父であるリュウキから、桔梗でなければどうしてもできない事があるから緊急で手伝ってほしいとショウに連絡が入り、こんなに切羽詰まったような父親からの電話でショウはこれは只事じゃないと察し
そして、父親から
“命に関わる事ではないが、誰にも見つけられない大事な探し物があるからそれが何処にあるか探し出してほしい。もちろん、場所さえ分かればこちらで動くから桔梗に動いてもらう事はない”
と、言われ桔梗に危害を及ぼす危険性のない安全な頼み事だと知り、ショウは何とか大変そうな父親の手助けがしたくて桔梗にお願いした。
最初こそ嫌がってた桔梗ではあったが
「…あ、でもさ。ここで、俺の過去世での恩が返せるね!アイツに恩を着せたままで、ずっとモヤモヤして嫌だったから丁度良かったかも!
だから、いくらショウの頼みとはいえ今回だけだよ?アイツを手助けするのはね。」
なんて言って、出掛けたはいいが帰って来た桔梗はもの凄く落ち込んでいて泣いていた。
何があったのか知りたいけど、父親から
“仕事の話だから、いくら気になっても桔梗から内容を聞いてはいけない。そんな事をしたら情報漏洩で俺は仕事をクビになってしまうからな。”
なんて、脅しを掛けられてるので気になっても断固としてショウは仕事の内容は聞かなかった。代わりに
「…どうしたの?何か、嫌な事されたの?」
と、ハンカチで優しく桔梗の涙を拭きながら聞いた。すると、桔梗はコクリとうなづき
「……凄く嫌な事を聞かされたし、見ちゃったから凄く悔しいし悲しい。…とっても最悪な気分だよ。」
そう言って、ショウに抱きついてひたすらに泣いていた。自分のお願いのせいで、桔梗をここまで苦しませるような嫌な場面を見聞きさせてしまった事にショウはとても申し訳なくて…ギュッと心が縮んだ。
「…ごめんね、桔梗。私の我が儘のせいで嫌な思いさせちゃって…。」
ショウは桔梗を思うと悲しい気持ちになってしまい
いくらお父さんのお願いでももう桔梗一人では行かせない
もし、どうしても行かなきゃいけない時は絶対に自分も着いていく!
と、強く心に誓ったのだった。
今回の事で桔梗もまた、今まで以上にショウを大事に大切にしなきゃ!と、改めて固く心に誓うのであった。
それから、数ヶ月の月日が流れ
みんなが待ちに待った夏休みに入った。ショウ達の通う中学校は、お坊ちゃん、お嬢様の家庭の事情を配慮して長期休みは他の学校に比べて長い。
なので、夏休みも7月後半〜9月半ばまでと長い。
その期間を利用して陽毬は、本格的なダイエットをフジやミキの手を借りて更に頑張る事になっている。
最近、二人のおかげで健康的に痩せていき、目に見えて痩せてくると気持ちも変わるもので
最初は、
もういいであります
…ハア、面倒くさいでありますぞ
…やりたいくないですぞ…はあ…
なんて嫌々やっていたダイエットだったが、何故か張り切ってるフジとミキはそんな陽毬を励ましながら陽毬の為に、陽毬に合わせたダイエットメニューを考えながら一生懸命になってくれていたのでやめるにもやめれず…嫌々ズルズルと続けていただけのダイエット…
それが、一ヵ月、二ヶ月と続けていくうちに最初は落ちなかった体重もみるみる落ちていき
見た目も徐々に細っそりしてきた事により、今までやる気のなかった陽毬も嬉しくなり
俄然、ダイエットを頑張るようになった。
いま、陽毬の心は目標体重である平均女性の体型を目指しメラメラと燃え上がっていた。
夏休み中、ダイエットに明け暮れ
途中、ダイエットでよくある頑張ってるのに色々試しても体重が落ちない時期になった時も、フジとミキは不貞腐れダイエットを辞めたいとか弱音を吐く陽毬に
“ダイエットに停滞期はつきもの!そこを乗り越えたら、どんどん細くなれるよ。”
なんて、ダイエットについて色々勉強してくれてるフジやミキに、ダイエットのアレコレについて説明を受け鼓舞し、たまに檄を飛ばしたりしてみんなで陽毬の目標体重まで頑張り抜いたのだった。
驚く事に、陽毬は本来痩せやすい体質だったらしく夏休み半ばにして一般女性の平均体重まで落ちたのだった。
その姿は、今までの陽毬の容姿とは全くの別人になっていた。
成長期という事もあり身長の伸び172cmまで成長していた。
顔も小さくスタイルも抜群。真っ白い肌もフジとは違った白さがあった。例えるなら、フジはキラキラと降り積もった雪の様な白さ。陽毬は、まるで真珠の様な高貴な美しさがあった。
そして、少し目つきは悪いが透明感あるアクアブルーの目にキラキラ艶のあるの白金。それを暑いからという理由でベリーショートにしているが、見た目だけならクール系美女に変貌を遂げた陽毬にその髪型はよく似合っていた。
何処から、どう見てもクール系の絶世がつくであろう美少女の爆誕であった。
その変貌ぶりに、フジは自分の事のように喜びミキはダイエットをやり遂げた陽毬にひどく感動している様だった。
そこで、フジから恐ろしい提案がなされるのであった。
「想像してた通りだわ!陽毬は、とっても美人になるって思ってたの。そこでね!お願いがあるんだけど…」
と、フジは陽毬の変貌ぶりにみんなをビックリさせたいがあまり、みんなとは連絡はしていたが会う事は絶対にしなかった。
その間、フジの根回しで社交界やらそっち方面も一切関わる事はなく、ダイエットに専念していたのである。
もちろん、自宅から遠く離れた田舎にあるフジの別荘でだ。
「ウダツさんに言われての事だったんだけど。
私がドンドン伸びてしまう身長に悩んでいた時に、ウダツは私に言ってくれたの。
“身長が高くてスタイルもいいなんて、まるでモデルさんみたいでヤス!フジさんの立ち振る舞いや動く姿もとても洗練されていて綺麗でヤス。
もし、フジさんがモデルをしたら世界中の憧れの的になるでヤスね。”
って、私が一番にコンプレックスに思ってた事をプラスに考えてそんな事を言ってくれたの。」
と、言いつつ、その時のウダツを思い出しているのだろう。両頬を軽く両手で添えるとホッペを赤く染めて、腰をクネクネさせていた。
……色っぽい……
自分が男なら、その場で襲ってしまいそうになりますぞ
なんて、良からぬ事を考えながら聞いている陽毬に
「その言葉がキッカケになって、私はモデルという職業に興味を持つ様になったわ。そのうち、日の日にモデルをやってみたいという気持ちも強くなっていったの。
でも、モデルになるって言ったって現実味もなければ不安しかなくて。
そんな不安な気持ちをウダツさんに打ち明けたら
“フジさんなら、できるでヤス!せっかく、世界一の美貌と洗練された美しい動きができるのはフジさんしかいないでヤスよ。何も行動しないで、悶々としているより自分がやりたいって心から思っている事ならやらなきゃ勿体無いでヤス!”
ウダツさんに後押ししてもらう事で、
【絶対に世界的モデルになってやる】
って気持ちが固まったわ。」
と、強い眼差しで自分の夢を語るフジに、陽毬は
凄い人はやっぱり凄いでございまするな
モデルなんて自分には縁もゆかりもない話でござるが、フジさんならやれると思いますぞ!
“目指せ!世界のトップモデル!!”
友達として、心から応援しておりますぞ!
なんて、他人事のように思っていた陽毬の手をフジはガシッと掴み
「一緒に、目指しましょ!“世界のトップモデル”!」
なんて、言われ
「……へ?…一緒…??」
と、何かの聞き間違いかと…ハハ!と、から笑いする陽毬の腕を引き
「そうよ!私と陽毬なら、絶対大丈夫!!
でも、私は将来ウダツさんの奥さんになる事が一番の夢なの。“いってらっしゃい”と“おかえりなさい”の言える、温かい家庭を作るのがダントツで一番よ。
だから、モデルは学生のうちだけって期限付きにするわ。それ以内で目標達成できなかったら、私はそれだけの実力しかなかったって事だと割り切る!
代わりに、脇目も振らず世界一のモデル目指して一心不乱に頑張るつもり!」
フジの未来設計をぼんやり聞きながら、陽毬は何故に自分まで巻き添えになってるのかと場違いだと苦笑いしていたが
「陽毬はね!自分が絶世の美女だって自覚した方がいいわ。それなのに、いつも自分の容姿にコンプレックスを持っている。そんな、陽毬に自信を持ってほしいのよ!
あなたは、モデルとして恵まれてると思うわ!
だって、あなたはお化粧一つで別人に変わってしまう“七変化”とでもいうのかしら?
ちょっと、化粧のやり方を変えただけで変化でもしたのかってくらい別の顔になれるのよ?それって、誰にでもできる事じゃないわ!あなたこそ、モデルにならなきゃ勿体無い逸材だって私は信じてるわ!
だから、一緒にやりたいの。お互いにモデルになったらライバルという立場になってしまうけど。遠慮は無しよ!正々堂々と勝負しましょう!」
なんて、捲し立てられて
アレよあれよという間に、家族には期間限定でやるからと説得に説得を重ね、みんなに内緒でフジと陽毬の期間限定のとんでもない挑戦が幕を開けたのであった。
……え?
これって、マジでありますか!!?
と、未だ現実味を持てないでいる陽毬を連れて、フジ達は海外のモデル事務所へと向かうのであった。
拠点は有名なモデル達が多くいる海外。住む場所は、その国にあるフジの別荘でフジと陽毬は二人で暮らす事となった。もちろん、フジの信用のおけるメイドを二人引き連れて。
…ぎゃーーーーーっっっ!!!?
いつの間にか、とんでもない事に巻き込まれてしまったでありますよ〜〜〜〜〜!!!!!
と、陽毬は心の中で悲鳴をあげていた。
モデルのトレーニングや美容などなど、もんの凄く厳しくて投げ出して逃げ出した日々を送っている陽毬の癒しは、たまにフジの屋敷に遊びに来るショウ達とミキ君である。
たまに来るもう一人…ウダツが来た時は、フジと二人きりになれるよう気をきかせている。ウダツが、帰ってしまった時のフジはウダツロスになり、信じられないくらいに腑抜けの廃人と化してしまう。立ち直るのに、数日掛かってしまうのが難点であるが。
それさえなければ
フジはストイックで、どんな厳しいトレーニングや美容など淡々とこなしそれ以上にモデルについての勉強や、より良く自分を魅せる為に研究熱心に頑張っている。
ちなみに、大昔だがいわゆる業界人関係では“枕営業”というお偉いさんに体を売って仕事を取り付けるといった事や“事務所の人間を自分のオモチャの様に扱い酷い有り様だった”事が、大問題となり今ではそれは法律で禁止となり、バレたら人生を詰む様な刑罰が処せられるようになった。
なので、完全になくなった訳ではないが今ではだいぶマシになったと言えるだろう。
…しかし、裏を返せば、マシになっただけで今でも業界の闇は根深くカビのように根絶できていないという事だ。根絶させるには、相当なまでの根気と時間が掛かるだろう。
だが、いくら根絶させようと新たな闇を運んでくる輩もいたりで、なかなか根絶まで至らない。とても残念極まりない話である。
フジはそういう所も抜かりなく、事務所の社長や役員達の事も家の力で徹底的に調べ上げ自分の納得いく事務所へと陽毬と一緒に入ったのだった。
こういう時、自分の身を守れる格式高い家かつ世界的資産家という強い後ろ盾があり、本当に良かったと心から思った。
「…ところで、まだ大樹様からの電話やメールがくるの?」
モデルのトレーニングの休憩中、何気なくフジは陽毬にそんな事を聞いてきた。それに対し
「…あはは…相変わらずでありますよ。」
と、陽毬は遠い目をしながら話してきた。
「毎回毎回、飽きもせず好きになった女性がいるんだけど大丈夫そうかな?同じ女性目線で彼女は良い人そうかな?と、意見を求めてきては、私がいい人そうだと言えば即恋人になったはいいが直ぐに彼女の粗が見えてきて嫌になって、あっという間に別れるの繰り返しでありますよ。」
「……真白さんの事があったとはいえ、陽毬ちゃんにとってはかなり迷惑な話よね。だからといって身分の違いから、大樹様の相談事は無碍にできないし。」
「そうなんでありますよ。今回の留学の件で、新生活が忙しくて電話やメールも滅多にできなくなりそうだと伝えたところ……。
“忙しいなら気にしなくて大丈夫だよ。返事を返せる時だけ返してくれれば”
なんて、言ってくる始末でありまして。
…挙げ句…
“住所教えてほしい。陽毬と実際に会って、俺の彼女の相談がしたいんだ。”
なくて、面倒くさい事まで言われましてな…」
と、陽毬からは心底面倒だという雰囲気が醸しでていた。
だが、陽毬の話を聞いていてフジは前々から感じていた事があった。
その事は、結やショウ(桔梗付き)ともよく話していた事だ。
もしかしたら、大樹は陽毬の事を好きなのではないかという事。
陽毬の気をひきたくて、ワザと
“好きな人が出来たから、相談に乗ってほしい”
“陽毬のおかげで彼女ができた”
“…こういう理由で、彼女と別れたんだ”
好きな人が出来たと捲し立て、嫉妬させる為に彼女が出来たとも報告。そして、いつ陽毬と恋人になってもいいように直ぐに別れるを繰り返しているのかもしれない。
だって、真白の件があった時
陽毬は大樹の事が好きだと本人に伝えていたから。
だから、陽毬が大樹の事を好きだという事は本人は知っている。その上で、残酷にも“友達になりたい”と言い、毎日欠かさず恋愛相談をしてくるのだから。
もしくは、陽毬を好きな事に大樹自身気がついてない。無自覚で、陽毬を手放したくないが為に陽毬と友達になり残酷な恋愛相談をしている可能性もある。
下手をしたら陽毬を好きな自覚はあれど、陽毬の容姿が残念過ぎてとてもじゃないけど受け入れられず。
陽毬に当てつけのように、自分の恋愛相談をして陽毬を傷付けては憂さ晴らししてる…とも、考えられなくはない。
しかも、大樹から結構な頻度で“会って遊ぼう”と、誘われる陽毬だが、
“彼女さんがいらっしゃるのに私と遊んでたら、私が大樹様と彼女さんとの時間を奪ったと彼女さんに恨まれてしまうゆえ勘弁してほしいですぞ”
と、言って大樹と遊ぶのは断っている。
これは、本心である。
大樹が陽毬の事を、恋愛対象ではないただの友達と大樹の恋人は思っていても(陽毬の容姿を見て、コイツだけはないなと判断する為。おもしろ担当の友達だろうと思われる。)
恋人との時間を奪った陽毬に対して、恨みやはらみを持たれる可能性しかない。逆恨みされて虐められでもされたらたまったもんじゃない。それに
真白の件で大樹への恋心は日に日に擦り減り
大樹が、恋人相談してきた日から一気に冷めて
恋愛相談やら何やら聞かされる度に、大樹への気持ちはドンドンマイナスの方へと向かっていったのだった。
だから、だいぶ前から陽毬は大樹に対して恋心は消え失せ、恋愛自慢してくるちょいウザい友達としか思えなくなってしまっていた。
なので、なおさら大樹の恋人の逆恨みが怖くて、大樹と会おうとも遊ぼうとも思えないのだ。…怖い、怖い。
そんな陽毬の気持ちは
陽毬から大樹の相談をちょくちょく受けているフジや結、ショウ、桔梗、風雷は知っている。
その為、この二人に関してはあまりつつかない方がいいと、大樹が陽毬を好きかもしれないという話は陽毬本人に話さないようにしていたのだ。
だが、ショウの話では
ショウにこそ、その話はしてこないが
大樹は、電話やメールだけじゃなくて陽毬に会いたい。一緒に遊びたい。と、いう趣旨の相談をウダツや大地(ダイヤ)にしているそうだ。
何故、その話をフジが知っているかって?
それは、大地→ショウ→結、フジと話が伝わっている為である。
もちろん、その事は大樹も分かっていて、人づてでもいいから陽毬に一緒に遊びたいと伝わってほしいという気持ちからお願いしてるあたりだ。
その上で、フジは言った。
「もう、いっそのこと“あの事”言っちゃってもいいと思うわ。そうすれば、大樹様からの恋愛相談もだいぶ減るだろうし陽毬だってスッキリするんじゃない?
以前のぽっちゃり姿の陽毬ちゃんしか知らない大樹様は、無自覚で陽毬ちゃんの事そんな容姿じゃ恋愛対象には見れないって少し見下してた節があるわよね?陽毬ちゃんも、大樹様のそんな言動に愛想尽かしてたのも知ってるから。
私もね!前から陽毬ちゃんに対しての大樹様の言動に、とっても腹が立っていたのよ。だから、ギャフンって余裕ぶってる大樹様を言わせてやりたいわ!」
大樹に対して相当ムカついていたのだろう。フジは美しい顔の眉間に皺を寄せて怒りでメラメラ燃えていた。
「……いやぁ〜。色々と複雑な事情がありましてな。“その事”はまだまだ伝えられないでありますよ。」
と、苦笑いする陽毬に
「…〜〜〜んもぉ〜〜〜っっっ!分かってるけど、なんか…なんか、悔しいよぉ〜〜〜!!
それに、今の陽毬の姿を大樹様が見たらその後の事も想像できちゃうから、その事を考えてもムカついちゃうぅぅ〜〜〜っ!!!」
フジは、無自覚で陽毬を傷付けている大樹に怒りが込み上げ、どうにかしてギャフンと言わせてやりたいとキーキー言っていた。
そんなフジを見て、陽毬は本当にフジちゃんは優しいなぁ。こんな素敵な人が自分の友達だなんて、なんて自分はいい友達に恵まれているんだろうと、とても嬉しく感じていた。
そして、父親から
“命に関わる事ではないが、誰にも見つけられない大事な探し物があるからそれが何処にあるか探し出してほしい。もちろん、場所さえ分かればこちらで動くから桔梗に動いてもらう事はない”
と、言われ桔梗に危害を及ぼす危険性のない安全な頼み事だと知り、ショウは何とか大変そうな父親の手助けがしたくて桔梗にお願いした。
最初こそ嫌がってた桔梗ではあったが
「…あ、でもさ。ここで、俺の過去世での恩が返せるね!アイツに恩を着せたままで、ずっとモヤモヤして嫌だったから丁度良かったかも!
だから、いくらショウの頼みとはいえ今回だけだよ?アイツを手助けするのはね。」
なんて言って、出掛けたはいいが帰って来た桔梗はもの凄く落ち込んでいて泣いていた。
何があったのか知りたいけど、父親から
“仕事の話だから、いくら気になっても桔梗から内容を聞いてはいけない。そんな事をしたら情報漏洩で俺は仕事をクビになってしまうからな。”
なんて、脅しを掛けられてるので気になっても断固としてショウは仕事の内容は聞かなかった。代わりに
「…どうしたの?何か、嫌な事されたの?」
と、ハンカチで優しく桔梗の涙を拭きながら聞いた。すると、桔梗はコクリとうなづき
「……凄く嫌な事を聞かされたし、見ちゃったから凄く悔しいし悲しい。…とっても最悪な気分だよ。」
そう言って、ショウに抱きついてひたすらに泣いていた。自分のお願いのせいで、桔梗をここまで苦しませるような嫌な場面を見聞きさせてしまった事にショウはとても申し訳なくて…ギュッと心が縮んだ。
「…ごめんね、桔梗。私の我が儘のせいで嫌な思いさせちゃって…。」
ショウは桔梗を思うと悲しい気持ちになってしまい
いくらお父さんのお願いでももう桔梗一人では行かせない
もし、どうしても行かなきゃいけない時は絶対に自分も着いていく!
と、強く心に誓ったのだった。
今回の事で桔梗もまた、今まで以上にショウを大事に大切にしなきゃ!と、改めて固く心に誓うのであった。
それから、数ヶ月の月日が流れ
みんなが待ちに待った夏休みに入った。ショウ達の通う中学校は、お坊ちゃん、お嬢様の家庭の事情を配慮して長期休みは他の学校に比べて長い。
なので、夏休みも7月後半〜9月半ばまでと長い。
その期間を利用して陽毬は、本格的なダイエットをフジやミキの手を借りて更に頑張る事になっている。
最近、二人のおかげで健康的に痩せていき、目に見えて痩せてくると気持ちも変わるもので
最初は、
もういいであります
…ハア、面倒くさいでありますぞ
…やりたいくないですぞ…はあ…
なんて嫌々やっていたダイエットだったが、何故か張り切ってるフジとミキはそんな陽毬を励ましながら陽毬の為に、陽毬に合わせたダイエットメニューを考えながら一生懸命になってくれていたのでやめるにもやめれず…嫌々ズルズルと続けていただけのダイエット…
それが、一ヵ月、二ヶ月と続けていくうちに最初は落ちなかった体重もみるみる落ちていき
見た目も徐々に細っそりしてきた事により、今までやる気のなかった陽毬も嬉しくなり
俄然、ダイエットを頑張るようになった。
いま、陽毬の心は目標体重である平均女性の体型を目指しメラメラと燃え上がっていた。
夏休み中、ダイエットに明け暮れ
途中、ダイエットでよくある頑張ってるのに色々試しても体重が落ちない時期になった時も、フジとミキは不貞腐れダイエットを辞めたいとか弱音を吐く陽毬に
“ダイエットに停滞期はつきもの!そこを乗り越えたら、どんどん細くなれるよ。”
なんて、ダイエットについて色々勉強してくれてるフジやミキに、ダイエットのアレコレについて説明を受け鼓舞し、たまに檄を飛ばしたりしてみんなで陽毬の目標体重まで頑張り抜いたのだった。
驚く事に、陽毬は本来痩せやすい体質だったらしく夏休み半ばにして一般女性の平均体重まで落ちたのだった。
その姿は、今までの陽毬の容姿とは全くの別人になっていた。
成長期という事もあり身長の伸び172cmまで成長していた。
顔も小さくスタイルも抜群。真っ白い肌もフジとは違った白さがあった。例えるなら、フジはキラキラと降り積もった雪の様な白さ。陽毬は、まるで真珠の様な高貴な美しさがあった。
そして、少し目つきは悪いが透明感あるアクアブルーの目にキラキラ艶のあるの白金。それを暑いからという理由でベリーショートにしているが、見た目だけならクール系美女に変貌を遂げた陽毬にその髪型はよく似合っていた。
何処から、どう見てもクール系の絶世がつくであろう美少女の爆誕であった。
その変貌ぶりに、フジは自分の事のように喜びミキはダイエットをやり遂げた陽毬にひどく感動している様だった。
そこで、フジから恐ろしい提案がなされるのであった。
「想像してた通りだわ!陽毬は、とっても美人になるって思ってたの。そこでね!お願いがあるんだけど…」
と、フジは陽毬の変貌ぶりにみんなをビックリさせたいがあまり、みんなとは連絡はしていたが会う事は絶対にしなかった。
その間、フジの根回しで社交界やらそっち方面も一切関わる事はなく、ダイエットに専念していたのである。
もちろん、自宅から遠く離れた田舎にあるフジの別荘でだ。
「ウダツさんに言われての事だったんだけど。
私がドンドン伸びてしまう身長に悩んでいた時に、ウダツは私に言ってくれたの。
“身長が高くてスタイルもいいなんて、まるでモデルさんみたいでヤス!フジさんの立ち振る舞いや動く姿もとても洗練されていて綺麗でヤス。
もし、フジさんがモデルをしたら世界中の憧れの的になるでヤスね。”
って、私が一番にコンプレックスに思ってた事をプラスに考えてそんな事を言ってくれたの。」
と、言いつつ、その時のウダツを思い出しているのだろう。両頬を軽く両手で添えるとホッペを赤く染めて、腰をクネクネさせていた。
……色っぽい……
自分が男なら、その場で襲ってしまいそうになりますぞ
なんて、良からぬ事を考えながら聞いている陽毬に
「その言葉がキッカケになって、私はモデルという職業に興味を持つ様になったわ。そのうち、日の日にモデルをやってみたいという気持ちも強くなっていったの。
でも、モデルになるって言ったって現実味もなければ不安しかなくて。
そんな不安な気持ちをウダツさんに打ち明けたら
“フジさんなら、できるでヤス!せっかく、世界一の美貌と洗練された美しい動きができるのはフジさんしかいないでヤスよ。何も行動しないで、悶々としているより自分がやりたいって心から思っている事ならやらなきゃ勿体無いでヤス!”
ウダツさんに後押ししてもらう事で、
【絶対に世界的モデルになってやる】
って気持ちが固まったわ。」
と、強い眼差しで自分の夢を語るフジに、陽毬は
凄い人はやっぱり凄いでございまするな
モデルなんて自分には縁もゆかりもない話でござるが、フジさんならやれると思いますぞ!
“目指せ!世界のトップモデル!!”
友達として、心から応援しておりますぞ!
なんて、他人事のように思っていた陽毬の手をフジはガシッと掴み
「一緒に、目指しましょ!“世界のトップモデル”!」
なんて、言われ
「……へ?…一緒…??」
と、何かの聞き間違いかと…ハハ!と、から笑いする陽毬の腕を引き
「そうよ!私と陽毬なら、絶対大丈夫!!
でも、私は将来ウダツさんの奥さんになる事が一番の夢なの。“いってらっしゃい”と“おかえりなさい”の言える、温かい家庭を作るのがダントツで一番よ。
だから、モデルは学生のうちだけって期限付きにするわ。それ以内で目標達成できなかったら、私はそれだけの実力しかなかったって事だと割り切る!
代わりに、脇目も振らず世界一のモデル目指して一心不乱に頑張るつもり!」
フジの未来設計をぼんやり聞きながら、陽毬は何故に自分まで巻き添えになってるのかと場違いだと苦笑いしていたが
「陽毬はね!自分が絶世の美女だって自覚した方がいいわ。それなのに、いつも自分の容姿にコンプレックスを持っている。そんな、陽毬に自信を持ってほしいのよ!
あなたは、モデルとして恵まれてると思うわ!
だって、あなたはお化粧一つで別人に変わってしまう“七変化”とでもいうのかしら?
ちょっと、化粧のやり方を変えただけで変化でもしたのかってくらい別の顔になれるのよ?それって、誰にでもできる事じゃないわ!あなたこそ、モデルにならなきゃ勿体無い逸材だって私は信じてるわ!
だから、一緒にやりたいの。お互いにモデルになったらライバルという立場になってしまうけど。遠慮は無しよ!正々堂々と勝負しましょう!」
なんて、捲し立てられて
アレよあれよという間に、家族には期間限定でやるからと説得に説得を重ね、みんなに内緒でフジと陽毬の期間限定のとんでもない挑戦が幕を開けたのであった。
……え?
これって、マジでありますか!!?
と、未だ現実味を持てないでいる陽毬を連れて、フジ達は海外のモデル事務所へと向かうのであった。
拠点は有名なモデル達が多くいる海外。住む場所は、その国にあるフジの別荘でフジと陽毬は二人で暮らす事となった。もちろん、フジの信用のおけるメイドを二人引き連れて。
…ぎゃーーーーーっっっ!!!?
いつの間にか、とんでもない事に巻き込まれてしまったでありますよ〜〜〜〜〜!!!!!
と、陽毬は心の中で悲鳴をあげていた。
モデルのトレーニングや美容などなど、もんの凄く厳しくて投げ出して逃げ出した日々を送っている陽毬の癒しは、たまにフジの屋敷に遊びに来るショウ達とミキ君である。
たまに来るもう一人…ウダツが来た時は、フジと二人きりになれるよう気をきかせている。ウダツが、帰ってしまった時のフジはウダツロスになり、信じられないくらいに腑抜けの廃人と化してしまう。立ち直るのに、数日掛かってしまうのが難点であるが。
それさえなければ
フジはストイックで、どんな厳しいトレーニングや美容など淡々とこなしそれ以上にモデルについての勉強や、より良く自分を魅せる為に研究熱心に頑張っている。
ちなみに、大昔だがいわゆる業界人関係では“枕営業”というお偉いさんに体を売って仕事を取り付けるといった事や“事務所の人間を自分のオモチャの様に扱い酷い有り様だった”事が、大問題となり今ではそれは法律で禁止となり、バレたら人生を詰む様な刑罰が処せられるようになった。
なので、完全になくなった訳ではないが今ではだいぶマシになったと言えるだろう。
…しかし、裏を返せば、マシになっただけで今でも業界の闇は根深くカビのように根絶できていないという事だ。根絶させるには、相当なまでの根気と時間が掛かるだろう。
だが、いくら根絶させようと新たな闇を運んでくる輩もいたりで、なかなか根絶まで至らない。とても残念極まりない話である。
フジはそういう所も抜かりなく、事務所の社長や役員達の事も家の力で徹底的に調べ上げ自分の納得いく事務所へと陽毬と一緒に入ったのだった。
こういう時、自分の身を守れる格式高い家かつ世界的資産家という強い後ろ盾があり、本当に良かったと心から思った。
「…ところで、まだ大樹様からの電話やメールがくるの?」
モデルのトレーニングの休憩中、何気なくフジは陽毬にそんな事を聞いてきた。それに対し
「…あはは…相変わらずでありますよ。」
と、陽毬は遠い目をしながら話してきた。
「毎回毎回、飽きもせず好きになった女性がいるんだけど大丈夫そうかな?同じ女性目線で彼女は良い人そうかな?と、意見を求めてきては、私がいい人そうだと言えば即恋人になったはいいが直ぐに彼女の粗が見えてきて嫌になって、あっという間に別れるの繰り返しでありますよ。」
「……真白さんの事があったとはいえ、陽毬ちゃんにとってはかなり迷惑な話よね。だからといって身分の違いから、大樹様の相談事は無碍にできないし。」
「そうなんでありますよ。今回の留学の件で、新生活が忙しくて電話やメールも滅多にできなくなりそうだと伝えたところ……。
“忙しいなら気にしなくて大丈夫だよ。返事を返せる時だけ返してくれれば”
なんて、言ってくる始末でありまして。
…挙げ句…
“住所教えてほしい。陽毬と実際に会って、俺の彼女の相談がしたいんだ。”
なくて、面倒くさい事まで言われましてな…」
と、陽毬からは心底面倒だという雰囲気が醸しでていた。
だが、陽毬の話を聞いていてフジは前々から感じていた事があった。
その事は、結やショウ(桔梗付き)ともよく話していた事だ。
もしかしたら、大樹は陽毬の事を好きなのではないかという事。
陽毬の気をひきたくて、ワザと
“好きな人が出来たから、相談に乗ってほしい”
“陽毬のおかげで彼女ができた”
“…こういう理由で、彼女と別れたんだ”
好きな人が出来たと捲し立て、嫉妬させる為に彼女が出来たとも報告。そして、いつ陽毬と恋人になってもいいように直ぐに別れるを繰り返しているのかもしれない。
だって、真白の件があった時
陽毬は大樹の事が好きだと本人に伝えていたから。
だから、陽毬が大樹の事を好きだという事は本人は知っている。その上で、残酷にも“友達になりたい”と言い、毎日欠かさず恋愛相談をしてくるのだから。
もしくは、陽毬を好きな事に大樹自身気がついてない。無自覚で、陽毬を手放したくないが為に陽毬と友達になり残酷な恋愛相談をしている可能性もある。
下手をしたら陽毬を好きな自覚はあれど、陽毬の容姿が残念過ぎてとてもじゃないけど受け入れられず。
陽毬に当てつけのように、自分の恋愛相談をして陽毬を傷付けては憂さ晴らししてる…とも、考えられなくはない。
しかも、大樹から結構な頻度で“会って遊ぼう”と、誘われる陽毬だが、
“彼女さんがいらっしゃるのに私と遊んでたら、私が大樹様と彼女さんとの時間を奪ったと彼女さんに恨まれてしまうゆえ勘弁してほしいですぞ”
と、言って大樹と遊ぶのは断っている。
これは、本心である。
大樹が陽毬の事を、恋愛対象ではないただの友達と大樹の恋人は思っていても(陽毬の容姿を見て、コイツだけはないなと判断する為。おもしろ担当の友達だろうと思われる。)
恋人との時間を奪った陽毬に対して、恨みやはらみを持たれる可能性しかない。逆恨みされて虐められでもされたらたまったもんじゃない。それに
真白の件で大樹への恋心は日に日に擦り減り
大樹が、恋人相談してきた日から一気に冷めて
恋愛相談やら何やら聞かされる度に、大樹への気持ちはドンドンマイナスの方へと向かっていったのだった。
だから、だいぶ前から陽毬は大樹に対して恋心は消え失せ、恋愛自慢してくるちょいウザい友達としか思えなくなってしまっていた。
なので、なおさら大樹の恋人の逆恨みが怖くて、大樹と会おうとも遊ぼうとも思えないのだ。…怖い、怖い。
そんな陽毬の気持ちは
陽毬から大樹の相談をちょくちょく受けているフジや結、ショウ、桔梗、風雷は知っている。
その為、この二人に関してはあまりつつかない方がいいと、大樹が陽毬を好きかもしれないという話は陽毬本人に話さないようにしていたのだ。
だが、ショウの話では
ショウにこそ、その話はしてこないが
大樹は、電話やメールだけじゃなくて陽毬に会いたい。一緒に遊びたい。と、いう趣旨の相談をウダツや大地(ダイヤ)にしているそうだ。
何故、その話をフジが知っているかって?
それは、大地→ショウ→結、フジと話が伝わっている為である。
もちろん、その事は大樹も分かっていて、人づてでもいいから陽毬に一緒に遊びたいと伝わってほしいという気持ちからお願いしてるあたりだ。
その上で、フジは言った。
「もう、いっそのこと“あの事”言っちゃってもいいと思うわ。そうすれば、大樹様からの恋愛相談もだいぶ減るだろうし陽毬だってスッキリするんじゃない?
以前のぽっちゃり姿の陽毬ちゃんしか知らない大樹様は、無自覚で陽毬ちゃんの事そんな容姿じゃ恋愛対象には見れないって少し見下してた節があるわよね?陽毬ちゃんも、大樹様のそんな言動に愛想尽かしてたのも知ってるから。
私もね!前から陽毬ちゃんに対しての大樹様の言動に、とっても腹が立っていたのよ。だから、ギャフンって余裕ぶってる大樹様を言わせてやりたいわ!」
大樹に対して相当ムカついていたのだろう。フジは美しい顔の眉間に皺を寄せて怒りでメラメラ燃えていた。
「……いやぁ〜。色々と複雑な事情がありましてな。“その事”はまだまだ伝えられないでありますよ。」
と、苦笑いする陽毬に
「…〜〜〜んもぉ〜〜〜っっっ!分かってるけど、なんか…なんか、悔しいよぉ〜〜〜!!
それに、今の陽毬の姿を大樹様が見たらその後の事も想像できちゃうから、その事を考えてもムカついちゃうぅぅ〜〜〜っ!!!」
フジは、無自覚で陽毬を傷付けている大樹に怒りが込み上げ、どうにかしてギャフンと言わせてやりたいとキーキー言っていた。
そんなフジを見て、陽毬は本当にフジちゃんは優しいなぁ。こんな素敵な人が自分の友達だなんて、なんて自分はいい友達に恵まれているんだろうと、とても嬉しく感じていた。

