【マナに幻術を掛けられたショウの場合】


《〜もしも、ショウが世界一の権力と力を持った女王だったなら〜“過去、最低最悪な王の人格をショウの人格に大きく混ぜ込んで”》


ショウは生まれた頃から、蝶よ花よと育てられ

この全ての世界はショウのものであり自由にしていいと言い聞かされ育ってきた。

そのおかげで、ショウは我が儘放題な横暴かつ傍若無人な子供へと育ってしまっていた。

気に入らない洋服、小物、料理などあった場合には、それを投げ捨ててグチャグチャに踏み付け壊したうえ

その洋服、小物を選んだ者、気に入らない料理を出した料理人を呼びつけ、皮の鞭で何度も何度も打ちつけては悪態をつき

自分が踏み付けて汚したくせに、お前のせいで靴が汚れたと罵倒し相手の頭や顔、背中などを汚れた靴でグリグリと痛め付けていた。

若干、3才でこんな恐ろしい真似をするなんて…この先どう成長してしまうのかと、城の者達はみんな恐ろしく怯えていた。

城の者達が、想像していた通り…いや、それ以上にショウ姫は年月を重ねるごとに恐ろしい人物へと成り下がっていた。

5才を迎える頃には少し性に興味を持ちはじめ、自分の気に入った美少年達を集め逆ハーレムを作った。

その頃にはまだ可愛らしいおままごとの様なものであったが、気に入らないと美少年達に暴言を吐き暴力をふるい酷いあり様であった。

それから、性への興味が深まると性への知識も増えていき、その度に美少年達への負担は大きくなっていきショウが、7才になる頃には本格的な性行為へと発展していた。

しかも、処女だったショウは初めての行為で股が裂けるような激痛を味わい激怒した。
そして、初めての相手は自分を痛め付けた酷い極悪人だと難癖をつけ、ショウの初めてを無理矢理貰った若干13才の美少年は酷い拷問の末、処刑された。

だが、それ以外の性の行為はとても気持ちがいいので、ショウは性の虜になりどっぷりハマっていた。

しかし、最初痛くても慣れるととても気持ちがいいと聞いたショウは、何度もそれに挑戦しては痛い思いをしたら相手を拷問の末、処刑を繰り返しその内にそこでも快楽を拾えるようになり、今まで感じた事のない様な快楽の虜になった。

もちろん、美少年達も成長すれば容姿も変わってくる。そこで気に入らなくなった美少年は、欲しいという奴にくれてやったり性格や態度が気に食わなかったら罵倒して痛め付けてポイ捨てした。ポイ捨てされた美少年達がどうなったかなんて知らない。
自分以外みんな、虫ケラ以下の存在なのでそんな事などどうでもいいのだ。

そして、当たり前な話だが

極上の美少年・美青年ばかりの逆ハーレム。
その美少年達に憧れを持ったり恋する女性達も多い。その中でショウに隠れて密かに恋に発展する者達もいた。

ショウが、それにめざとく気が付いた際には

わざと、ある美少年に恋する女性達や美少年・美青年の誰かと両思いの女性をハーレム部屋に連れてきては

それぞれ女性達の意中の美少年や美青年達を彼女達の前まで連れていき

彼女達の目の前で、意中の相手に無理矢理男性同士の性行為を強要させる。

ショウの機嫌次第では、一人の美少年・美青年に対しワザと大勢の厳つく醜い男達に犯させた。

…とても、酷い有り様で泣き叫び助けを求める美少年や美青年達の声も傲慢で冷酷なショウの心には一切届かない。
しかし、大勢の男達によって穢れていく美少年達の姿を見ていると、もはや汚物にしか見えず気持ち悪いので、自分の目のつかない所へ捨てさせた。

好きな男性が、他の男に犯されるという一生忘れられないような悍ましくも穢らわしいトラウマを見せられ女性達は絶望する。
男に犯される美少年や美青年達も、僅かに残っていたプライドも何もかもへし折られ地獄から奈落の底に突き落とされ精神崩壊する。

そんな美少年達の中でも、ショウは特別に気に入ってる美少年がいた。名前は“桔梗(ききょう)”。
この世の者とは言えない程の美貌で、その美しさと妖艶さは世界一だと断言できる程であった。その美貌の少年はショウの些細な事にも敏感に反応し動いてくれる有能な人物でもあった。

だから、特別な桔梗はハーレム部屋に閉じ込める事はせず、ショウは何処へ行くにも桔梗を手放さなかった。


桔梗を連れて歩くと、周りの羨む渇望の目が非常に心地いい。

わざと桔梗に些細な事でも自分の世話をさせて、桔梗は自分のモノだと周りにむざむざ見せつけ自慢気にしている。

酷い時には、場所など関係なく廊下や書斎、食事をしている最中、外でも桔梗に性行為を強要して、桔梗に憧れを抱く者や恋する者達を見つけては、その場で桔梗に屈辱的な性のご奉仕をさせる事も多い。

城にいる者達は、逆ハーレムの美少年や美青年達もそうだが、特に桔梗に対して憐れみの目を向けていた。

いや、彼らに恋する女性達や、もちろんショウに関わるメイドや料理人…様々な人達に対しても。

そして、ショウが16才の時王位を継承した為に地獄を見る事になった民達に対しても。


ショウが王位につき、今まで以上にやりたい放題できる様になると歯止めがきかず。ショウに注意、忠告してきた勇気ある部下達は鬱陶しいので自分に楯突く者達は根こそぎ処刑した。

見せしめに、その家族も一緒に…。


そうしていると、当たり前だが国はあっという間に荒れ果て民達の不平不満は溜まるばかりだが、街には反乱を防ぐため民に扮した兵が混じって見張っている。なので、民達はどんな時でも女王様の不平不満は口に出せない。

だって、民に扮した兵が居るとは知らず女王の悪口を言った民は、大罪人として政府に捕まり公開拷問の末に処刑。その家族も同罪だと同じように…。それが、どんな幼い子供でも赤ん坊であっても…

その内、民達は食べる物も何もなく生きる為に争いの絶えない酷い状況になり、まともに風呂にも入れず僅かにある泥水で体を洗うしかない。トイレも処理できない。あまりの不衛生さに、疫病が流行り……もはや、地獄絵図としか言いようがない。

ここでは言えない程の残酷で悍ましい出来事も日常茶飯事。

しかし、こんなどうしようもない早く消えてほしいと人々から憎み恨まれ、いつ反乱や内乱など起きてもおかしくないのにそれが起きない。
いや、起こそうと試みても何故か鉄壁なまでに完璧に守られている女王に、みんな手も足も出せない状態だった。

こんなに頭の悪い女王なのに。本当に馬鹿を通り越して頭がラリってるとし思えない狂人なのに何故に誰も抵抗できず、女王の悪魔のような愚行にも目を瞑り黙って指を咥えて見ている事しかできないのか!
悔しい!悔しい!!と、民も城で働く者達もみんな同じような事を思いながら、いつか…いつか必ず…!!そんな思いを胸に秘めながら日々を過ごしている。

しかし、この女王がこの国の頂点に立つ前までは、誰が王になっても同じだろという者達が、過去、大勢いて笑っていたものだが。

本当の馬鹿で、自分の事しか考えられないどうしようもないクズが君の頂点に立つと、こんなにも国は荒れ果て酷くなるものなのかと実感せざるを得ない。

隣国の王は穏やかで民達に慕われていて、国も豊かで自分達が想像できないくらいに平和で栄えているらしい。病院や警察など施設も整っているという。

頂点に立つ王が違うだけで、こんなにも違うものなのか。

ならば、一刻も早くこの馬鹿女王を始末して、新しい王にこの国を立て直してもらわなければ!

そう思い、勇気あるもの達がこっそり集まり画策しようにも、様々な所に何かに扮した密告者がいて常に見張られている状態。

どうにか、動いてこのクソな女王を始末しようにも何も動けないのが現状だ。何故、馬鹿な女王が周りの状況にも気がつく事もできてないというのに我が儘放題できるのか。

その答えは簡単だった。極悪非道で頭の悪い女王の横には女王の大のお気に入りである桔梗がいた。
気がついた時には、彼は女王のハーレムの中にいていつどの様にハーレムの仲間入りをしたのか不明である。何とも不思議な少年である。

桔梗は僅か7才という幼さでは考えられない程に、豊富な知識と洞察力、推察力まで優れて優秀かつ有能で非の打ち所がなかった。

まるで、見た目は子供、中身は神に愛された天才といっても過言ではない頭脳とありとあらゆる才能、カリスマ性を持ち合わせた完璧を絵に描いたような少年だ。

その桔梗の助言のせいで、女王だけは用意周到、完璧なまでに一寸の隙などなく鉄壁なまでに守られ、我が儘放題、やりたい放題でのうのうと生きていられる。


毎日、ショウによって性奴隷・召使いとしていいオモチャにされてる桔梗が、何故そんな助言をしてショウを守っているのか分からないが、

もしかしたら、ショウが怖くて生きる為にショウに媚を売っているんだろう。桔梗なりの処世術なのかもしれない。…まだ、こんなに幼いのに可哀想に…。

だが馬鹿な女王は、その事すら全く分かっていない。
自分が桔梗によって守られているなんて、ちっとも。
本当に頭が痛くなる程までにおつむが弱い。と、城の切れ者達は苦悩していた。

そんな事など知ったこっちゃないショウは、相変わらず贅沢三昧やりたい放題であったが

最近少しずつ食料や衣服、宝石がショボくなってきている事に気がついた。

それに怒り、部下に問いただすと

民達の状況を聞かされ、民達が頑張っているおかげで自分達は贅沢ができていると説明した。

すると


「じゃあ、私の為に働いてよ!こんな、ショボい食事とか洋服なんて嫌だよ!!
鞭打ったら、働くんじゃない?サボってないで私の為に、色々尽くしてよ!それが当たり前でしょ?バカなの?お前たちは!」

と、できるわけのないおかしな事を言って、部下達に罵声罵倒を浴びさせた。

最近、こんな話ばかりで最悪だ!


こんな時は、ハーレムでお菓子や果物を食べながら快楽に浸るしかないよね!

なんて、イライラし過ぎていつもは行かない様な時間帯にショウのハーレムの部屋を開けた。


…すると…


ショウの目の前にとんでもない光景が広がっていた。

なんと、美少年・美青年達は自分達の心の傷を慰め合っているのか、みんな入り交じって同性同士の性行為を楽しんでいたのだ。その中に、美女達も混じり乱交している。

その美女達はおそらく女性兵やメイド達でハーレムの美少年・美青年の中の誰かのお気に入りか恋人であろう。


「…あはは!こんなのバレたら大変だ。」

「大丈夫だよ。あのクソデブス女王は、この時間帯だけはどうしても外せない仕事でここに来る事はないもん。」

「今の時間だけが、ボク達の癒しの時間だよ。」

なんて言葉と


「…ヤダよ!オレ、男とだなんてムリだから!…ヤダ!」

「……うわぁっ!お尻触らないで!嫌だ!!誰か…ッッッ!!」

嫌がり逃げ回る美少年達を捕まえ、無理矢理美少年達を強姦する光景。強姦された美少年達は、絶望の叫び声をあげ“助けて、嫌だ”と、泣き叫んでいる子も何人かいる。…たまに、もの凄く嬉しそうに喜んでいる子もいたが。


…ドクン…


…なに、これ…?

その光景を見て、ショウは彼らが穢らわしく
まるで、汚物のように思え物凄く気持ち悪く思えた。


「…最悪。女王様に体を捧げる忠誠を誓っておきながら、女王様が居ない時間を見計らって女王様を裏切るなんて。この様子を見る限り、相当慣れてるね。
日常的に女王様を裏切り続けてたんだ。…酷い奴ら。」

と、あまりに気色悪い光景を目の当たりにして、青ざめ吐き気をもよおしているショウの背中をヨシヨシと慰めながら桔梗は、目の前で起きている事をわざわざ分かりやすく実況して、自分が推測した事をショウに言って聞かせた。


「こんな気色悪い奴らは、さっさと排除しましょう。」

そう言って、桔梗は至極嬉しそうに近くにいたショウの護衛の剣を引き抜くと一気にハーレムの中に飛び掛かって行き、その事によってようやくショウや桔梗の存在に気がついた美男、美女達。
青ざめ悲鳴と命乞いをしながら逃げまどう彼らを桔梗は容赦なく斬りつけていった。

その素早い動きと洗練された無駄のない動きはどう見ても只者ではないどころか、ハーレムの美少年や美青年、彼らの恋人やお気に入りの美女達の血飛沫を浴びながら心の底から喜んでる様は……狂人としか思えなかった。

しかし、その反面その狂気じみた表情も動きも全てさえもが、悪魔のように美しいと桔梗の姿にうっとり心奪われる。


「…アハッ!あははは!!」

…ゾッ…!

笑ってる…人の命を奪って喜んでる。命乞いをしても聞く耳など持たず、逃げ惑う彼らを片っ端からとっ捕まえて殺して楽しんでいる。

……狂ってる……

これは、女王の側にいたが為に精神がおかしくなってしまったのかもしれない。

しかし、全てにおいて優秀有能、この世のものとは思えない程の美貌、カリスマ性を持ちながら……勿体無い。

精神さえまともであったなら、この国の王たる器を持った逸材だったかもしれない。

未来の王だったのかもしれない。

そんな輝かしい希望が、このどうしようもない女王のせいでここで終わるのだ。

そう、ここに居合わせた部下達はとても残念な気持ちになっていた。そして、このまま桔梗を放置してしたら、国が崩壊してしまうと判断し苦渋の選択でやりたくはなかったが……

そこにいた部下達、十数名は一斉に桔梗に向かい大きな剣を突き刺してきた。


「……うぐっ!?…あ…」

他の7才児と比べても小さく華奢な体は、数本の大きな刃物に突き刺され軽すぎる体は剣を上にかざすと簡単に持ち上がった。

重力に逆らえず、深く剣に突き刺さっていく桔梗を見てショウは悲鳴をあげた。


「…な、なにっ!?何が起きたの?
どうして、桔梗が……えっ?え?」

と、顔を真っ白にしてパニックに陥っていた。そんなショウ女王に、桔梗は


「……ッッ!!?…痛っ……!!
…だ、大丈夫だよ、女王様。俺が、俺がァァーーッ!
…ハアハア、た、例え…全人類が女王様の敵になったとしても!…俺だけ…は、ゼェー…俺だけは絶対に女王様の味方だから!俺が女王様を守るから……っっ!」

あまりの激痛に、言葉を発する余裕なんてない筈なのに息も絶え絶えに桔梗は女王にそんな言葉を掛けた。


「…な、何故、そこまで女王の事を?」

そんな桔梗に疑問を感じた兵の一人が、桔梗に声を投げかける。

「……俺は、生まれた時から病気で醜い姿だった。
…だから、家族に奴隷売りに売られて…物心ついた頃には小さな檻の中に入れられてた。
…死んでも構わないって感じに雑に扱われて、小さな檻の中だけで生活してた。」

……え?

詳しい内情こそ話さない…いや、話せる状態じゃないし時間もないので話さなかっただけなのはわかるが。

この一部分を聞いただけで、桔梗がとんでもない劣悪な場所で酷い扱いを受けてきたのか容易に想像する事ができ、そこにいた誰もが何とも言えない救いそうにない気持ちになっていた。


「そんな時、奴隷を買いに女王様が来て俺を見て
“この子は、とんでもない美貌の持ち主だよ!”
って、俺を病院に連れて行って病気を治してくれた。あの地獄の様な檻の中から解放してくれたんだ!

綺麗な水だって飲めるし、美味しいご飯やおやつまで食べれる。温かいふわふわの布団で寝れる。大きくていい匂いのする綺麗な温かいお風呂で全身を綺麗に洗える。上質な服までくれるんだ。
何より、俺を救ってくれた女王様の側にいてご奉仕ができるんだ。これ以上に幸せな事ってある?ないよね?

だから、誰がなんと言おうと俺にとっては女王様は命の恩人であり女神様なんだ!」


そこまで聞いて、みんな何故に桔梗が極悪非道な女王に身も心も健気に尽くし離れなかったのか理解できた様に感じた。

…ズキン…ッッッ!!!

そんないたいけな少年を…将来のある希望ある少年に自分達はなんて恐ろしい事を…!

と、少年の小さく細い体を思い切り突き刺した兵達は、なんて事をしてしまったんだとどうしようもない状況になってようやく考える事ができた。

思えば、普通に考えればハーレムの美少年達やその美少年達と卑猥な行為をしていた美女達は、女王を裏切り続けていた事になる。
しかも、自分たちの主であり絶対的存在の女王の悪口を言って嘲笑っていたのだ。

よく考えずとも、一国の王にそんなふざけた真似などしたら、ただの拷問どころか早く殺してくれと精神がおかしくなるほどの恐ろしい拷問を受けたのちに処刑されても当たり前な裏切り行為だ。

桔梗が彼らを殺してくれたおかげで、彼らはこれから味わっていたであろう生き地獄を味わいながら処刑されるという恐ろしい処罰を受けず済んだだけマシだったのだ。

そこまで考えて、その場にいたショウ以外の者達はサッ……!と、青ざめ罪の意識が芽生えてきた。


自分達は、なんて事を……

この少年は、女王を始末した後に医者のカウンセリングを受けさせしっかりとした一般常識を教えてあげればいいだけの事だったのに。

冷静でなかった自分達は、救える者を傲慢にも自らの手でその小さな命を奪ったのだ。

と、兵達が固まっているうちにも


「……あ、あれ?…なんか、痛くない…けど……力が抜けてく…どうして?声も、あんま出なく……耳も…
…おかしいな?……女王様が、どこに居るのか見えなくなっちゃ……た。
…女王様、どこ?…ゼェ…ゼェ…女お…さ……だい、じょうぶ……俺が……まもっ……じょ……さ……」

桔梗は渾身の力で、息も絶え絶えに手を伸ばしていた。もう、目も見えていないのだろう。必死に伸ばした手はショウとは全然違う所を向いている。

そして、桔梗は声にならない声で必死に何かを訴え掛け涙を流し生き絶えた。ショウに向けて必死に伸ばしていた手も今はダラリと下を向いている。


それを見たショウは、今初めて自分はなんて事をしてしまったのかと城中に響き渡るような悲鳴をあげ泣いた。

自分は何をどう間違えて、こうなってしまったのだろう。

何処から、自分は間違っていたのだろうと考えた。
一生懸命に考えが、結局分からずじまいで桔梗を殺した部下達は何を思ったかショウの腕を拘束して乱雑に城の外へ連れ出した。

桔梗の事が気になり、桔梗の名前を呼んで後ろを振り返ると見るも無惨な死体へと姿を変えていた。


…ドックン、ドックン、ドックン…!

「…き、桔梗……ごめ、ごめんね。汚いのは、私の方だった。桔梗は何も悪い事なんてしてないのに…!
必死になって私に、助けを求めてたのに…私は……ッ!?」

ショウは、初めて罪の意識に苛まれ桔梗を失った悲しみで大泣きしていた。

運動不足でおぼつかない足をもつれさせ転んでも、雑に無理矢理起こされ擦りむいた怪我もそのままにどんどんと荒んだ村や町へと連れて行かれる。

その町や人々をはじめて見たショウは、絶叫して失神しかけた。それほどまでに、一目見ただけで悲惨を通り越して、ここは地獄か何かかと思うほどの光景と異臭で溢れかえっていた。

そこで、部下が一言


「これが、あなたの作り上げた国です。」

と。そこで、ショウは意識もぶっ飛ぶようなショックを受け…………



マナの幻術から目が覚めたのだった。


「……ハッ!?…ハァ、ハァ…ハァ……!…う、ウゥッ!!」

酷い汗と呼吸で、とても苦しいし涙が止まらない。


「ショウ、もう大丈夫よ!ここは現実で、さっきまでショウが体験したのは夢の世界じゃないよ。
よく、頑張ったね。大丈夫よ、大丈夫。」

と、ショウの母であるマナはショウを抱き締め、大丈夫だと背中を優しく撫でて宥めてくれるが

まだ、心臓が飛び出るんじゃないかってくらいにバクバク打ちつけてくる。

鮮明に思い出される、幻術の中での自分のとんでもない愚行。愚行というには可愛すぎるくらい、とんでもなく恐ろしい事をしてきた。
…自分は、なんて恐ろしくも悍ましい汚い存在なんだとショウは青ざめ、ショックを受け放心状態になっている。

そこに、ショウの手を握っていたショウの父親であるリュウキが、ショウの手にグッと力を入れ何か言おうと口を開きかけた、その時だった。



「違ーーーうっっっ!!!」

突然、声を荒げ“違う”と叫んだ桔梗の声。

その声に驚き、みんなショウの横に眠っている桔梗を見た。桔梗の様子を見ると、まだマナの幻術から抜け出せていないようだ。

たまたまのナイスタイミングで、桔梗が声を荒げたらしい。だが、ショウを包み込むように抱き締めていた桔梗は無意識だろうか?

ショウの額にコツンと自分の額をくっ付けると


「…違う!それは違うよ、ショウ。
俺、聞いたんだ。ショウに掛ける幻術は、ショウの中に“ショウじゃない別の誰かの人格を大きく取り入れて”
その人物の体験をさせようって!
だから、ショウが幻術の中で体験した事はショウがやった事じゃない!ショウが気にする事なんて微塵もない事だよ。気にしたらダメ……」

そう言って力尽き、スースーと自分の掛けられた幻術の中に意識は消えたようだ。

そんな桔梗の奇妙な言動に、みんな驚くしかない。


「…あれ?私の幻術はちゃんと発動してるし、桔梗君も幻術の中で頑張ってるみたい。
なのに、さっきの“アレ”は何だったの?まるで、現実世界のショウのピンチの為だけに、無理矢理幻術から抜け出してきたような…でも、あり得ない事よ?
…う〜ん…?たまたま自分が体験してる何かで叫んだ言葉と今のショウに必要な言葉がかぶっただけかな?
…それにしたって…う〜ん…?」

懸命に考え込むマナに、リュウキは


「……いや、この男ならあり得ない話ではないのかもしれない。例え、幻術の中にいても現実世界のショウの心の叫びに共鳴して、ショウを助けたいという一心だけで幻術の中から現実世界のショウを救おうと幻術に抗ったのかもしれない。
…と、これは俺の理想論であって現実的ではないがな。そうであってほしいという俺の願望だ。」

と、リュウキはショウとマナに苦笑いして見せた。

だが、あり得ない話ではないとオブシディアンは桔梗の事を考えていた。ショウに付きっきりで二人をずっと見てきたから分かる。ショウの為なら、どんな不可能も可能にしてしまう力がこの男にはあるのではないかと確信している。

しかし、桔梗の顔を見て考え込むマナはある事に気がついた。


「…あ!あーーーーっ!!この子、やってくれちゃってたよ!気が付かなかったぁぁ!」

と、マナはビックリした表情でリュウキの顔を見上げた。それを見て、何かあったのだとリュウキ達はマナの言葉を待った。

「何か、おかしいって思ってたんだよ。それが何かよく分からなかったんだけど!今、分かった!」

「そんなに興奮して、どうしたって言うんだ?」

「もう!もー!何で、そんな事しちゃうかな?自分の事もっと大事にしなきゃ!もぉ〜!!」と、興奮して怒っているマナに、落ち着けとリュウキはマナの肩を抱くと

「聞いてよ!桔梗君ったらね。分身の術を使って、本体は自分の掛けられてる術。分身はショウの掛けられてる術に潜り込んでたんだよ!」

と、プンプン怒ってるマナの説明に、この規格外はオブシディアンの一族特有の術までも使えてしまうのかと驚くしかなかった。

「…だが、そんな事をしてしまったらショウの幻術の内容がしっちゃかめっちゃかになってしまっていたんじゃないのか?」

何やらかしてくれてるんだと、リュウキが頭を抱えていると

「……申し訳ありません。我が一族の術の一部は桔梗様の強い希望で大長と長の許可の元、修行し得た術です。
ですが、我が一族の術は波動術に近いものがありまして…」

「…ああ、桔梗はやらせれば何でもできてしまうが、唯一波動術だけは苦手だったな。それでも、上級レベルに近いといっても過言ではないが…。」


「はい。なので、分身の術でできた分身の桔梗様は、ありとあらゆるものがかなり未熟でして…」

「つまりは、分身の方の桔梗は“全てにおいてが、桔梗の超劣化版”って、事か?あはは!あの完璧で傲慢な桔梗にも苦手な事があったか!あはは!かなり愉快な話だな!!」

と、桔梗に不得意があると分かった途端、リュウキは手を叩いてめちゃくちゃ喜んでいた。日頃、桔梗にムカつく態度ばかり取られ喧嘩ばかりの二人なので、リュウキはここぞとばかりに笑ってやった。

隠密一族特有の術をそこまで使いこなせれるのはかなり凄い事だし、分身の術は一族でも使える者はごく限られているのだが…桔梗に対し日頃から鬱憤が溜まっているリュウキの前で、そんな説明などできなかった。

「なので、分身の桔梗様の記憶も曖昧。おそらく、“ショウ様に対する思い”だけが強く、それだけで行動している筈なので、

“魔導も何も使えない、普通の人間でただの優秀過ぎる天才美少年”

としてでしか存在できないと思います。おそらく、術も上手く使いこなせない影響で、姿や体力、知力も幼稚園か小学校低学年程度にしかなれないかと…」

「……いや、“普通の人間ではあるが優秀有能過ぎる天才美少年”ってだけでも、とんでもない話なんだがな。」

魔導も何も使えない普通の人間で幼い少年なのに、優秀有能過ぎる天才美少年って何だよ…

と、リュウキは笑ってた口をヒクヒクさせ桔梗という存在がいかに規格外なのかという事を改めて思い知らされた気がしてムカついた。

…イラ…

やっぱ、コイツ嫌いだわ。

憎ったらしそうな顔で桔梗を見るリュウキに


桔梗のあまりの欠点の無さに可愛げを感じず、嫉妬するリュウキを見てマナとオブシディアンは、それはあなたも同じようなものなんだけどなぁ。

桔梗は桔梗で、自分が持ってないリュウキの能力や力に嫉妬しムカつき嫌っている。
似た者同士、いわゆる同族嫌悪に近い感情なのではなかろうか?と苦笑いするしかなかった。

似た者同士、二人ともかなりの切れ者で一筋二筋縄ではいかない超のつく曲者で隙がない。
だが、桔梗に関してはショウに関する事だけはポンコツに成り下がるので、そこは人間味を感じ可愛らしくも思えるのだが。

リュウキには、そんなポンコツな所はなくどちらかといえばリュウキの方が、完全無欠で人間味がないように感じるオブシディアンである。

唯一、リュウキが人間らしく思えるのは家族といる時。
まだリュウキが自分の家族を持つ前までは、リュウキは“王”という種族なのではないかと思うくらいに人間味に欠けていたように思う。