柱:学校・中庭・夕方
ト書き
夏の終わりを感じさせる涼しい風が吹く中庭。
夕陽が木々の隙間から差し込み、
ベンチに座る三崎杏の横顔を照らしていた。

彼女の前には、
つい先ほどまで相川遥の姿があった。

遥は、焦るようにその場を後にした。

しかし——

そのやり取りを見ていた者がいた。

中庭の影の中に、じっと立っていたのは——透だった。

柱:学校・中庭・ベンチ付近
ト書き
透は、
ずっと遥と杏の会話を聞いていた。

「幼なじみルートには条件がある。」
「ずっと一緒にいた幼なじみじゃなくて、しばらく離れていた幼なじみが、ある日再会した時——その瞬間が、恋愛ルートに繋がる時。」

透の胸の奥に、
微かにざわめくものがあった。

遥の驚いた表情。
遥の動揺した瞳。

それを見た瞬間、
透の心に小さな痛みが走った。

透(モノローグ)
「……遥、そんなこと気にしてるのか。」

ト書き
透は、
遥が慌てるように走り去る姿を見つめていた。

その背中を追おうと、
足を一歩前に出しかけた時——

杏「透、そこにいたのね。」

ト書き
透の足が、
その場で止まる。

杏が、
静かにこちらを振り返っていた。

まるで最初から透がいることを知っていたかのように。

透は、
わずかに眉をひそめる。

透「……いつ気づいた。」

ト書き
杏は、
ベンチに腰掛けたまま肩をすくめる。

杏「最初から。」

ト書き
その言葉に、
透は小さく息を吐いた。

やはり、
彼女には全て見透かされている。

杏は透の動きをよく観察しながら、
微笑む。

杏「どうするの?」

透「……何が。」

ト書き
透は、
素っ気なく答えながら、
杏の向かいに立つ。

杏「相川さんのこと。」

ト書き
その問いかけに、
透は沈黙する。

杏は透の表情を見て、
再びゆっくりと口を開いた。

杏「透は、自分が相川さんを大切に思ってること……ちゃんと自覚してるの?」

ト書き
透の胸の奥が、微かにざわつく。

透(モノローグ)
「……それは。」

ト書き
杏は、
透の反応をじっと観察するように見つめる。

そして、
軽く息を吐きながら、
再び静かに言葉を続けた。

杏「私ね、透。」
杏「相川さんと話して、確信したの。」

ト書き
透は、
杏の目をじっと見る。

杏はどこか楽しそうに、でも確信に満ちた口調で言った。

杏「相川さんは、透のことが好き。」

ト書き
透の心臓が、一瞬跳ねる。

しかし、
それを表情には出さない。

透(モノローグ)
「そんなこと、分かってた。」
「遥が俺のことをどう思ってるかなんて……」

ト書き
杏は、
透の反応を楽しむように、
ゆっくりと片足を組む。

杏「でも、相川さんは焦ってた。」
杏「“ずっと一緒にいた幼なじみ” は、恋愛ルートに繋がらないんじゃないかって。」

ト書き
透の手が、無意識に拳を握る。

杏は、
そんな透の動きを見逃さない。

杏「……透。」

ト書き
透が顔を上げる。

杏は、
透の目をまっすぐに見つめ、はっきりと言った。

杏「相川さんがそう思ってるってことは、“透は、相川さんをちゃんと繋ぎとめられてない” ってことよ。」

ト書き
透の瞳が揺れる。

透(モノローグ)
「……俺が、遥を繋ぎとめられてない?」

ト書き
杏は、
透の様子を見ながら、
にっこりと笑った。

杏「ねえ、透。」
杏「遥ちゃんが離れちゃったら、どうする?」

ト書き
透は、
何も言わないまま空を見上げる。

でも、
その目には確かな迷いがあった。

そして——
遥の走り去った方向を無意識に見つめる自分に気づいた時、

透は、
ようやく自分の気持ちに向き合い始めていた。