裏にこびりつくように残る。

遥を取られる?
いや、そんなの意味が分からない。

でも、
なぜか簡単に否定できなかった。

柱:学校・教室・授業中
ト書き
授業が始まり、
透はノートを取りながらも、
どうしても集中できなかった。

視界の端に映る遥の姿。

彼女は真剣な表情でノートを取っている。
けれど、昼休みのことを思い出すと、
どうしても違和感が残る。

それは 「不安」 に近いものだった。

透(モノローグ)
「……俺、どうしちまったんだ。」

ト書き
透は、
自分の違和感の正体を
まだ はっきりと掴めずにいた。

だが、
その感情の正体に気づく時は、そう遠くなかった——。

柱:学校・放課後・教室
ト書き
放課後の教室には、まだ数人の生徒が残っていた。
談笑しながら帰る準備をする子、
部活に向かう子、
自主学習を続ける子——。

その中で、相川遥はカバンを持ち、
ちらりと窓際に座る夏目透の姿を盗み見た。

透は無言でノートを閉じ、
特に誰とも話すことなく、静かに立ち上がる。
その動作すらいつも通り。

だけど、
遥はなんとなく違和感を覚えた。

遥(モノローグ)
「……なんか、透の様子、おかしくない?」

ト書き
最近、透はどこか変だった。

何が変わったのか、
はっきりとは言えない。

だけど、今日の昼休み。
透が私と亮太くんのやり取りを見ていた気がする。

柱:学校・廊下・放課後
ト書き
遥は考えを振り払うようにため息をつき、
廊下へと向かった。

そこで偶然出会ったのは——佐伯亮太だった。

亮太「お、遥ちゃん。帰るの?」

遥「あ、亮太くん。うん、今から。」

ト書き
亮太は相変わらずの軽い笑みを浮かべ、
遥の隣にさりげなく並ぶ。

亮太「そういえばさ、今日の昼休み、楽しかったね。」

遥「うん?」

ト書き
遥が首を傾げると、
亮太はニヤリと笑う。

亮太「透くん、めっちゃ見てたじゃん。」

遥「えっ——?」

ト書き
一瞬、心臓が跳ねた。

遥(モノローグ)
「透が、私たちを見てた……?」

ト書き
遥は亮太の言葉を反芻する。

確かに、
昼休みの間何度か視線を感じた気がする。

遥「……そんなわけないでしょ。」

ト書き
自分に言い聞かせるように言うと、
亮太は面白そうに笑った。

亮太「そっか。でもさ……」

ト書き
亮太は遥の肩をポンっと軽く叩く。

亮太「透くん、案外嫉妬深いんじゃない?」

遥「……は?」

ト書き
思わず声が裏返る。

遥(モノローグ)
「ちょっと待って、何言ってるの!?」

ト書き
遥が驚いていると、
亮太はふっと笑い、 ポケットに手を突っ込む。

亮太「ねえ、試しにさ、俺とデートしてみない?」

遥「……えっ!?」

柱:学校・廊下・放課後・透の登場
ト書き
遥が困惑していると——。

「——遥。」

ト書き
低く、はっきりとした声が響いた。

振り返ると、そこには夏目透。

遥(モノローグ)
「透……?」

透「何やってんだ。」

ト書き
透は、
遥と亮太の間に 無言で歩み寄る。

遥(モノローグ)
「……え、ちょっと待って、透がこんな風に話に割り込むのって……」

遥(モノローグ)
「珍しい……いや、むしろ、今までこんなことなかった……!」

亮太「お、透くん。ちょうどいいところに。」

透「……何の話だ。」

ト書き
透の目は、
亮太をじっと睨むように見ている。

その目つきに、
遥の胸が妙なざわつきを覚えた。

遥(モノローグ)
「……なんで、そんな顔してるの?」

亮太「あー、ちょうど遥ちゃんとデートの話をしてたんだよ。」

透「……は?」

ト書き
透の表情が一瞬で強張る。

遥(モノローグ)
「え、そんなに驚くこと……?」

遥「ちょ、ちょっと待って! そういう話じゃなくて!」

ト書き
慌てて手を振る遥。

その動きとは対照的に、
透の瞳は鋭くなっていく。

透「……遥が、お前とデート?」

ト書き
透は遥の腕をぐいっと掴む。

遥「えっ、透?」

ト書き
遥の驚いた声が、少し震える。

だって——
透が、こんな風に掴んでくることなんてなかったから。

遥(モノローグ)
「透が……私のこと、止めてる?」

亮太「……へぇ。」

ト書き
亮太は少し目を細め、
まるで 「思った通り」 というように笑う。

亮太「やっぱり、透くんって独占欲強いんだね。」

遥(モノローグ)
「——!!!」

ト書き
遥の鼓動が跳ねる。

透は、
その言葉に一瞬動揺したように見えたが、

すぐに歯を食いしばり、無言で遥の手を離した。

透「……帰る。」

ト書き
透は、
それ以上何も言わず 先に歩き出した。

遥は、
そんな彼の背中を見つめながら、
ぎゅっと拳を握る。

遥(モノローグ)
「透……何か隠してる?」

ト書き
その問いの答えが出るには、
もう少し時間がかかりそうだった——。