【#10】
中学生活2日目。
今日の授業はお昼までで、全てホームルーム。
1時間目はクラス全員ひとりずつ自己紹介をした。
「この時間は、クラスの係と委員会決めをします」
榎本先生がそう言って、黒板に各係と委員会の名前を書いていく。
「まずはクラス委員からね。男女各1名です。誰か立候補してくれる人?」
先生の問いかけに、それまでざわついていた教室が急に静かになった。
クラス委員=クラスの代表というイメージだから、立候補する人はなかなかいない。
小学生の時も、なかなか決まらなかった。
「あら、誰もいない?」
先生が残念そうに言って、教室内を見回した。
みんな気まずそうに視線を逸らして下を向いている。
このままだと、なかなか決まらずに長引きそう。
どうせ誰かがやらなくちゃいけないなら……。
「先生!わたし、クラス委員になります」
手を挙げてそう言うと、みんなの視線が一気にわたしに集まった。
「山吹さん、立候補してくれるの?」
「はい」
「それじゃ、クラス委員の女子の方は山吹さんに決定ね。立候補してくれてありがとう。みんな拍手!」
先生の言葉で、クラス中から拍手が起きた。
なんか恥ずかしいな。
でもクラス委員は小学生の時もやったことがあるし、きっと大丈夫。
「クラス委員、もう一名男子で誰かやってくれる人いるかな?」
先生が尋ねると、
「先生! クラス委員、もうひとりは速水くんがいいと思います」
森川くんが手を挙げて言った。
速水くんって、昨日の入学式でも新入生代表で挨拶していた子だ。
「俺、同じ小学校だったけど、駿は児童会長もやってたし、リーダーの才能あると思います」
速水くんって、児童会長やってたんだ。
だから昨日の挨拶もあんなに堂々としてたのか。
「っていうことだけど、速水くん、どうかな?」
森川くんの言葉を聞いた先生が速水くんに尋ねると、
「わかりました。やります」
速水くんの言葉に、もう一度教室から拍手が起きた。
またざわめき出した教室の中、
「じゃあ、ここからはクラス委員の速水くんと山吹さんに進行してもらいます。ふたりとも前に来てくれる?」
先生の言葉に、わたしと速水くんは席を立って黒板の前に移動した。
「それでは委員会決めを続けます。園芸委員やりたい人いますか?」
わたしが黒板に書かれた委員会を読み上げると、苺花と目が合った。
手を挙げたそうにしているけど、ちょっと悩んでいるような雰囲気だ。
「苺花、園芸委員やる?」
わたしが訊くと、苺花が頷いた。
やっぱりやりたかったみたいだ。
苺花は小さい頃からみんなの前で積極的に自分の意見を言うのが苦手だから、いつのまにかわたしが表情や態度で苺花の気持ちを察してみんなに伝えるようになっていた。
「苺花は園芸委員ね。あとひとり、男子でやりたい人いますか?」
「園芸委員って何するんですか?」
わたしの問いかけに反応したのは、森川くんだ。
「……えっと、」
わたしも活動内容がよくわからずにちょっと言葉に詰まっていると、
「校内の花壇の水やりや手入れをしてもらう仕事だよ」
隣にいた速水くんが答えてくれた。
「へぇ。それじゃ、俺やります」
あっさりとそう答えた森川くん。
「そう? じゃあ、園芸委員は立花さんと森川くんね」
わたしがそう言うと、速水くんが黒板に名前を書いてくれた。
「森川くん、楽そうだから決めたんでしょ?」
「バレたか」
榎本先生の突っ込みに、森川くんが笑いながら頷いた。
森川くん、なんだかちょっとチャラい感じがするけど、苺花と同じ委員会で大丈夫かな。
まるで苺花のお姉さんのような気持ちで、わたしはほんの少しだけ心配になった。
* * *
放課後、部活動見学の時間。
「1・2・3・ゴー!」
体育館の中に入った途端、元気な掛け声と共に聞こえて来たポップな音楽。
その音楽に合わせて、体育館のステージの上で楽しそうにダンスを踊っているダンス部の先輩達。
ステージの周りには、わたしと同じくダンス部の見学に来たらしい新入生達が集まっていて、曲に合わせて手拍子をしている。
わたしも苺花と一緒にその中に混ざって、ダンスを見た。
「ダンス部で一緒に青春しよう!」
曲が終わるとステージの先輩達が声を揃えてそう言って、周りから歓声が起きた。
すごい、すごい。やっぱりカッコイイ!
わたしも、あの先輩達と一緒に踊って青春したい!
「苺花、わたしダンス部入る!」
わたしは、もうこの瞬間にダンス部に入ることを決めた。