絵を見た後に、美風は居間に恋を通した。

 すべすべの床にはチリひとつなく、広間は雑誌に出てくる写真の様に美しく飾られていた。

 恋はアンティーク調の大きなソファに座ってあたりを見回した。

 美風がケーキを持ってダイニングから出てきた。



「今日のケーキは生クリーム。フルーツをサンドして、クリームは甘さ控えめだよ。」

「わあ」



 美風は向かい側のソファに座ると、紅茶のカップを取り、恋が食べ始めるのを見ていた。



「おいしい?」

「うん、とっても。」

「良かった。評判のケーキだけど、新田さんの口に合うか分からなかったから。色んな所でケーキ買ってるけど、僕はこの店がベストだな。」



 美風も上品に銀のフォークを使ってケーキを食べる。



「この店のは生クリームの品が良いから沢山食べられる。もっと前には賞を持ってる違うケーキ屋が御用達だったけど、そこはもう店長さんが辞めちゃったんだ。残念。」

「ふーん」

「甘すぎないでしょ?」

「うん。丁度いいよ。」



 恋はちまちまとフォークでケーキを食べる。



「そういえば新田さん学校で社会の問題分からないって言ってたけど、あれ簡単だよ。」


 美風が言った。



「地名を覚えてないから分からないだけ。範囲が長い時には、必ず短い要点を書いて、それだけ見直しするんだ。みんなそうしてるよ。」

「そうなの?。」

「やり方よく分からないって言ってたから。まとめ方教えるよ。他に分からないって思うのあったら聞いて。それも教えるから。」

「ありがとう。」

「僕はもう覚えちゃって必要ないけど、まだやった事ない方が普通だから。新田さんが出来るように協力するよ。頑張ろうね。」



 ケーキを食べる恋を見ながら、美風がふと聞いた。



「新田さん、さっきから少しずつ食べてるけど、ケーキ好きでしょう?。」

「うん」

「うちに嫁に来たら、毎日ケーキが食べれるよ。」

「うん?」



 手を止めて、美風がにこっと笑った。



「食べながら僕の籍に入る事を考えてよね。」

「……」



 それはそれとして、恋はちまちまと時間をかけて生クリームのケーキを平らげた。