〇駅の広い改札

スマートフォン片手にキョロキョロするひなた。

武藤 ひなた(この辺りだよね?)
鈴木 隼斗「武藤さんっ!!」
武藤 ひなた「ひゃっ!?」


後ろから声をかけられ、驚いてしまう。
笑顔の隼斗に申し訳なさそうに汗を飛ばす。


武藤 ひなた「あ、ごめんなさい。 改札間違えて迷っちゃって……」

鈴木 隼斗「大丈夫だよ。 出口が多いと迷うよね」

武藤 ひなた(遅刻しちゃったのに。 鈴木くんって全然怒らないんだ)


ひなたは極度の方向音痴である。

そのため、慣れない駅の改札を間違え、待ち合わせに遅れてしまったのだった。

優しい隼斗に胸が痛む。

だが隼斗は全く気にしていなかった。




鈴木 隼斗「行こっ!! 休日だから混んでるだろうけど、オレが武藤さんを守るからねっ!!」

鈴木 隼斗「な、なんだったら手を繋ぐとか……」


隼斗は目をそらしてニヤッとしながら手を差し出す。

だが隼斗の下心もとい想いは伝わらず、ただ心配されていると思った鈍感ひなたはスルーしていた。



武藤 ひなた「大丈夫だよ。 気遣ってくれてありがとね」


隼斗の優しさに微笑み、歩き出すひなた。

純粋なひなたに隼斗が罪悪感を燻らせていた。


鈴木 隼斗「うーん。 かわいい。余計に気持ちが強くなるなぁ」


だが結局、隼斗はひなたが大好きなので鈍感でもなんでもよいのであった。



〇動物園の中(パンダのコーナー)


鈴木 隼斗「ほら、武藤さん! 子パンダがいるよ!」


隼斗が柵に駆け寄り、楽しそうにする。
一方のひなたは子パンダではなく、親パンダを見ていた。


武藤 ひなた「あ、かわいい。 思ってたより大きいなー」


武藤 ひなた(鈴木くんは……子パンダ見てる? 笹食べてるなぁ)


子パンダは夢中になって笹を食べていた。
釘付けになる隼斗。


鈴木 隼斗「……かわいい」

武藤 ひなた(子パンダが好きなのかな?)


この時の隼斗の思考はまさにキュートアグレッション状態であったが、ひなたは気づいていなかった。



〇動物園の中(園内)



鈴木 隼斗「ホッキョクグマにゾウにカピバラ・・・と」


園内マップを見ながら歩いた場所を確認する隼斗。

そのマップをやや背伸びをして覗くひなた。


鈴木 隼斗「カピバラかわいかったね」

武藤 ひなた「お風呂入ってたね。 気持ちよさそうだった」

鈴木 隼斗「一緒に入って抱きしめたくなるね」

武藤 ひなた「あは、それは楽しそう」


この時のひなたは年相応のふわふわした女の子であった。

無邪気に、心から楽しんでおり笑顔も柔らかかった。

不意打ちに隼斗はドキドキし、赤面して目をそらす。



鈴木 隼斗「……そ、そろそろご飯食べよっか」
武藤 ひなた(何か変なこと言ったかな?)


早足になってしまった隼斗にひなたは困り顔で首を傾げていた。


〇動物園の飲食店(テーブル席)

メニューをみて隼斗が興奮し出す。


鈴木 隼斗「ね、武藤さん!! まゆタレうさぎのランチプレートだって!!」

武藤 ひなた「ホントだ。 あ、まゆクシャいぬもある」

鈴木 隼斗「まゆクシャが好きなの?」

武藤 ひなた「うん。 なんかおじいちゃんみたいでかわいい」

鈴木 隼斗「うん、かわいいね……」


微笑むひなたがかわいいと思い、愛おしそうに見つめる隼斗だった。



〇動物園内(うさぎのふれあい広場前)

武藤 ひなた(思ってたより、楽しいかも。 会話も通じるし)


隼斗が立ち止まる。


武藤 ひなた「……鈴木くん?」

鈴木 隼斗「うさぎ……」


視線の先にはうさぎのふれあい広場。
入りたそうに目をキラキラさせている。

少しかわいらしくてクスッと笑ってしまった。


武藤 ひなた「ふれあい広場だって。 入ってみる?」

鈴木 隼斗「うん!!」

武藤 ひなた(うさぎが好きなのかな? まゆタレうさぎが好きだもんね)


そしてふれあい広場に入り、しゃがみこむ。

ひなたの周りにはうさぎがいたが、隼斗は逃げられていた。


武藤 ひなた(でも逃げられてる)


小さな子うさぎがひなたの匂いを嗅ぎに来る。

武藤 ひなた(あ、この子人懐っこい)


子うさぎをなでなでする。

かわいらしい姿にひなたの心はほぐれ、ニコニコしていた。

パッと顔をあげて隼斗を見る。



武藤 ひなた「鈴木くん、この子人懐っこいよ」

鈴木 隼斗「もームリッ!! 我慢できないっ!!」


子うさぎが逃げ出す。
人目もはばからず隼斗はギューッと抱きしめてきた。


武藤 ひなた「す、鈴木くん!?」

やっぱり力加減がおかしい。
潰れてしまいそうだ。


武藤 ひなた「いっ、痛いですっ……」

鈴木 隼斗「ごめん、かわいすぎて……」

武藤 ひなた「離して……」

鈴木 隼斗「ごめん、それはやだ」


周りの人達が微笑ましそうにこちらを見ている。

ひなたは顔を真っ赤にする。

暴走した隼斗はひなたの耳元で囁いた。


鈴木 隼斗「武藤さんちょっとずるいよ。 抑えが効かない」

武藤 ひなた(ダメ、そんなふうに言わないで。 どうせこの人だって)


ドキドキとぐちゃぐちゃした感情にひなたは耐えきれず、隼斗の肩を強く押した。

腕の中から解放される。

立ち上がり、隼斗に背を向けた。


鈴木 隼斗「ごめん。 オレは……」

武藤 ひなた「やっぱり付き合えない。 私、鈴木くんの気持ちが理解出来ないから」


隼斗は立ち上がり、ひなたに気持ちをぶつける。


鈴木 隼斗「い、嫌なら触れないっ!! オレ、武藤さんのこと大事にしたいんだ!!」

武藤 ひなた「すぐそんなこと思わなくなるよ」


ひなたは振り返り、悲しげに微笑んだ。
隼斗は動きを止める。



鈴木 隼斗「え?」

武藤 ひなた「……帰ろっか」


足早にふれあい広場をあとにする。

隼斗は真面目な顔をしてひなたの後ろ姿を見つめていた。



武藤 ひなた(これ以上一緒にいるのは、怖い。 彼からあの目で見られると思うと……)


怖くてたまらない。

そう思いながら泣きそうな顔をして、ひなたは締め付けられる胸の痛みから目をそらしていた。




〇動物園を出て、川沿いの公園(夕方)

風が吹き、ひなたの長い髪をなびかせる。


武藤 ひなた(ここは静か。 騒がしいところに誰かと行けない)


俯くひなた。



武藤 ひなた(でも……動物園は楽しかった。 勘違いしてしまうほどに、鈴木くんは優しく接してくれるから)


余計に怖いの。
キュッと小さく手を握りしめた。




鈴木 隼斗「……よし、決めた!!」

わずかに後ろを歩いていた隼斗が止まる。


武藤 ひなた「鈴木くん?」


ひなたが振り返るとそこには真面目にこちらを見つめ、手を伸ばしてくる隼斗がいた。



武藤 ひなた(怒ってる? というか近──)

武藤 ひなた「えっ……ええっ!?」

鈴木 隼斗「もう隠さないっ!! オレ……後悔したくないから!!」

武藤 ひなた「──っ!? いっ──……!!」


また、強い力で抱きしめられていた。
胸に手をあてて、叩く。


武藤 ひなた「ねぇっ……は、はなして……」

鈴木 隼斗「オレ、本当に武藤さんが好きなんだ。 ずっとかわいいと思ってた」


隼斗の突然の告白に、ひなたはビクッとし動きを止める。

緊張しているのかは、耳元で隼斗の鼓動が聞こえた。

伝染して、ひなたもドキドキし出す。

だがその後の隼斗の発言に、ひなたは衝撃を食らうのだった。



鈴木 隼斗「武藤さん見てると……いじわるしたくなる」

鈴木 隼斗「抱き潰したいし、なんか色んな表情見たいって思うと……」

鈴木 隼斗「なんかゾクゾクするんだよね」

武藤 ひなた「……はい?」


【私はまた何か聞き間違えたでしょうか】


【鈴木くんはニヤニヤしてて、爽やかさの欠片もありませんでした】