イケメンの男の子。
 白い長い髪を後ろに束ねて、歴史の教科書の平安時代みたいな服を着ている。
 直衣とかいうんだっけ? 真っ白な服は、彼によく似合っている。
 見惚れるほど綺麗な、白い長いまつ毛の下のすみれ色の瞳が、私を見て微笑みを浮かべている。

 「えっと、あなたは神様なの?」

 そう……『付喪神』って、言っていたもの。
 神様ってことじゃない?

 「うーん。神って偉い感じじゃなくって、えっと……妖精? あっちの方が近い感じ」
 「そうなんだ」

 妖精って、羽が生えている女の子なんだと思っていた。
 こんな平安装束の男の子の妖精もいるのかな。

 「ともかく、お前、このワンピースを着て、意中の男に告白するんだろう? 俺が、手助けしてやる」
 「わ、聞いていたの?」
 「ああ! 『従者のエキス』でお前が俺を呼び出したんだ。だから、俺は、お前の望みを叶える!」
 「え、本当?」
 「一ヶ月後が告白の期限だろう? 俺がお前を特訓して、この服を着られるようにする!」

 えへんと、男の子がドヤ顔する。

 「と、特訓?」

 魔法で痩せさせてくれるわけではないようだ。
 特訓なんだ。うわぁ……

 わたしが、男の子と話していると、バタバタと足音が近づいてくる。

 「ちょっと! こんな夜中に誰と話しているの?」

 お母さんだ。
 いつもながら遠慮がない。ノックもせずに、部屋の扉を開けちゃう。
 まずい、この平安装束の見知らぬ男の子を見られたら、どうなるのだろう。

 「お、お母さん! あのね!」
 「あら……まりあ一人なの?」
 「え?」

 見回しても、誰もいない。あの男の子はどこに行ったのだろう。

 「げ、劇の練習をしていたの」
 「あら……そう……。もう夜遅いから、静かにね」
 「はぁい」

 お母さんは、部屋の扉を閉めて、リビングへと行ってしまった。
 誰もいない。
 ということは、今のは、夢だったのだろうか……
 わたしがきょろきょろと探し回っていると、足元から男の子の声がする。

 「おい! 危ないだろ! 気を付けろよ」

 声のする方をみれば、白いハムスターが一匹。

 「わ! 可愛い!」

 わたしは、ハムスターを両手ですくいあげる。
 ハムスターは前足を組んで、偉そうだ。

 「こんな可愛い姿にもなれるんだ」
 「へへ! 俺が有能だって気づいだか!」

 従者というには、あまりにも偉そうだが、ハムスターの姿だと可愛らしい。

 「そうだ、名前は?」

 わたしは従者だというハムスターに聞いてみる。

 「名前? 体重計?」

 わたしの手のひらの上でハムスターはキョトンとして、首をかしげる。
 とっても可愛いしぐさだが、そうじゃない。
 体重計は、名前じゃない。

 「そうじゃなくて……ええと、ないなら……わたしが付けていいの?」
 「え、名前を付けてくれるのか?」

 なんだかすごく喜んでいる。
 ハムスターが目をキラキラさせてこっちを見ているの、すごく可愛い。
 期待されている……
 これは、後には引けない。何か名前を付けてあげなきゃならないだろう。
 名前……どうしよう。 
 ええっと、人間でも、ハムスターでも変でない名前がいいよね?
 体重計の精だって、言っていたよね……
 体重計……体重、計……
 
 「計……ケイ君?」
 「ふうん、なんか単純なつけ方だなぁ」
 「何よ。急に言われたんだから仕方ないじゃない! 不満なの?」
 「いいや。だってまりあが俺につけてくれた名前だもの。俺はケイだ! よろしくな! まりあ!」

 ハムスターのケイ君が、わたしの指を握った。
 きっと、握手のつもりなのだろう。

 ちょっと従者というのは偉そうだけれど……小さい手できゅっと指をつかまれたら、可愛くってしかたない。

 手伝ってくれるって言うのだから、まぁいいか。
 わたしも「よろしくね!」って返したんだ。