夏休みの間、わたしはずっと、あの魔女の店を探していた。
 七夕の彦星だって、織姫を探して天界へ行けたのだ。わたしだって、魔女の店を探し出して、ケイ君を助けられるかもしれない。

 あきらめている場合ではない。
 あきらめたら、本当に、二度とケイ君に会えなくなってしまう気がする。

 あの時、わたしはどうやってあのお店に行ったのだろう?

 暑い中、わたしは毎日歩き回る。
 ケイ君に会いたい。
 その一心だった。

 夏休みも終わりに近づいた頃、歩き疲れたわたしが休憩に立ち寄ったのは、ケイ君と二人で行った公園だった。
 夏休み中だし、小学生が数名、楽しそうに遊んでいる。そのにぎやかに笑い合う横を通り過ぎて、わたしはベンチに座る。
 
 残念ながら、今日はお弁当は持ってきていないけれど、わたしの手には、お水を入れた水筒が一つ。

 水筒の水を飲んで、一息つく。
 わたしの腕には、ケイ君とお揃いのガラスの靴のチャームがついたブレスレットが、お日様の光を浴びて輝いている。

 ブレスレットも一緒に、ケイ君と消えた。
 ということは、ブレスレットは、ケイ君と一緒にあるんだ。
 
 十二時に魔法が解けて王子様と一旦は離れたシンデレラの元へ王子様を導いたのは、あのガラスの靴だった。
 わたしは、ガラスの靴のチャームに祈りを込める。
 
「お願い。ケイ君と一緒にいたいの」

 藁にもすがる気持ちだった。
 わたしに魔法の力があるわけではない。
 でも、他に頼るものもないの。

 周囲を通り過ぎる人が、必死に祈るわたしを見て、クスクスと笑っている。
 だけれども、そんなの構っていられない。
 わたしは、じっと祈り続ける。

 ダメだ。
 何も起きない。

 しばらく祈ったあと、わたしは立ち上がる。
 やっぱり自分の足で探さなきゃと、また疲れた足を引きずって歩き出したわたしは、ある人を見つける。

 「アクセサリー屋のおばさんだ」

 荷物を持って忙しそうに作業をしているのは、ケイ君と二人で行って、あのガラスの靴のブレスレットを売ってくれたおばさんだった。

 つい懐かしくなって駆け寄れば、また露天を開いている。

 「おや、この間アクセサリーを買ってくれた子だね!」

 おばさんは、にこりと人懐っこい笑みを見せてくれる。

 「今日は精霊を連れていないんだね」
 「え、おばさん! ケイ君が精霊だって気づいていたの?」
 「そりゃそうさ。おばさんは、何でもお見通し。魔女エレルザーレが黒い魔女なら、おばさんは、白い魔女」

 驚いた。
 魔女って、一人じゃないんだ。

 「それにしても驚いた。あなたすごいね。このわたしと、二回も会うなんて! 普通は、一度きりしか会えないのよ?」

 似たようなことを、魔女エレルザーレも言っていたっけ? そんなにすごいのだろうか?

 「願う力が強いのかもね。たまにいるのよ、そういう人間。ほら、何だかんだで、強運な人、いるでしょ? あなたの周りにも」

 確かにいる。
 クラスメートの菜々子ちゃんなんかは、よく雑誌の懸賞に当たったり、コンサートの抽選でも当たったりしている。

 でも、わたしは、そんなの当たったことない。
 魔女に出会う確率が高くっても、良いことばかりではない。

「魔女さん、お願い! ケイ君に合わせてほしいの!」

 おばさんが魔女だっていうならば、わたしは、頼みたい。それこそ、ケイ君が、あの悪い魔女の手から逃げられるのならば、わたしの魂くらいくれてやったっていい。

 そう……思ったの。

 「あら、あなたには、もう助けはお売りしたじゃない」

 おばさんが、わたしのブレスレットをツンツンとつつく。

 「待ってなさい。チャンスは必ずその靴が連れてくるから」
 「靴が? このガラスの靴が?」
 「そう。でも油断しちゃダメよ。靴が連れてきたチャンスを逃せば、その次はないの」

 ……その次はない。

 わたしの背中は、夏なのにゾクリと寒くなる。
 思わずブレスレットをギュッと握り締めた。

 おばさんは、それ以上何も教えてはくれなかった。
 そして、夏休みの間、ブレスレットがケイ君を連れてきてくれることも、わたしを導いてくれることもなかった。