そしていよいよ学芸会当日。

 飾り付けられた門の前に、プログラムが積んである。
 舞台となる講堂は人でごった返していた。



 
 講堂の舞台袖では、俳優達が演技を待っていた。

 
「恋、ドレスぴったりだね!」

 
 小道具の確認をしていた理央が言った。

 恋は水色のドレスを着ていた。



「理央、小道具間に合って良かったね。」

「ギリギリだったけどね。ちょっと雑だけど、良いでしょう。」

 

 通路から着替えた美風がシナリオを片手にやってきた。

 美風の正装には、学年中の女子が湧いた。真っ白いフリルのシャツを着て紺の上着を羽織った美風は、女の子が夢見る王子様そのものだった。



「新田さん、いよいよだね」

「樋山くん」

「ちゃんとリラックスしてる?僕アドリブ入れるからね」

「ええっ困るよ……」

「嘘嘘冗談。」



 小道具の確認をしていた理央が言った。
 


「式服似合うね、樋山くん」

「着心地悪いけどね。なんかゴワゴワしてる。」

「男子は後で教室で着替えれるから、それまで頑張って。」

「分かった。そうしようかな」

「今日は終わったら家庭科室でパーティーだよ。俳優達を労うからね。」



 理央は他の小道具の確認のため慌ただしく通路へ消えた。


 公演が近づくにつれ舞台袖は緊張してきた。

 次が他のクラスの合唱で、その次が恋達の演劇だった。

 時間が来て照明担当の多紀がライトを持って二階へ上がった。


「よし、みんな頑張ろう」


 合唱の終わる頃理央が小声で言ったが、舞台袖に控えて緊張していた恋にはよく聞こえなかった。