【#3】



新学期が始まって数週間が過ぎた。

少しずつ授業が始まって、中学生活が本格的に動き出している。

教科ごとに先生が違ったりして、今までとは違う雰囲気に戸惑いつつも、中学生になったことを改めて感じている。

「起立」

「礼」

日直の声に合わせてみんなが礼をしたあと、教室中が騒がしくなった。

「駿、陸上部見学行こうぜ」

「おう」

森川くんと速水くんが楽しそうに教室を出ていくのを見ながら、まだ決めていない部活のことを考えた。

うちの中学は、家庭の事情とか何か特別な理由がない限り、部活動の参加は必須なんだ。

「苺花、部活決めた?」

帰り支度をしていたら、初芽ちゃんに訊かれた。

「まだ悩んでるけど、文芸部にしようかなって思ってる」

小さい時から外で遊ぶより読書する方が好きだから、自分には合っていると思う。

「文芸部か~。苺花らしいね」

初芽ちゃんから見ても、やっぱりわたしらしい選択みたい。

「初芽ちゃんは?」

「わたしは、ダンス部がいいかな~って思ってる」

わたしとは反対に小さな頃から体を動かすことが好きな初芽ちゃんは、小学校のクラブ活動でもダンスクラブに入っていた。

「新入生歓迎会の部活動紹介の時、ステージで踊っていた先輩たちを見てカッコイイなって思ったんだ」

「そっか。初芽ちゃんらしいね」

「そう?」

「じゃあ、帰りに一緒に見学していこうか」

ふたりで教室を出て、まずは文芸部の見学をすることにした。

活動場所は一階の図書室。

「失礼します」

ちょっと緊張しながら中に入ると、

「いらっしゃい。部活見学かな?」

すぐに部長さんらしき先輩が笑顔で声をかけてくれた。

「はい」

サラサラの艶やかな黒髪ロングヘアに、透き通るような白い肌。

和風美人という言葉がピッタリな人だ。

「部長の藤堂 椿です」

名前まで綺麗な人だな。

立花(たちばな)苺花です。よろしくお願いします」

わたしが緊張気味に返すと、

「いちかちゃん? 可愛い名前だね。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

藤堂先輩が優しくそう言ってくれた。

それから、先輩は文芸部の主な活動内容について説明してくれて、

「うちの部は人数も多くないし、アットホームな雰囲気だから。読書が好きな子なら大歓迎だよ。ぜひ入部待ってるね」

最後にそう言って握手してくれた。

「すごく優しそうな部長さんだったね」

図書室を出てダンス部の活動場所である体育館へ向かいながら、初芽ちゃんが言った。

部活の先輩って厳しいとか怖いってイメージがあったけど、文芸部の先輩は全然そんなことなさそう。

あの雰囲気なら内気で人見知りなわたしでも大丈夫かもしれない。

そんな風に思えて、わたしは文芸部に入ることを心の中で決めた。