「言っとくけど、俺はこの世界最強の魔道士だ。
そして、未だ誰も到達できてないM級(マスター級)魔道士。魔道鑑定もM級の俺が、俺よりずっと劣る鑑定士達の方が確実な鑑定ができるって?ふ〜ん?」
痛い所をつかれ、グウの言葉も出ないリュウキは桔梗にムカつきイライラしながらも
「確かに、マナは全ての属性や特殊魔道も多く使える。だが、攻撃魔道は一切使えない。魔力量だけならとんでもないが、魔道能力に関しては魔力量に比べたら天と地程差がある。だが、それでもマナの能力は素晴らしくとても優秀だ。
その優秀な能力と、この星にエネルギーを注いでいる魔力量を考慮して攻撃魔道が一切使えない事を踏まえての
【S級魔道士】。正しい判断だと思うが?」
自分の意見を踏まえ桔梗の考えを聞いた。
「俺の見立てだとお義母さんは間違いなく俺と同じ
【M級(マスター級)魔道士以上】だよ。将来の俺とお義母さんはM級すら超えてるから、俺とお義母さんの為に特別にM級以上の階級も作るべきだよね。
…あ!でも、将来の俺はお義母さんよりもずっと強くなるから、その更に上の階級作らなきゃいけないね。」
と、いう桔梗にそんな馬鹿なとリュウキは鼻で笑った。
どうせ、俺が嫌いだから不快な気持ちにさせようと大袈裟に言っているだけなのだろうと。
「そもそもの問題。あんたは、お義母さんのエネルギー投与について間違えてたよね?“この星にエネルギーを注いでいる”ってさ。
さっきも言ったけど、あの人は“全部の星に平等にエネルギーを注いでる”んだよ?規模が違いすぎるでしょ?
それでも、まだ魔力が残ってる程の魔力量。その残った“彼女にとって”は僅かな魔力を使って、あんたがどうしようもなくなった時に手助けしてあげてたんだ。
心の底から感謝するべきだよ?」
…ピクッ…!
「…何だと?民達が困っている時に、手を差し伸べるのは帝王の妻として当然の事だろ?」
と、それぞれの国や民達の事を思い、お前に何が分かるとでも言うようにリュウキはそう言ってきたのだが
「あんたの仕事はそうかもしれないけどさ。国や民達も大事だけど、少しは彼女の事も考えてあげたら?
だって、あんたのお願いで使った分の魔力をそこから集中して溜めていって、また全部の星にエネルギーを注ぐんだからさ。」
…イラッ!
まるで、俺が悪いような口ぶりだな
「あんた達は、できないだろうけど。俺とお義母さん、風雷は魔力量が無くなっても無理矢理に魔力量を作り出す事ができる。けど、これは絶対やりたくない作業だよ。それもできない、あんた達には分からない事だろうから簡単にその辛さと痛み、苦しみを説明するよ。」
…イライラッ!
コイツは、俺を苛つかせる天才だ
今すぐにでも、その憎たらしい口を塞いで思い切りぶん殴ってやりたい気分だ
「魔力を溜める為の集中って、かなり体力や気力のいる事だし全身相当なまでの激痛を伴うし過呼吸も辛いから、俺は魔力を溜める作業はごめんだよ。
俺ならあんたの依頼を断るか、もし引き受けても星がどうなろうと自然と自分の魔力が回復するのを待つ事を選ぶよ。
だから、どんな苦戦を強いられても究極極限にまで追い詰められない限りは、俺も風雷も魔力を作り出す事はしない。あんたに頼まれた、みんなが可哀想ってだけで自分を犠牲にしてまでポンポン魔力を作り出すお義母さんが異常なんだよ。」
……ゾッ!
つもり、マナは全ての星にエネルギーを注ぐ事でいっぱいいっぱいの状態
少し残った魔力は、次のエネルギー投与への予備であり自分に何かあった時の為緊急時に使うもの
本来なら、自分以外に使うべきでない魔力
それを俺の命令で、無理矢理に魔力を使い使った分の魔力は恐ろしい程までの集中と気力で、常に保存しておかなければならない魔力量まで溜める
その魔力量に、体力と同じように少しづつ自然と回復していく魔力量を加算させて、また全部の星へとエネルギーを注ぐ
…そうか…
だから、俺がマナに魔道を使わせ仕事が終わる度にマナは深い眠りにつく
それを放置して、俺は別の仕事をしたり他の自分の妻や恋人達に会いに行くか遊びに行ってたが…
最初の頃か?眠っているマナの様子を見たメイドから、慌てて報告がきた事があった
眠りについたマナは
“大量の汗、眉間に皺を寄せ、体もガタガタと痙攣を起こしている”
と
医者に診てもらったところ、“魔力の使い過ぎだからこのまま休ませれば大丈夫ですよ。なんの問題もありません。”と、診察結果が出たから、それ以降マナが眠りについた時は放って置いても大丈夫だと判断して大した事もないのに軟弱な奴だと馬鹿にすらして放置するようになった
もちろん、あまり無理はするなという言葉は掛けていたが…
まさか、そんな状態であったとは…考えもしなかった
「正直、考えも思いつきもしなかったとか理由にならないよね。だってさ。
例えるなら、何日も飲まず食わずの飢餓状態の人間を鎖でぶら下げて鞭打ちしてさ。あまりの激痛に失神しても鞭打ちを続けてるような痛みと苦痛っていうのかな?拷問を受け続けてるような感じとでも言えばいいのか…。
人によって例え方は違うだろうけど、俺はこの例えがしっくりくるかも。
それだけ精神や体に大きな負担がかかる事だから、俺は二度とやりたくないよ。考えたくもない。」
……ゾワワッ!
マナへの体の負担はそこで酷いものだったのか?
頼めばマナは簡単に魔道を使っていた
それにマナが魔力の使い過ぎで眠りにつく時は
“ごめんね、魔力が無くなってきたみたいだから休憩するね”
くらいにしか言わなかったから、まさかマナがそんな酷い状態だとは思いもしなかった
そんなマナの事は考えず、当たり前のようにマナに魔道を使わせていたのか
思い返してみれば、マナの心配などしなかった俺は、マナがこれ以上は魔道を使えないと言った時
“こんな大変な時に、そんな事は言ってられないだろ。俺の妻なら、少しは国や民達の事を考えたらどうなんだ!まだ、たくさんの魔力が残ってるだろ!!”
“それを使い切るまで魔道で俺達をささえろ!それが、攻撃魔道が使えないお前がやるべき事だ。たまには死ぬ気で頑張ってみたらどうなんだ!”
“毎回、毎回、たくさんの魔力を残したまま、もう魔道は使えないなんてあり得ない話だぞ!周りを見てみろ!
みんな、体力の限界がきても立ちあがろうと命掛けで頑張ってるんだ。少しは、お前も見習ったらどうなんだ!”
そうやってマナを激昂、罵倒し、説教をした事も数えきれない程ある
なのに、マナは俺に何も反論する事なく
“…ごめんね、みんなが頑張ってる時に。我が儘言っちゃったね、私もみんなに負けないくらい頑張るね!”
笑顔で、そんな風に言って
それを俺は
“できるなら、最初からやってろ!
しっかりしろよ、お前は世界の母なのだから。国や民達は言わば帝王の妻であるお前の子供達のようなものだ。その子供達に寛大な心と慈愛を持って命懸けで守る義務がある”
そう言って、マナを諭していたつもりになっていた
気付けなかったとはいえ、間接的ではあるが俺はマナに魔道を使わせる度にマナに酷い拷問をしていたという事になる
なのに、それさえ知ろうともせず心配すらもしないで、精神的苦痛になる事ばかり口に出しマナの心を追い詰めてばかりいた
と、リュウキはマナへのとんでもない罪悪感から全身の血の気が引いていくのを感じた。
「その上で、考えてみなよ。全ての星に魔力をエネルギーに変えて…ってさ。魔力をエネルギーに変える事自体、誰にでもできる事じゃない。できたとしても、たかだかしれる程度だよ。」
マナが簡単にやってのけるから、考えた事もなかったが…確かに、魔力をエネルギーに変えるなんてマナ以外聞いた事がないな
「例えば、生命が弱くなった動物や草木に、魔力をエネルギーに変えて蘇らせる。邪気で自我を無くした魔物や毒沼を浄化して正常に戻す。
それも聖女と呼ばれる特別な存在が出来る事。そんな聖女だって魔道レベルはS級なんだよ?」
聖女とは、我々が持ち得ない聖なる力を宿した特別な存在だ。その属性や能力を持って生まれてくる者は、滅多に居なく、きわめて希少
能力を極めた聖女が魔道レベルS級なのも妥当だろう
大聖女ともなれば、得S級という特別な階級になるが。大聖女は、1000年に一人生まれてくるか来ないかの奇跡的存在だ
「聖なる力を使っただけで、とんでもない事だって大絶賛の嵐。だけど、その聖女だってやれる事はその程度だよ?お義母さんは、それをどんな規模でやってのけてると思ってんの?」
聖女をその程度と言えるのは、コイツと風雷くらいだろうな
その程度どころではない、本当に希少で存在するだけで有り難い存在なんだがな
そんな素晴らしい存在に有り難みも感じず、存外に考えるのはコイツくらいだろう
本当にコイツは、クソ生意気で失礼極まりないが…それだけのものを持っているから何も反論できないのがムカつくな
おそらくはコイツの事だから、本来聖女しか使えないとされる力や能力も持っているのだろう。しかも、大聖女よりも桁違いにレベルさえ違うのだろうな
挙げ句、その能力の進化版や大聖女さえ持っていない能力や力まで兼ね備えているに違いない…バケモノめが…!
「…まあ、種類は違うけど大きく分類したら聖女の能力とお義母さんの能力は近いものがあるから例え話に出したけどさ。
かの大聖女でさえ、お義母さんと比べたら次元が違うよ。…まあ、比べるようなものじゃないけど。
あんたが、あまりにお義母さんを軽んじてるのが目に見えたからさ。はらわたが煮えくりかえりそうになって言った。」
…ドクン…
「もし、お義母さんが星達にエネルギーを注いでさえいなければ。特に聖女達が得意とする能力や、……。防御、特殊魔道を得意としてるみたいだね。だから、俺が言ってるのは
万全の状態のお義母さんを魔道鑑定したら【M級(マスタークラス)魔道士】だって言ってるの。
なんで、可哀想になるくらいのハンデを背負わせたまま、魔道鑑定して【S級魔道士】なんて不当な判定してんのかって話だよ。同じ魔道士として、そんな差別的な判定が下されてる事が悔しいし悲しい。」
…それは、魔道鑑定する日にちや時間帯は決まってるから、マナがどういう状態かも確認せず…
…そうだな…
今、考えれてみればだが
その頃はマナの事を何一つ考えず、マナがほとんど魔力を使ってから魔道鑑定をさせていた。マナの事を考えず、自分の事ばかり優先し行動していたからだ
自分はというと、正確な魔道鑑定が欲しくてその日に向けて万全を心掛けていたというのにな
「あんたは、国や民達を守らなきゃいけないかもしれないけど。お義母さんは、全部の星の命を守らなきゃいけないの。お義母さんのおかげで、俺達はこの星で生きていけるの。なのに、そんなお義母さんにあんたは言った。“国や民達の母となれ”と。
けど、実はそれを通り越してお義母さんは“星達の母たる存在”なんだけどね。」
もう、そこまで言わなくても分かるが…
マナの話を聞けば聞くほど、なんと自分が滑稽で小さな事か…
陰ながら、誰に知られる事もなく偉大なる偉業を成し続けているマナ
それに気付こうともせず、罵声罵倒ばかり浴びせ続けた愚かな俺……離婚されて当然だな
「あんた、お義母さんを仕事の道具にしか思ってないよね。帝王の妻である前に、リュウキの奥さんでもあるのにさ。帝王の妻は仕事、リュウキの奥さんはプライベートだよね?
なのに、いつでも何処でもお義母さんは帝王の妻だった。リュウキの奥さんでいられたのは、ショウを産む前だけだった。ショウといる時は、あんたはショウの父親、お義母さんはショウの母親で…やっぱり、リュウキの奥さんではなかった。
……ね?これ、聞いてどう思う?」
と、真剣な顔をしてマナの事を考える桔梗に、リュウキは何も言えなかった。
「それでも、あの人はあんたが昔みたいに自分をリュウキの奥さんとして見てくれる日を待ち続けた。
その間にも夫婦としてどうすれば、あんたを振り向かせる事ができるかって悩んで考え続けてさ。健気にもいっぱいいっぱい努力してきた。
そして、どんな時でもあんたを支え続けた。そんな彼女に、あんたは何をした?」
リュウキは思い当たる事があり過ぎて、もうそれ以上は何も聞きたくなかった。
「…やっぱ浮気や不倫が一番キツかったみたい。
その中でも、自分の他に家庭までもってたってのは相当堪えたみたい。心がポッキリ折れちゃったんだね。
結婚する前…いや、恋人になって将来の事を考える様になったらさ。
“自分はそうするつもりだ、それでも結婚してくれるか?”
って、話をして彼女が納得した上で結婚したなら、理解したくないけど分かるけどさ。
お互いが、ちゃんと理解し合って納得できてるんなら。
……違うよね?
それに、一夫多妻制ならそれも部族や家柄のルールだからそれが当たり前なんだろうけど。
それも違うよね?
彼女は言った筈だよ。
“一夫多妻はいやだよ?もちろん、浮気や不倫なんて言語道断だよ!”
ってさ。
それに承諾して結婚したのはあんただ。
なのに、なに簡単に彼女を裏切ってんのさ。一番に守るべき存在を蔑ろにした挙げ句、彼女の容姿を馬鹿にして侮辱して嘲笑った。
……なんだ、これ?あんまりだ……」
またもや、リュウキの脳内を除いたのだろう。
マナに対してのリュウキのあんまりな言動に、桔梗はマナがあまりに可哀想で不憫過ぎて……悲しくなって泣いてしまった。
「……もし、俺がショウにこんな事されたら、絶対に耐えられない…!…ひどすぎる!!…こんなの地獄としか思えない…!悲しいし虚しい…辛い、苦しい……!!
ヤダ、ヤダ!もう、こんなの考えたくないっっっ!!!」
まさか、桔梗がマナを思って泣くとは思ってもみなかったリュウキは酷く驚いた。
そして、自分とショウさえ良ければ他はどうでもいい自己中心的な桔梗が泣くほど、リュウキはマナに地獄を与え続けていたという事になる。
そして、もう耐えられないとばかりに桔梗はワープ(瞬間移動)で消えてしまった。
リュウキはマナに注意された所で屁にも思わなかったし、ただただムカついてイライラするだけだった。むしろ、頭も悪ければ何の役にも立たない、女の魅力もない平凡な容姿のマナが悪いだろうとまで考えていた。
そんな、底辺女を自分の所に置いてやってるだけ有り難いのに、なんでこんな女にそんな事を言われなくてはならないんだと怒りしか湧いてこなかった。
だが、第三者からの冷静な言葉を聞くとマナ本人から言われるとでは違い、苛つきはせど不思議な事に冷静に自分を見つめ返す事ができた。
今度、ショウに会いに行く時
もう一度、しっかりとマナと話し合おう
そして、今までの事を誠心誠意謝ろう
と、リュウキは考える事もできた。この時は、心から謝りさえすればマナとのわだかまりも消えるだろうと簡単に考えていた。
やはり、マナが居なければ仕事が大幅に遅れるし問題も解決できないまま増え続ける一方だからだ。
今まで、いかに自分がマナに助けられてきたのか今更に気がついた。
マナの事は、女として見れなくても本当に大切な家族だと今でも思っている。だから、マナとしっかり話し合い、体の関係はなくともお互いを尊重し合い支え合える夫婦になろうと再婚を申し込むつもりでいる。
そう考えながら、自分を裏切り馬鹿にしてきた妻や恋人達には早速、部下達に恐ろしい処分、処罰を伝え直ぐに実行するように命令をした。
そして、精神的に相当参っているリュウキは、自分を好いて待ち続けてくれる健気な妻や恋人達と愛し合う為にさっそく彼女達の元へと向かうのであった。
そして、未だ誰も到達できてないM級(マスター級)魔道士。魔道鑑定もM級の俺が、俺よりずっと劣る鑑定士達の方が確実な鑑定ができるって?ふ〜ん?」
痛い所をつかれ、グウの言葉も出ないリュウキは桔梗にムカつきイライラしながらも
「確かに、マナは全ての属性や特殊魔道も多く使える。だが、攻撃魔道は一切使えない。魔力量だけならとんでもないが、魔道能力に関しては魔力量に比べたら天と地程差がある。だが、それでもマナの能力は素晴らしくとても優秀だ。
その優秀な能力と、この星にエネルギーを注いでいる魔力量を考慮して攻撃魔道が一切使えない事を踏まえての
【S級魔道士】。正しい判断だと思うが?」
自分の意見を踏まえ桔梗の考えを聞いた。
「俺の見立てだとお義母さんは間違いなく俺と同じ
【M級(マスター級)魔道士以上】だよ。将来の俺とお義母さんはM級すら超えてるから、俺とお義母さんの為に特別にM級以上の階級も作るべきだよね。
…あ!でも、将来の俺はお義母さんよりもずっと強くなるから、その更に上の階級作らなきゃいけないね。」
と、いう桔梗にそんな馬鹿なとリュウキは鼻で笑った。
どうせ、俺が嫌いだから不快な気持ちにさせようと大袈裟に言っているだけなのだろうと。
「そもそもの問題。あんたは、お義母さんのエネルギー投与について間違えてたよね?“この星にエネルギーを注いでいる”ってさ。
さっきも言ったけど、あの人は“全部の星に平等にエネルギーを注いでる”んだよ?規模が違いすぎるでしょ?
それでも、まだ魔力が残ってる程の魔力量。その残った“彼女にとって”は僅かな魔力を使って、あんたがどうしようもなくなった時に手助けしてあげてたんだ。
心の底から感謝するべきだよ?」
…ピクッ…!
「…何だと?民達が困っている時に、手を差し伸べるのは帝王の妻として当然の事だろ?」
と、それぞれの国や民達の事を思い、お前に何が分かるとでも言うようにリュウキはそう言ってきたのだが
「あんたの仕事はそうかもしれないけどさ。国や民達も大事だけど、少しは彼女の事も考えてあげたら?
だって、あんたのお願いで使った分の魔力をそこから集中して溜めていって、また全部の星にエネルギーを注ぐんだからさ。」
…イラッ!
まるで、俺が悪いような口ぶりだな
「あんた達は、できないだろうけど。俺とお義母さん、風雷は魔力量が無くなっても無理矢理に魔力量を作り出す事ができる。けど、これは絶対やりたくない作業だよ。それもできない、あんた達には分からない事だろうから簡単にその辛さと痛み、苦しみを説明するよ。」
…イライラッ!
コイツは、俺を苛つかせる天才だ
今すぐにでも、その憎たらしい口を塞いで思い切りぶん殴ってやりたい気分だ
「魔力を溜める為の集中って、かなり体力や気力のいる事だし全身相当なまでの激痛を伴うし過呼吸も辛いから、俺は魔力を溜める作業はごめんだよ。
俺ならあんたの依頼を断るか、もし引き受けても星がどうなろうと自然と自分の魔力が回復するのを待つ事を選ぶよ。
だから、どんな苦戦を強いられても究極極限にまで追い詰められない限りは、俺も風雷も魔力を作り出す事はしない。あんたに頼まれた、みんなが可哀想ってだけで自分を犠牲にしてまでポンポン魔力を作り出すお義母さんが異常なんだよ。」
……ゾッ!
つもり、マナは全ての星にエネルギーを注ぐ事でいっぱいいっぱいの状態
少し残った魔力は、次のエネルギー投与への予備であり自分に何かあった時の為緊急時に使うもの
本来なら、自分以外に使うべきでない魔力
それを俺の命令で、無理矢理に魔力を使い使った分の魔力は恐ろしい程までの集中と気力で、常に保存しておかなければならない魔力量まで溜める
その魔力量に、体力と同じように少しづつ自然と回復していく魔力量を加算させて、また全部の星へとエネルギーを注ぐ
…そうか…
だから、俺がマナに魔道を使わせ仕事が終わる度にマナは深い眠りにつく
それを放置して、俺は別の仕事をしたり他の自分の妻や恋人達に会いに行くか遊びに行ってたが…
最初の頃か?眠っているマナの様子を見たメイドから、慌てて報告がきた事があった
眠りについたマナは
“大量の汗、眉間に皺を寄せ、体もガタガタと痙攣を起こしている”
と
医者に診てもらったところ、“魔力の使い過ぎだからこのまま休ませれば大丈夫ですよ。なんの問題もありません。”と、診察結果が出たから、それ以降マナが眠りについた時は放って置いても大丈夫だと判断して大した事もないのに軟弱な奴だと馬鹿にすらして放置するようになった
もちろん、あまり無理はするなという言葉は掛けていたが…
まさか、そんな状態であったとは…考えもしなかった
「正直、考えも思いつきもしなかったとか理由にならないよね。だってさ。
例えるなら、何日も飲まず食わずの飢餓状態の人間を鎖でぶら下げて鞭打ちしてさ。あまりの激痛に失神しても鞭打ちを続けてるような痛みと苦痛っていうのかな?拷問を受け続けてるような感じとでも言えばいいのか…。
人によって例え方は違うだろうけど、俺はこの例えがしっくりくるかも。
それだけ精神や体に大きな負担がかかる事だから、俺は二度とやりたくないよ。考えたくもない。」
……ゾワワッ!
マナへの体の負担はそこで酷いものだったのか?
頼めばマナは簡単に魔道を使っていた
それにマナが魔力の使い過ぎで眠りにつく時は
“ごめんね、魔力が無くなってきたみたいだから休憩するね”
くらいにしか言わなかったから、まさかマナがそんな酷い状態だとは思いもしなかった
そんなマナの事は考えず、当たり前のようにマナに魔道を使わせていたのか
思い返してみれば、マナの心配などしなかった俺は、マナがこれ以上は魔道を使えないと言った時
“こんな大変な時に、そんな事は言ってられないだろ。俺の妻なら、少しは国や民達の事を考えたらどうなんだ!まだ、たくさんの魔力が残ってるだろ!!”
“それを使い切るまで魔道で俺達をささえろ!それが、攻撃魔道が使えないお前がやるべき事だ。たまには死ぬ気で頑張ってみたらどうなんだ!”
“毎回、毎回、たくさんの魔力を残したまま、もう魔道は使えないなんてあり得ない話だぞ!周りを見てみろ!
みんな、体力の限界がきても立ちあがろうと命掛けで頑張ってるんだ。少しは、お前も見習ったらどうなんだ!”
そうやってマナを激昂、罵倒し、説教をした事も数えきれない程ある
なのに、マナは俺に何も反論する事なく
“…ごめんね、みんなが頑張ってる時に。我が儘言っちゃったね、私もみんなに負けないくらい頑張るね!”
笑顔で、そんな風に言って
それを俺は
“できるなら、最初からやってろ!
しっかりしろよ、お前は世界の母なのだから。国や民達は言わば帝王の妻であるお前の子供達のようなものだ。その子供達に寛大な心と慈愛を持って命懸けで守る義務がある”
そう言って、マナを諭していたつもりになっていた
気付けなかったとはいえ、間接的ではあるが俺はマナに魔道を使わせる度にマナに酷い拷問をしていたという事になる
なのに、それさえ知ろうともせず心配すらもしないで、精神的苦痛になる事ばかり口に出しマナの心を追い詰めてばかりいた
と、リュウキはマナへのとんでもない罪悪感から全身の血の気が引いていくのを感じた。
「その上で、考えてみなよ。全ての星に魔力をエネルギーに変えて…ってさ。魔力をエネルギーに変える事自体、誰にでもできる事じゃない。できたとしても、たかだかしれる程度だよ。」
マナが簡単にやってのけるから、考えた事もなかったが…確かに、魔力をエネルギーに変えるなんてマナ以外聞いた事がないな
「例えば、生命が弱くなった動物や草木に、魔力をエネルギーに変えて蘇らせる。邪気で自我を無くした魔物や毒沼を浄化して正常に戻す。
それも聖女と呼ばれる特別な存在が出来る事。そんな聖女だって魔道レベルはS級なんだよ?」
聖女とは、我々が持ち得ない聖なる力を宿した特別な存在だ。その属性や能力を持って生まれてくる者は、滅多に居なく、きわめて希少
能力を極めた聖女が魔道レベルS級なのも妥当だろう
大聖女ともなれば、得S級という特別な階級になるが。大聖女は、1000年に一人生まれてくるか来ないかの奇跡的存在だ
「聖なる力を使っただけで、とんでもない事だって大絶賛の嵐。だけど、その聖女だってやれる事はその程度だよ?お義母さんは、それをどんな規模でやってのけてると思ってんの?」
聖女をその程度と言えるのは、コイツと風雷くらいだろうな
その程度どころではない、本当に希少で存在するだけで有り難い存在なんだがな
そんな素晴らしい存在に有り難みも感じず、存外に考えるのはコイツくらいだろう
本当にコイツは、クソ生意気で失礼極まりないが…それだけのものを持っているから何も反論できないのがムカつくな
おそらくはコイツの事だから、本来聖女しか使えないとされる力や能力も持っているのだろう。しかも、大聖女よりも桁違いにレベルさえ違うのだろうな
挙げ句、その能力の進化版や大聖女さえ持っていない能力や力まで兼ね備えているに違いない…バケモノめが…!
「…まあ、種類は違うけど大きく分類したら聖女の能力とお義母さんの能力は近いものがあるから例え話に出したけどさ。
かの大聖女でさえ、お義母さんと比べたら次元が違うよ。…まあ、比べるようなものじゃないけど。
あんたが、あまりにお義母さんを軽んじてるのが目に見えたからさ。はらわたが煮えくりかえりそうになって言った。」
…ドクン…
「もし、お義母さんが星達にエネルギーを注いでさえいなければ。特に聖女達が得意とする能力や、……。防御、特殊魔道を得意としてるみたいだね。だから、俺が言ってるのは
万全の状態のお義母さんを魔道鑑定したら【M級(マスタークラス)魔道士】だって言ってるの。
なんで、可哀想になるくらいのハンデを背負わせたまま、魔道鑑定して【S級魔道士】なんて不当な判定してんのかって話だよ。同じ魔道士として、そんな差別的な判定が下されてる事が悔しいし悲しい。」
…それは、魔道鑑定する日にちや時間帯は決まってるから、マナがどういう状態かも確認せず…
…そうだな…
今、考えれてみればだが
その頃はマナの事を何一つ考えず、マナがほとんど魔力を使ってから魔道鑑定をさせていた。マナの事を考えず、自分の事ばかり優先し行動していたからだ
自分はというと、正確な魔道鑑定が欲しくてその日に向けて万全を心掛けていたというのにな
「あんたは、国や民達を守らなきゃいけないかもしれないけど。お義母さんは、全部の星の命を守らなきゃいけないの。お義母さんのおかげで、俺達はこの星で生きていけるの。なのに、そんなお義母さんにあんたは言った。“国や民達の母となれ”と。
けど、実はそれを通り越してお義母さんは“星達の母たる存在”なんだけどね。」
もう、そこまで言わなくても分かるが…
マナの話を聞けば聞くほど、なんと自分が滑稽で小さな事か…
陰ながら、誰に知られる事もなく偉大なる偉業を成し続けているマナ
それに気付こうともせず、罵声罵倒ばかり浴びせ続けた愚かな俺……離婚されて当然だな
「あんた、お義母さんを仕事の道具にしか思ってないよね。帝王の妻である前に、リュウキの奥さんでもあるのにさ。帝王の妻は仕事、リュウキの奥さんはプライベートだよね?
なのに、いつでも何処でもお義母さんは帝王の妻だった。リュウキの奥さんでいられたのは、ショウを産む前だけだった。ショウといる時は、あんたはショウの父親、お義母さんはショウの母親で…やっぱり、リュウキの奥さんではなかった。
……ね?これ、聞いてどう思う?」
と、真剣な顔をしてマナの事を考える桔梗に、リュウキは何も言えなかった。
「それでも、あの人はあんたが昔みたいに自分をリュウキの奥さんとして見てくれる日を待ち続けた。
その間にも夫婦としてどうすれば、あんたを振り向かせる事ができるかって悩んで考え続けてさ。健気にもいっぱいいっぱい努力してきた。
そして、どんな時でもあんたを支え続けた。そんな彼女に、あんたは何をした?」
リュウキは思い当たる事があり過ぎて、もうそれ以上は何も聞きたくなかった。
「…やっぱ浮気や不倫が一番キツかったみたい。
その中でも、自分の他に家庭までもってたってのは相当堪えたみたい。心がポッキリ折れちゃったんだね。
結婚する前…いや、恋人になって将来の事を考える様になったらさ。
“自分はそうするつもりだ、それでも結婚してくれるか?”
って、話をして彼女が納得した上で結婚したなら、理解したくないけど分かるけどさ。
お互いが、ちゃんと理解し合って納得できてるんなら。
……違うよね?
それに、一夫多妻制ならそれも部族や家柄のルールだからそれが当たり前なんだろうけど。
それも違うよね?
彼女は言った筈だよ。
“一夫多妻はいやだよ?もちろん、浮気や不倫なんて言語道断だよ!”
ってさ。
それに承諾して結婚したのはあんただ。
なのに、なに簡単に彼女を裏切ってんのさ。一番に守るべき存在を蔑ろにした挙げ句、彼女の容姿を馬鹿にして侮辱して嘲笑った。
……なんだ、これ?あんまりだ……」
またもや、リュウキの脳内を除いたのだろう。
マナに対してのリュウキのあんまりな言動に、桔梗はマナがあまりに可哀想で不憫過ぎて……悲しくなって泣いてしまった。
「……もし、俺がショウにこんな事されたら、絶対に耐えられない…!…ひどすぎる!!…こんなの地獄としか思えない…!悲しいし虚しい…辛い、苦しい……!!
ヤダ、ヤダ!もう、こんなの考えたくないっっっ!!!」
まさか、桔梗がマナを思って泣くとは思ってもみなかったリュウキは酷く驚いた。
そして、自分とショウさえ良ければ他はどうでもいい自己中心的な桔梗が泣くほど、リュウキはマナに地獄を与え続けていたという事になる。
そして、もう耐えられないとばかりに桔梗はワープ(瞬間移動)で消えてしまった。
リュウキはマナに注意された所で屁にも思わなかったし、ただただムカついてイライラするだけだった。むしろ、頭も悪ければ何の役にも立たない、女の魅力もない平凡な容姿のマナが悪いだろうとまで考えていた。
そんな、底辺女を自分の所に置いてやってるだけ有り難いのに、なんでこんな女にそんな事を言われなくてはならないんだと怒りしか湧いてこなかった。
だが、第三者からの冷静な言葉を聞くとマナ本人から言われるとでは違い、苛つきはせど不思議な事に冷静に自分を見つめ返す事ができた。
今度、ショウに会いに行く時
もう一度、しっかりとマナと話し合おう
そして、今までの事を誠心誠意謝ろう
と、リュウキは考える事もできた。この時は、心から謝りさえすればマナとのわだかまりも消えるだろうと簡単に考えていた。
やはり、マナが居なければ仕事が大幅に遅れるし問題も解決できないまま増え続ける一方だからだ。
今まで、いかに自分がマナに助けられてきたのか今更に気がついた。
マナの事は、女として見れなくても本当に大切な家族だと今でも思っている。だから、マナとしっかり話し合い、体の関係はなくともお互いを尊重し合い支え合える夫婦になろうと再婚を申し込むつもりでいる。
そう考えながら、自分を裏切り馬鹿にしてきた妻や恋人達には早速、部下達に恐ろしい処分、処罰を伝え直ぐに実行するように命令をした。
そして、精神的に相当参っているリュウキは、自分を好いて待ち続けてくれる健気な妻や恋人達と愛し合う為にさっそく彼女達の元へと向かうのであった。

