半日交代で、ショウの看病と桔梗の様子を伺っているショウのパパ、ママ達。

ショウのパパの一人であるライガは、時間がきたようで次の看病に来たパパとバトンタッチしてショウと桔梗の様子などの報告をしてから、後ろ髪を引かれる思いで自宅へ戻った。


家に帰って目にした光景にライガは驚いた。

自分がショウの看病の為に家を出る前まで、何となくギクシャクしていたミキとカイラだったのに、いつのまにか仲良く朝ごはんの準備をしていたのだ。

そして、ライガが帰って来た事に気がつくと二人は声はバラバラだったが

「「おかえりー(なさい)」」

と、ライガを見ておかえりの言葉を掛けてくれたのだ。それに少し戸惑いながらも

「…お、おう。ただいま!」

少し照れ臭そうに笑いながらライガは二人にこたえた。

なんだか、心に温かくじぃ〜んと込み上げてくるものがある。家族って、いいもんだなぁとしみじみ思う。

“ただいま”と“おかえり”。たった、それだけの言葉なのに、こんなにも心温かくなるものなのだ。

それは、ショウの親になって初めて知った事。その時の感動は今も忘れない。忘れられるはずがない。

だが、カイラとミキのいるショウとは別の家族の“ただいま”と“おかえり”は、また違った風に感じた。

同じ家族でも、自分の子供と弟では違うもんだなぁ。恋人からの(早く結婚したい)もまた違った風に感じる。

どれも、違った風に感じるが温かさは同じだ。


そして、気がつく。

ライガと同じように、“おかえり”と“ただいま”という何気ない言葉一つでとても感動しているミキの姿に。

その姿が見られただけで、ミキを自分の弟として家族にできて良かったと思えた。

そんなミキの姿をカイラも優しい眼差しで見ている。きっと、ライガ不在の間にカイラが教えた教育の一つだろう。

疲れているライガを労り、カイラはライガの気持ちを優先して手洗いうがいをして水分をとってから寝るように言ってきた。

ご飯は、好きな時に直ぐに食べられるものを用意してくれるらしいので助かる。今はとにかく、疲れていて眠りたいのだ。

そして、ベットに入るとグッタリした体は直ぐに休息を必要としていたのだろう。ライガは秒で泥のように寝入ってしまった。

その様子を見て、カイラは心の中で“お疲れ様”と労いの声を掛けるのだった。

それから、カイラはライガ不在時に陽毬の事で頭を抱えるミキにソッと声を掛け、興奮気味だったミキをある程度落ち着かせると

陽毬との間に何があったのか、それでもショックでパニック状態から復活できずいたミキのチグハグな話をゆっくり時間を掛けて聞いた。

話を聞き終わったカイラは


「教えてくれて、ありがとう。」

と、優しく笑みを浮かべお礼を言ってきた。それから、カイラはミキにこう話してきた。

「…お節介かと思うんだけど。多分、今の話を聞く限りでは陽毬さんはミキ君に縁を切られたと思っていると思う。しかも、ミキ君は陽毬さんに対して言ってはいけない酷い言葉をたくさん言って深く傷付けてしまった可能性が高いよね?
だから、彼女はもうミキ君のどんな言葉や態度にも心は動かず、心を閉ざしてしまったかもしれない。」

カイラの言葉に、その通りだとミキは悲痛な表情でうなづいた。


「もし、ミキ君が彼女と離れたくないと思ってももう手遅れだと思う。だけど、あれからまだ時間が経ってない。まだ、陽毬さんも整理しきれなくて心がグチャグチャの状態だと思う。
だけど、彼女と離れたくないのなら手段なんて選んでられないよ?
どれだけ甘ったれてるのかって呆れられても、気持ち悪いってかなり引かれるかもしれない。それどころか、上手くいかなくて失敗してしまうかもしれない。
それでも、いいなら僕はミキ君の助けをしたい。いいかな?」


そう、力強く話してきたカイラにミキは
どうして出会ったばかりの相手に、そんなに親身になってしかも助けてこようとするなんてと驚きを隠せずいた。

だって、自分はクリシュナ(カイラがクリシュナだった頃)の事を知らない癖にアンジェラの話すクリシュナの話ばかりを鵜呑みにして、アンジェラと一緒になって“毛深いキモ男のブスシュナ”なんて馬鹿にして嘲笑っていたのだから。

そんなミキの言動も、カイラは知っているはずなのに…何故?

だけど、なりふりなんて構ってられない。会って間もないカイラだけど彼女を信じてみる他なかった。

それ以外、何も思いつかなかった。

一体、彼女が何をしようとしているのか分からないのが怖い所ではあるが。


「そこで、僕が知る限りで申し訳ないんだけど。
やりがちではあるけど決してやってはいけない謝罪があると思うから、それはなるべく避けるようにしてほしい。

・いっぱい言い訳する事
・気持ちに気づかなかった、自分は悪くないとアピールする事
・許してもらおうとする事

かな?」

カイラに本気の謝罪についてのダメな謝罪の例を聞いてミキは、自分はどれもやってると衝撃を受けてしまった。

…え?これって、ダメな事なの?

だって、自分は悪くない事を伝えなきゃ、オレが悪者になっちゃうじゃん!そんなの嫌だし〜

そもそも、謝罪って相手に許してもらう為の行為じゃないの?

なんて、カイラの謝罪NGポイントに、とても不服なミキである。


「じゃあ、どうすれば本気の謝罪だと相手に自分の心に響かせる事ができるのか。それはね。

・ごめんなさいって素直に謝る事。
・自分が悪い事をしてしまったと認める事。
・その時、自分がどう悪くて相手がどういう気持ちだったのかよく考えて、自分なりの相手の気持ちをいう。
・何故、自分が相手を傷つけるような事をしてしまったのか理由を言った方がいいと思うけど、決して言い訳はしないでね。
・そんな事は二度と繰り返さないと誓って、最後にまたごめんなさいを言う。

が、傷付けた相手に対して誠心誠意伝わる謝罪だと思う。」


ここでも“言い訳はしない”が入ってくるんだ

自分がしてしまった理由と言い訳と、何が違うんだろう?

と、ミキは首を傾げると、なんとなくそれを察したのか


「謝罪での理由と言い訳の違いって難しいよね。大きく分けると一緒だとも言えるよね。
…うん、ほんと難しいね。
僕の考える“理由”は、何故そうなってしまったのかという事情、経緯。“言い訳”は、自分が悪いって認められなくて自分の責任を逃れようとする行為。だと、考えているよ。
もちろん、場合によっては言い訳も大切だと思うけど。今回の場合は、言い訳は絶対にしてはいけないよね。相手に不誠実だと思われてしまうから。」


カイラの説明によって、ミキは何か心に突き刺さるものがあった。

そして、ミキの少しの心の変化も見逃さず、ピンポイントでミキが気になっていた事に対してミキが納得できるまで根気よく丁寧に説明してくれるカイラを純粋に凄い人だなと思った。

それがあり、ミキはカイラの言葉をすんなり受け入れる事ができた。

そんなミキの様子を見て、カイラはうんとうなづき


「…よし!じゃあ、唾も乾かないうちに陽毬さんにテレビ電話しよう!」

と、言って、これ以上ひーちゃんに嫌われたくない!カッコ悪い所見せたくない!と、嫌がるミキをなんとか説得して

既にブロックされて繋がるかも分からない陽毬にテレビ電話を繋いだのだ。

電話をすると、暫くの間コール音ばかりが鳴っていたがカイラは祈る気持ちで根気よく電話を掛け続けた。


その甲斐があって、ようやく陽毬はテレビ電話に出てくれた。出た瞬間に、カイラはよしっ!と、思った。


無言だった陽毬が、テレビ電話の相手がミキでない事に驚き固まってしまっている。

しつこいと思って出たのか電話が鳴っていても今度は何を言われるのか恐れ、なかなか勇気が出なくて電話に出れなかったのか、はたまた別の理由があったのかは本人にしか分からない。

だが、ミキの電話からミキ以外の人が出れば、何事だろうと思い“もう、二度と電話してこないで!”とか、他にもミキを拒絶してガチャ切りされる事はないだろう。

その前に、知らない人だとガチャ切りされる恐れがあったので先手必勝で、陽毬が電話に出た瞬間に彼女が逃げられないよう


「はじめまして。雷鳴 ミキの“姉”のカイラです。」

と、柔らかい笑みを浮かべながら挨拶して頭を下げた。

カイラの挨拶に、陽毬とミキは驚きカイラを凝視している。そして、ハッと我に返った陽毬は慌てて


『はじめまして!わ、わわ私は、財前 陽毬と申します。』

まさかのミキの身内登場に、パニックで頭真っ白状態の陽毬は慌てて挨拶をして意味もなくペコペコと頭を下げてていた。

「この度は、僕の愚弟のミキが陽毬さんにとても酷い事をいい深く傷付けてしまった事を聞き、僕の弟はなんて愚かな事をしたのだろうと嘆かわしく思いいても立ってもいられず勝手ながら謝罪をさせて頂きたく連絡させて頂ききました。

謝罪した所で陽毬さんの傷付いた心は治りません。まして、ミキ本人ではなくミキの身内が謝罪するとなれば不快にも思えると思います。それでも!僕は、陽毬さんに謝罪せずにはいられなかったのです。
この度は、僕の愚弟ミキがとんでもない事を言い陽毬さんを傷付けてしまった事。本当に申し訳ありませんでした。」

と、陽毬が割って入れないくらいに息継ぎ間もなく、口早にカイラは陽毬に謝罪し深々と頭を下げた。

そして、頭を下げたまま


「管理不行き届きな我々家族と感情に任せて愚かな事を言ってしまった未熟者のミキですが、もし宜しければ直接陽毬さんに会って謝罪させたいのです。
そして、今ミキを陽毬さんの前に出さないのは、お互いにまだ興奮状態で正常ではない。
おそらく二人とも、冷静さを欠いでまともな会話もできないだろうという僕の勝手な判断からミキにもその理由を話し説得しての事です。」

カイラは、陽毬が声を掛ける前に自分の言いたい事を次々と言い


「…お願いします!ミキも陽毬さんに取り返しのつかないくらいに酷い事を言ってしまったと、とても反省しています。
こんなに反省をして塞ぎ込んでるミキを見るのは初めてで、ブラコンと言われても仕方ないですが家族としてそんなミキの姿はとても見てられないのです。お願いします。
どうか、お願いします!ミキに謝罪のチャンスを下さい!」


遂には、直接会って謝罪したい旨を伝えたのだった。
カイラに圧倒されつつも、カイラの熱意と誠心誠意心の籠った真剣さと内容に心打たれた陽毬はうなづくしかなかった。

そして、あれよあれよという間に、陽毬と直接会って謝罪する日程が決まってしまった。

電話での最後の挨拶も、カイラは
忙しい中、時間を作ってくれてありがとうございます。という言葉と、本当に本当に申し訳ありませんでした。謝罪の言葉を述べて陽毬が電話を切るまで待ち誠実さを見せた。


ここまでされたら、謝罪しに来るという気持ちを無碍にはできない。嫌でも、受け入れるしかなかった。

それに、カイラの言葉や感情までもとても伝わってきて話を聞いてみたいという気持ちにもなったのだ。


その様子を見ていたミキは、カイラに対して感服する他なかった。

あんなに、どうしようもない状態で何をどう足掻いても修復不可能、修繕不可能な状態。

誰が何を言っても説得しても聞く耳すら持てなかったであろう陽毬に、直接会って謝罪する許可を得る事ができたのだ。驚くしかない。


ドキドキ!


…か、カッコいい〜〜〜!


ここで、ミキの中でカイラは偉大なる存在に思え、この人だけは絶対に信じられる。
この人のいう事に間違いはない!と、ミキの心の中で、カイラは尊敬と信頼のできる“先生”と感じてしまった。

そして、愛情深く温かいカイラに“母親”の理想を見てしまい、カイラと年が近いというのにミキはカイラの事を自分の“母親と先生”のように感じ

陽毬とカイラが電話してたときに、謝罪のために愚弟とは言っていたが“僕の弟であるミキ”と、いう言葉を思い返し


…そっか!

カイラが、ライガと結婚すれば俺のお義姉さんって事になるんだ

って、事はいづれかは俺はカイラと本当の家族になれるって事だよね?

…ん?結婚する事は決定してるから、カイラは既に俺のお義姉さんって言ってもいいんじゃない?

電話でも俺の事“弟”って、言ってくれてたし!


そう思ったら、ミキの中でカイラへの親近感がグッと近くなり、カイラと家族だと思うだけで有頂天になるくらいに嬉しくなってしまった。


ヤバッ!

めちゃくちゃ、自慢のお姉ちゃんができちゃった〜!

なに、これぇ〜?

すっごい嬉しいんだけどぉ〜

マジで嬉しすぎぃ〜〜〜!!!


なんて、メチャクチャにテンションが上がっていた。


そんなミキに、カイラは申し訳なさそうな顔をして

「陽毬さんには、直接会って謝罪させてもらえる許可は得られたけど。
…もしかしたら、陽毬さんの中でミキ君に対して“家族の人に言ってもらわないと何もできない頼りない人。甘ったれ。”って、呆れてる可能性もあるかもしれない。
手段は選んでられないと思って、勝手にシャシャリ出てごめんなさい。」


と、カイラは申し訳なさそうにミキに謝ってきた。そんなカイラに


「ううん!カイラ……あ…!ね?どうせさ〜、ライガさんと結婚していずれかは俺のお姉ちゃんになる訳だしぃ〜。カイラさんの事、お姉ちゃんって呼んでいいかな?」

なんて、ミキからビックリする言葉が出てきて、かなり驚いたカイラだったが

ミキのオッチャラケた風な態度と喋りであったが緊張で少し声が震えていた事と、オッチャラケた風を見せかせてヘラヘラしておきながらも目は真剣な事に気がつき

この子は本気で言っている。恥ずかしくて、こういう態度をとってでしか真剣な話もできないんだと感じ取り


「僕の事を“お姉ちゃん”って、呼んでくれるんだね。凄く嬉しいよ、ありがとう。
じゃあ、僕からもミキ君にお願いしてもいいかな?」

と、お姉ちゃんと呼ぶ事を許してもらえて嬉しいミキだったが、カイラからのお願いは何だろうと首を傾げていた。

「ミキ君、僕と家族になってほしい。ライガだけじゃなくて僕の弟になってくれないかな?」

と、少し不安気に聞いてきた。

それに対し、ミキは


「…マジ…?…マジでぇ〜〜〜ッッッ!!!?スッッッッッゴイ♾️に、嬉しいんだけどぉぉぉ!!そんなのオッケーに決まってんじゃーーーん!!!」

感極まりすぎて、勢いよくカイラに抱きつきピョンピョン跳ねて喜んでいた。

それから、少しミキの興奮が落ち着くとカイラにギュッと抱きつきながら


「…本当に?本当に、こんな俺なんかがカイラさんの弟になってもいいの?家族になっていいの?」

と、不安気に肩を震わせて聞いてきた。

そんなミキにカイラは、ソッとミキを抱き返し


「“こんな”じゃないよ。自分の過去の過ちに気がついて変わろうと努力するなんて、生半可な事じゃないと思うんだ。それに気付いて、立ち向かってるミキ君は、とっても凄いと思う。
そんな君が、僕の弟になってくれるなんて誇らしいし、健気でとても可愛らしく思うんだ。
だから、可愛い君と家族になれるなんて僕にとっては、とても嬉しい神様からのプレゼントのように思うよ。
ミキ君。僕の家族、弟になってくれてありがとう。心の底から嬉しいよ!」

と、満面の笑顔で答えてくれた。
同時に

「これから、ミキ君の今までの女性関係が原因で、どんな困難にもぶつかると思う。それが、いつどんな風に出てくるかは分からない。
だけど、今の君は昔の君とは違う。絶対に負けちゃダメだ。それに、今は“君の家族”である僕とライガがいる。いつだって、僕たちは君の味方だって事を忘れないで?」

とも、力強い言葉をくれたのだ。

その言葉にミキは、今まで感じた事のないとても温かいものが心の底からじんわり溢れてきて、涙が止まらなくて

でも、心から出る“ありがとう”の言葉も自然と何度も口に出して嬉しくて堪らなくて泣いていた。

カイラもミキの気持ちが強く伝わってきて、感動で静かに泣きながら“僕もありがとう”と、しっかり言葉を伝えながらミキの鍛え上げられた背中を幼い子供をあやすように優しくポンポンと叩いていた。


ここに、お姉ちゃんラブのブラコンが爆誕したのであった。