「卒業生退場」
司会の先生の言葉で、卒業生がクラスごとに席を立つ。
吹奏楽部が演奏する威風堂々と保護者や在校生の拍手を聴きながら体育館を出た。
無事に卒業式を終え、みんなどこかホッとしたような表情を浮かべている。
3月15日。
今日、ついに中学校生活3年間が終わった。
最後の学活では、先生からひとりひとりに手紙が渡された。
「卒業おめでとうございます」
最後の挨拶を終えた後も、渡り廊下や校門の近くで保護者や友達と写真を撮ったり別れを惜しむ卒業生たち。
今日はあいにくの曇り空で、今にも雨か雪が降りそうな天気だ。
(あ、真柴)
校門の近くの桜の木の下で、真柴が部活の後輩らしき男の子と話していた。
今日が最後だから、本当は想いを伝えるべきなのかもしれない。
都内の高校を受験したわたしは真柴とは別の学校に通う。
近くにある学校じゃないから、学校帰りに偶然会うこともないだろう。
だけど……。
真柴がわたしのことをまだ好きだとは思えないし、今さら告白してもきっと迷惑なだけだよね。
「舞桜? そろそろご飯食べに行くわよ」
お母さんに声をかけられて我に返ったわたしは、そのまま校門を出た。
「それにしても今日は寒いな。舞桜、日頃の行いが悪いんじゃないか?」
歩きながらお父さんがからかうように言う。
「そんなことないよ!」
反論しながら見上げた空は、低く垂れ込めた雲に覆われたまま。
「あ、雪」
そしてついには雪が降ってきた。
「やっぱり日頃の行いが悪いのよ」
お母さんまでそんなことを言い出した。
「本当なら桜が咲き始める頃なのにな」
お父さんが通りがかりにある桜の木を見てつぶやいた。
「桜吹雪じゃなくて本物の雪ね」
お母さんも少し残念そうだ。
手のひらを出すと、粉雪は手の中ですっと溶けて消えていく。
それはまるで言えないまま消えていったわたしの片想いみたいで。
(真柴のこと、ずっと好きだったよ)
心の中で、ずっと言えなかった想いをそっと唱えた。