【#9】
*Side 初芽*
「おはようございます! 苺花いますか?」
中学入学式の朝、8時過ぎ。
わたしは、苺花の家にお迎えに行った。
「初芽ちゃん、おはよう。ちょっと待ってね」
苺花のお母さんが笑顔で迎えてくれて、まだ部屋にいるらしい苺花に声をかけてくれた。
少しして慌てて玄関に降りてきた苺花を見たら、
「苺花のスカート可愛い!わたしもその色にすれば良かった~」
思わずそんな言葉が出た。
「ほら、ふたりとも急がないと遅刻するわよ」と苺花のお母さんに言われて慌てて学校へ向かう。
学校について廊下の掲示板に貼られているクラス分け表を見ると、わたしも苺花も同じ3組だった。
「苺花!わたしたちふたりとも3組だったよ!」
少し離れた場所にいた苺花に満面の笑みでそう報告すると、苺花も大喜びしてくれた。
春休み中、「同じクラスになれるといいね」って話していたから、本当に嬉しい!
「はい、席に着いて」
担任の先生が教室に入ってきて、騒がしかった教室が緊張感に包まれる。
「担任の榎本です。1年間よろしくね」
明るく挨拶した先生に「恋人はいますか~?」なんて質問している男の子と、「いきなり先生口説くなよ、おまえはチャラ男か!」と突っ込む男の子の絶妙な掛け合いにクラスから笑いが起きた。
このクラスなら楽しくなりそうな気がする。
* * *
出欠確認のあと、体育館で入学式が行われた。
緊張しつつも中学生になったことを実感する。
「新入生挨拶の言葉。新入生代表、一年三組 速水 駿」
突然聞こえてきた同じクラスの子の名前に前を見ると、朝の出欠確認で突っ込みを入れていた男の子だった。
新入生代表に選ばれたということは、小学生時代に成績が良かったってことなのかな。
落ち着いてしっかりとした口調で挨拶文を読み上げる姿は、同じ一年生には見えないくらい堂々としていた。
* * *
「苺花、お疲れ。校長の話長かったね~」
全てのプログラムが終わった後、教室に向かう途中で声をかけた。
「そういえば、新入生代表で挨拶してた速水くん、すごかったね」
もうひとつ印象に残ったことを口にすると、
「あ、初芽ちゃんも思った?」
苺花も同じことを思っていたようで、そう返してくれた。
「うん。堂々としててさすが代表って感じでカッコ良かった」
「もしかして初芽ちゃん、好きになったとか?」
「え、そんなんじゃないよ~!」
なんて言いながらも、実はほんのちょっとだけ、速水くんのことが気になり始めている。
さっき初めて会ったばかりで「好き」とか言えるようなものではないけど。
「でも、なんかこうして制服着て入学式やると中学生になったんだって実感するね」
「うん。ホントだね。苺花と一緒のクラスだし中学生活楽しくなりそう!」
苺花の言葉に笑顔で頷く。
これからの中学生活、楽しく過ごせたらいいな。