【#6】


春遠足を終えてすぐに訪れた5月の連休中。

「映画、楽しかったね~」

駅前のドーナツショップで、初芽ちゃんが興奮気味に言った。

日曜の昼下がり。

店内は家族連れやカップルで賑わっている。

「特に翔くん、イケメンだったなぁ~」

「確かに、マンガのイメージ通りだったね」

初芽ちゃんの言葉にわたしも頷いた。

わたしたちは、今大人気の少女マンガが原作の映画『青恋-アオコイ-』を観たんだけど。

クールなヒーロー・翔くん役を人気アイドルグループのメンバーが演じていて、マンガのイメージ通りで素敵だった。

「翔くんって、速水くんに似てない?」

チョコドーナツを食べながら、初芽ちゃんが言った。

「え、そう?」

「うん。クールだけど、笑うと無邪気な感じになるところとか……」

言いながら、初芽ちゃんの顔がほんのり赤くなっている。

もしかして……。

「初芽ちゃん、速水くんのこと好きなの?」

「……!?」

わたしの質問に動揺したのか、初芽ちゃんは慌てた様子で注文していたミルクティーを飲んだ。

「けほっ」

「大丈夫?」

むせてる初芽ちゃんに声をかける。

落ち着いたところで、初芽ちゃんがテーブルに視線を落したままつぶやいた。

「バレたか」

ってことは、図星なんだ。

「いつから?」

「気づいたのは、春遠足の前くらいかな」

観念したように、初芽ちゃんが言った。

「グループ決めの時に、うまくまとめてくれて。すごいなぁって思って……それから、いつの間にか気になってた」

そう話してくれた初芽ちゃんは、完全に恋する女の子の顔になっていた。

そっか。初芽ちゃん、好きな人ができたんだ。

嬉しいような、寂しいような、ちょっと複雑な気持ちが胸に広がる。

「苺花はいないの? 好きな人」

「えっ!?」

初芽ちゃんに訊かれて、一瞬頭に浮かんだのは、森川くんの顔。

なんでよりにもよって森川くんなの!?

自分で自分に戸惑っていると、

「あ、いるんだ~」

初芽ちゃんがすかさず突っ込んできた。

「い、いないよ!」

慌てて否定したけど、初芽ちゃんは得意げな顔になって言った。

「うそ! 見ててわかっちゃった、苺花の好きな人。チャラ王子でしょ?」

「………」

否定も肯定もできず、黙りこむ。

わたしには、まだ「好き」っていう気持ちがよくわからないから。

「どうして、そう思ったの?」

わたしを見てわかったと言った初芽ちゃんは、何がきっかけでわたしが森川くんのことを好きだと思ったんだろう。

「だって苺花、いつも森川くんのこと見てるでしょ? 春遠足の時、女子達で遊んでる時もずっと森川くんのこと見てたから、すぐわかったよ」

「そんなに見てた?」

「うん。ガン見してた」

そんなにはっきりわかるくらい見てたんだ。

なんだか今になって急に恥ずかしくなってきた。

「でも、相手があのチャラ王子だとライバル多くて大変そうだね」

確かに、森川くんはすでに女の子から「カッコイイ」って騒がれてる。

早くも陸上部のレギュラー候補と言われているみたいだし、これからますます人気が出そう。

……って何考えてるんだろう、わたし。

これじゃ、ホントに森川くんのことが好きみたいじゃない。

「お互い、頑張ろうね」

だけど、そう言って笑った初芽ちゃんの笑顔に、

「……そうだね」

と答えているわたしがいた。

好きな人の存在に気づいた日。

街はあたたかな日射しが降り注ぎ、春色に染まっていた。