【#12】


ゴールデンウィーク中の日曜日。

わたしは、地元の映画館で苺花と待ち合わせをした。

今日は、今クラスでも大人気の少女マンガ『青恋』を観る予定。

わたしも苺花も原作のマンガが大好きだから、ふたりで観ようって約束していたんだ。

「楽しみだね」

ふたりでワクワクしながらジュースとポップコーンを買って、中に入る。

上映が始まると、一気に物語の中に惹きこまれた。

スクリーンの中、クールなイケメン男子・翔くんに壁ドンされている主人公の結愛ちゃん。

「他の男のことなんか見るなよ」

大音量で響く翔くんの甘いセリフに、わたしも含め館内中……いや、映画を観た日本中の女の子が胸キュン間違いなしだと思う。

そして、わたしには翔くんが速水くんと重なって見えてしまって、映画を観ている間中、ドキドキしていた。


* * *


「映画楽しかったね~!」

映画を観終わったあと、苺花とドーナツショップで感想を熱く語り合った。

そこでわたしは初めて速水くんのことが好きだと苺花に打ち明けた。

打ち明けたというより、苺花に気づかれた感じだけど。

そして、苺花にも好きな人ができたと知った。

相手は、予想通りチャラ王子。

まさか苺花がチャラ王子を好きになるとは思わなかったけど。

でも、こんな風に苺花と好きな人の話をすることに実はちょっと憧れていたんだ。

「お互い頑張ろうね」

わたしの言葉に、苺花は少し戸惑いながらも「そうだね」と返してくれた。

これからも、こんな風に苺花と遊びに行ったり、好きな人の話をしたりしたいな。

* * *

「この前の漢字テストを返しま~す」

担任の榎本先生の言葉に、みんなが騒ぎ始めた。

月曜日最初の授業は、担任の榎本先生が担当教科の国語。

先週末の授業で漢字テストがあって、その答案用紙が返されるんだ。

なんだか一気に現実に引き戻された気分。

「速水くん」

「はい」

「満点おめでとう」

榎本先生が笑顔でそう言って答案用紙を渡した。

「すげ~速水」

「さすがクラス委員」

みんなが感心してる。

やっぱり速水くんって頭いいんだなぁ。

「山吹さん」

「はい!」

わたしの順番が来て、ちょっと緊張しながら先生のところへ。

「一問間違い、おしかったね」

そう言いながら渡された答案用紙を見ると、赤点で書かれた点数は95点。

国語は小学生の時から得意だったから、今回のテストも手ごたえはあったんだけど。

満点取れなかったのは悔しいなぁ。

「初芽ちゃんすごいね」

苺花に言われて、苺花の答案用紙を見ると、90点の文字。

「苺花だってすごいじゃん」

照れ隠しにそう返す。

みんながお互い答案を見せ合って賑やかな教室の中、

「森川くんはもうちょっと頑張らないとダメよ」

そんな先生の言葉が聞こえて思わず苺花とふたりで顔を見合わせる。

何点だったんだろう?

なんてちょっと気になっていると、

「ちょ、40点とかヤバくね?」

速水くんが堂々と森川くんの点数を口にした。

う~ん、森川くん、勉強は残念な感じなんだなぁ。

まぁ、陸上部で頑張ってるしね。

勉強より部活なタイプなのかな。

速水くんは完璧優等生って感じだけど。

「森川くん、せっかくなら速水くんに教えてもらいなさい」

先生の言葉に、

「は~い」

森川くんが同時にちょっとシュンとした声で返事をして。

その様子がなんだかちょっと可愛くて、教室から笑い声が聞こえてきた。


* * *


「山吹、今日の放課後クラス委員会あるって」

授業が終わって休み時間、速水くんが声をかけてくれた。

「了解」

わたしが頷くと、速水くんはそのまま席へ戻って行った。

相変わらず、無表情というかクールというか。

春遠足の時には楽しそうに笑ってたのになぁ。

「相変わらずクールだね」

わたしと同じことを思ったのか、苺花がそうつぶやいた。


* * *


休み明けでいつもより長く感じた授業を終えて迎えた放課後。

わたしは速水くんと一緒に会議室へ向かった。

「失礼します」

中に入ると、まだ誰も来ていなかった。

「一番乗りだね」

「ああ」

………。

とりあえず一番前の席にふたりで並んで座ったものの…。

速水くんは必要最低限なことしか話さない人だから、沈黙がなんとなく気まずい。

「そ、そういえば、速水くん漢字テスト満点だったんだよね! すごいね!」

「え? ああ、ありがと」

突然の話に戸惑いつつも、速水くんが返事をしてくれた。

とにかく何か話題を、と思って浮かんだのがテストの話なんて我ながら情けない。

こっそり落ち込んでいたら、

「でも、山吹だって一問間違えただけだろ?」

ふいに聞こえてきた言葉。

「どうして速水くんがわたしの点数知ってるの?」

「榎本先生の声大きいから聞こえた」

あ、そっか。そう言えば、答案用紙渡された時に先生に「惜しかったね」って言われたんだ。

「山吹もすごいじゃん」

そう言いながら速水くんの表情が和らいで、ほんの一瞬だけど笑顔になった。

どうしよう、すごく嬉しい。

一瞬でも速水くんの笑顔が見られた喜びに浸っていると、

「あ~疲れた~」

「月曜から居残りとかないんだけど~」

一斉に他のクラスの子達が会議室に入ってきて、一気に騒がしくなった。

「みんな揃ったか~?」

学年主任でクラス委員担当の先生も会議室に来て、委員会が始まった。

今日は、年間の主な学校行事についての説明で終了。

まだ休みボケが抜けないし、早く帰ろう。

そう思って席を立った時、

「お疲れ」

速水くんが声をかけてくれた。

たった一言だけど、速水くんの方から話しかけてくれたことがすごく嬉しくて。

「速水くんもお疲れ! また明日ね」

わたしは満面の笑みでそう返して会議室を出た。