この世で最も大切なものってなんだろう。地位?お金?家族?どれも私は持っていないものだけど手に入れたらどんな気持ちになるんだろう。うれしいのかな?楽しいのかな?

そんなことを考えながら今日も1人でご飯を作る。私にはお金も家も家族もない。だから毎日こうやって自然に生えてる草花を食べている。

「いただきます。」

この生活を始めてからどれくらい経つんだろう。お父さんとお母さんが死んでずっとこの暮らし。働きたくても14歳という年齢で断られ食べ物にあたることもあり生きるのに必死な毎日。私の姿を見た人は皆私のことを可哀そうだという。だけど、私はそんなこと思ったことがない。両親がくれた命(みこと)という名前。命(いのち)ある限り決して諦めないように生きてほしい。そんな意味を込めて名付けてくれたこの名前のおかげでいつも頑張れる。

「命(みこと)ちゃん、今日も草花かい…?」
「うん、百合婆ちゃん。」

この人は百合婆ちゃん。私が野外生活をさせてもらっている土地の所有者。初めて会ったときは美味しいシチューを作ってくれて家に住まわせてくれると言ってくれた。でも、お家の中まで入るのは図々しいから、外の土地だけ借りている。

「命(みこと)ちゃん、いつでもお家の中に来てくれていいんだよ。私も息子も命(みこと)ちゃんのことが心配だよ。」
「ありがとう。でも、大丈夫だから。」
「そうかい……あ、そうだ、命(みこと)ちゃんにね渡すものがあったんだよ。」

そう言って百合婆ちゃんは茶色い封筒を目の前に差し出した。確かに長月命(ながつきみこと)様と書いてある。私がここで生活させてもらって随分経つけど、私の名前なんか百合婆ちゃんたち以外に知っている人はいないのになんで届いたんだろう……

「ありがとう。後で中身見てみるね。」

私がそう言うと百合婆ちゃんは杖をつきながら家の中へと入っていった。足腰もだいぶ弱くなって外に出るのも大変なのにいつも私のところへ様子を見に来てくれる優しい人。

「なにか百合婆ちゃんにお返しができればいいんだけどな……お金でも食べ物でも、何でも……。」

そんなことを考えながら封筒を開く。中には薄い紙が3つ折りで入っていた。

「人間オークションの……招待状…?」

いや、人間オークションって何!?私、また変なもの食べて頭がおかしくなってるの……?

何度も指で文字をなぞりながら読み返すが何回見ても『人間オークション』の言葉に見間違えはない。どう考えても怪しいし、なにか怖いものが見えてくる

だけど……

「落札されれば一生分の生活をプレゼント……。参加賞として3食と寝床を1週間提供します……。」

その文章が魅力的に見えてしまう。一生分の生活。それって、もう生活には困らないってこと…?参加賞だけでも3食ももらえて寝る場所ももらえるだなんて恐ろしいくらい魅力的な話。

天国のお父さん、お母さん。私はこの『人間オークション』に参加するべきなのかな…?2人だったらこんなときどうしていたかな……?

違う。
こんなとき、お父さんとお母さんだったら絶対に参加するって言うに決まってる。だって、命(いのち)ある限り自分の道は自分で切り拓くのが正しい生き方。そう、言っていた。この道を選んで絶対に生きていくんだ。もう、百合婆ちゃんにも迷惑をかけない。自分の力で自分の人生を掴むんだ!