朝、目が覚めると、わたしの枕の横に真っ白なハムスターがスピスピと寝息を立てながら眠っている。
 ……可愛い。
 
 真っ白な毛皮が朝日を浴びてキラキラと輝いている。
 触ってみると、ふんわりとした毛並みは、触り心地がいい。
 夢じゃなかったんだ。
 魔法のワンピースも壁にかかっているし、ケイ君もここで寝ているもの。

 まさか、わたしの人生に、魔法なんて不思議なものが登場するとは思わなかった。
 ワンピースにすんなり体が入らなかったのは残念だけれど、なんだかワクワクする。
 だって、魔法だよ? 魔法なんて今まで本の中の世界だったもの。それが現実になるなんて、今まで考えもしなかった。

 おもちみたいに白く丸いケイ君が、コロンと転がって寝返りを打つ。

 「なんか……ペット飼っている気分」

 お母さんに反対されて、ペットは飼ったことがなかったから、ちょっと嬉しい。
 わたしが触ったから目が覚めてしまったのか、ケイ君の目が開く。キョロキョロと当たりを見回して、ケイ君のすみれ色の瞳が、わたしを見つける。

 ボフンと音がして、ケイ君が男の子の姿に戻る。

 「おはよう! まりあ」

 ケイ君が、わたしにニコリと微笑む。
 え、笑顔が眩しい!
 ケイ君が手を伸ばして、わたしの頬をなでてくる。

 待って……ベッドに男の子と二人……。
 てか、近い! 

 「ひゃあ!」

 わたしは、慌ててしまってベッドから転がり落ちる。
 だって、朝から……いや、朝でなくっても、男の子と二人でベッドにいるなんて、ちょっと無理。
 恥ずかしくって、顔が真っ赤になる。

 そうだった。
 ケイ君は普通のハムスターではなくて、人間の男の子の姿にもなるんだった。

 モフモフでコロンとした小さなハムスターの姿が可愛くって、つい忘れてしまっていた。

 「なんだよ。突然! 大丈夫か?」

 ベッドから転がり落ちたわたしをケイ君が心配している。

 「だって、そんないきなり顔が近いから!」

 て、わたしの言葉、聞いてた?
 距離が近すぎるってば!
 なんで抱き上げようとするのよ!

 これは、ケイ君が精霊だからなのだろうか。
 ケイ君は、わたしがドキドキしちゃうほどの近すぎる距離感を、いっこうに気にしない。

 ケイ君が、わたしをヒョイと持ち上げる。
 お、おおお姫様抱っこというものではないだろうか。これ。
 ケイ君の両腕に抱えられて、わたしは、ケイ君の胸にもたれている状況。
 顔を上げれば、ケイ君の顔がますます近くなる。
 ヤバイ。どきどきする。

 「うん。今日の体重は……五十……」

 バシッ!
 わたしは、思いっきり、ケイ君の右頬を平手打ちしてしまった。
 だって、体重をそんな口に出して言うなんて。
 いや、ケイ君は、体重計の精霊だって分かってはいるけれども。
 どきどきしたわたしが、馬鹿だった。