ホールへ入ると、中は暗かった。

 ステージにグランドピアノだけがライトアップされている。


 客席で恋達は小声で話をしていた。



「どんな曲を弾くんだろう?」

「音楽室で弾いてた奴じゃないか?」

「上手い人ばっかり。プロみたいな集団だね。」

「しーっ、もうすぐ樋山くんの番だよ。静かにしなきゃ。」



 宗介は会話に加わらず、黙って舞台を睨んでいた。


 まもなく、盛大な拍手に包まれて、美風の演奏が始まった。

 課題曲を弾いている美風の金髪がピアノの黒にマッチして、それはとても美しい絵だ、と恋は思った。

 美風の弾いている曲は美しいがとても難しい曲で、会場の人々は感心して演奏に聞き惚れていた。


「すっごいきれいな曲。」


 理央が囁いた。


「難しい曲だね。大人が弾く曲じゃない?」


 と明日香。


「上野くんピアノ弾くっけ?」


 理央が聞いた。


「音楽はやらない。興味ない。」


 宗介が答えた。


「ふーん。何か特技ないと上野くん負けるよ。」


 理央はぶつぶつ小声で続けた。



「勉強は両方できるしな……足も早いし……。」

「宗介家事できるよ。」



 恋が口を挟んだ。


「喋らない。演奏中なんだから。恋、お前も無益な事言ってんなよな。」


 演奏が終わると、盛大な拍手の中、恋は舞台に上がって美風に花束を渡した。

 花束を受け取ると、美風はにっこり笑顔でありがとうと言った。