────20歳の春


私達の関係は変わらず、週一のご飯会もまだ続いていた。

20歳を迎えてからは、飲み会になった。

適度に飲んで程々で帰る。

私と千秋の関係は良くも悪くもずっと幼馴染みで友達のまま。

千秋実は私の事好きなんじゃない?なんて思った事もあるけど、何も無いから気のせいだったんだと思う。

そんな私達の関係が進んだのはある日のお決まりの飲みの日だった。


「また別れた~!」


居酒屋のカウンター席でカシスオレンジが入ったグラスを片手に嘆きを零す。

こんな情けない嘆きを何ともない顔で隣の席で焼き鳥を食べている千秋。

相変わらず千秋はこのぼやきを慣れた様に聞いている。

今回に関しては、半年前に付き合った彼氏にまた「何か、俺の事好きそうに見えない」なんて言われて昨日終わらせられた。


「半年?持った方じゃんね。お疲れ様。」

「流れ作業みたいに言うのやめてくれる?」

「上手くいくわけないじゃん。朱莉は好きか分からないのに付き合って、それが相手にも伝わってるんだよ。男のメンタルはズタボロだろうね。」


伝わってるって…、私なりに愛を返しているのに。

毎度毎度こんな振られ方をして、本当に私を愛してくれる男性なんていないんじゃないかと、そろそろ懲りてきた。


「第一さ、何で好きか分からないのに付き合うの?」

「…好きになれるかもしれないじゃん」

「それで結果は?」

「もう!そんな意地悪ばっかやめてよ…。」


そう言いながら千秋の頬を軽く引っ張る。

千秋はこうすると決まって少し困った顔をした。


「…それ、朱莉の悪い癖だよ。」

「え?」

「急に距離を詰めて簡単に触れてくるの。男はそれだけで、もしかしてこの子俺の事好きなのかなって勘違いしちゃうの分かってる?」


千秋の発言に私はあまり真に受けずにもう少しだけ距離を詰めて肩に手を置いて「千秋は惚れちゃいそう?」なんて、笑って問い掛ける。

結構な距離で見つめているけど、千秋は見つめ返してくるだけ。

だよね。分かってた。

今までも千秋の反応で結構私も詰めて見たりするけど、好きだなんて言われなかったし、手ごたえも無い。

千秋は私を好きになんてならないもんねーなんて思いながらほんの少しだけ笑いかける。