「また隣の席、春名だ」
中学2年生の新学期。
教室に入って自分の席に着いたら、すでに隣の席に座っていた真柴(ましば)が言った。
「また隣の席 真柴だ」
ちょっと嫌そうな言い方になってしまったけど、本当は嬉しかった。
というのも、真柴はわたしにとってちょっと気になる男の子だからだ。
小学3年生の時からずっと同じクラスで、出席番号順の席では必ずと言っていいほど隣の席になっている。
だから、お互い「また隣の席だ」と言ってしまったんだ。
隣の席ということは当然生活班も一緒なわけで、授業中のグループ活動も給食の時間も掃除の時間もいつも一緒。
そんな中で気がついたこと。
真柴は、特別カッコイイわけじゃない。
だけど、いつも面白いことを言ってみんなを笑わせてくれる。
いつのまにかみんなを盛り上げている。
そして、ただのお調子者のムードメーカーってだけじゃなくて、優しいところもあるんだ。
あれは初めて同じクラスになった小学3年生の時のこと。
あの頃、わたしのクラスではこっそりクラスメートの靴箱の上履きを反対にするイタズラが流行っていた。
ある日の放課後、偶然帰り際に昇降口で真柴とすれ違った。
その時に一言、「春名の靴、反対だったから直しておいた」って言われたんだ。
「……あ、ありがとう」
突然のことに驚いて、それだけ言うのが精いっぱいで。
あの時、思ったんだ。
真柴って、わたしのことをよく見てくれているんだなって。
そして、わざわざ直してくれるなんて優しいなって。
今思えば、あの時から真柴はわたしにとって気になる男の子だったのかもしれない。